058 幼女は全力で謝ります
「ごめんなさい!」
私は腰を90度曲げて、メイドのお姉さんに謝罪する。
「スミレ。アンタも謝りなさい」
そう言って、リリィがスミレちゃんの頭を掴んで、無理矢理頭を下げさせる。
「頭を上げて? 私が勘違いしたのが悪いのだから」
「ううん。全面的にスミレちゃんが悪いもん!」
「そうよ。スミレが悪い」
「私はただ――」
「スミレちゃん! 言い訳しないの!」
「うぅ……。はいなのですよ。申し訳なかったなのよ」
スミレちゃんは渋々といった顔をして、メイドのお姉さんに謝罪した。
「イエスロリータノータッチ! はいスミレ。繰り返して!」
「イエスロリータノータッチなのよ!」
ちょっとリリィ?
何処で覚えて来たのその言葉?
って、今はそんな事どうでも良いよね。
さて、何故私がメイドのお姉さんに謝っているのかと言うと、こんな事があったからだ……。
◇
メイドのお姉さんに事情を聞かれた私は、詰所の兵隊さん達が来るからと、一度皆と一緒に場所を移す事になった。
そして、人気のない場所まで移動して、私とスミレちゃんの関係を説明した。
「まさか、魔族を仲間にするなんて、貴女凄いわね」
「仲間じゃなくて友達だよ」
私がそう返すと、メイドのお姉さんが一瞬驚いた顔をして、柔らく微笑んだ。
「ふふ。そうね」
「だから言ったなのよ。私は人を襲わないなのって」
「すまなかったわ」
メイドのお姉さんがスミレちゃんに頭を下げる。
とにかく、勘違いが解けて良かったよね。
でも、勘違いされても仕方がなかったかもだよね。
スミレちゃんの見た目って、もの凄く魔族魔族してるし。
「それにしても、あなた凄いわね。その歳で、あんな高度な魔法を使うなんて」
「えへへ。そうかなぁ」
褒められて、私は上機嫌になる。
「ジャスミンの魔法は、まだまだあんなものじゃないわよ」
ちょっとリリィ、やめてよぉ。
恥ずかしいよぉ。
と、思いつつも顔がにやける私。
「ジャスミンと言う名前なのね?良い名前ね」
「うん。ジャスミン=イベリスだよ。よろしくね。お姉さん」
私が名乗ると、メイドのお姉さんがスカートの裾をつまみ、スカートを広げてお辞儀をした。
「私はアマンダ=M=シーよ。よろしくね」
カーテシーの挨拶だ!
生で見たの初めてだよ!
きゃー!
可愛い!
メイドのお姉さん改め、アマンダさんの挨拶を見て私は大興奮だ。
そして、私がキャーキャーとなってる横で、リリィとニクスちゃんも自己紹介をする。
「リリィ=アイビーよ。よろしくね」
「ウチは、ニクス=スワロー言います」
ニクスちゃんが名前を言い終ると、リリィが「それで」と話をきりだした。
「なんでアマンダはスミレを襲ったの? 魔族だから?」
「それもそうなのだけど……そうね。順を追って説明するわ」
順を追って?
どういう事だろう?
「あれはそう、ジャスミンに財布を拾って貰った後の事だわ。詰所を出た時に、魔族の魔力を感じ取ったのよ」
アマンダさんは、魔力を感知できるタイプの人なんだ。
凄いなぁ。
「それで、その魔力を追って行った所に、スミレがいたの」
うんうん。と私は頷く。
「スミレは女の子に何か話けていたと思ったら、急にしゃがみこんで女の子のスカートを捲り出したわ」
うんうん?
あれれ?
なんだか雲行きが怪しくなってまいりましたよ?
「女の子が震えながら怯えてその場を立ち去ろうとした時に、スミレが女の子のスカートを引っ張って、その拍子にスカートが脱げたの」
犯罪だーっ!
おまわりさーん!
事案だよ!
最低で最悪だよ!
何やってるのスミレちゃん!
擁護出来る要素が微塵もないよ!
もうそれ、魔族だとか関係ない、ただの犯罪者だよ!
「アンタが悪いんじゃないのよ!」
リリィが、スミレちゃんの頬を、グーパンでバチコーンと激しく殴る。
リリィは人の事言えないよね?とも思ったが、それは今は置いておく。
ニクスちゃんはドン引きして、ゴミを見るような目でスミレちゃんを見る。
「ま、待ってなのよ! それには理由があるなのよ!」
「スミレちゃん……。一応聞いてあげるね」
「さすが幼女先輩なのですよ!」
私は、どうせろくでもない理由なんだろうなと思いながらも、一応言い訳を聞いてあげる事にした。
「幼女先輩と別れて聞き込みをしていた時に、私は良い事を思いついたなのです」
「良い事?」
「はいなのです。女の子の匂いを嗅いで、本当の事を喋っているのか、嘘を喋っているのかを見破るという作戦なのです」
「うん。……うん?」
「それで、丁度あの時もそうだったなのです。私好みの可愛い女の子がいたから、聞き込みをした時に嘘かどうか調べる為に、スカートの中の匂いを嗅ごうと」
「結局アンタが悪いんじゃないのよ!」
バチコーンと、またもやリリィがスミレちゃんを殴る。
うん。
そうだね。
リリィも人の事言えないけど、概ね同意だよ。
って言うか、私好みのって、完全に私欲しかないよ。
もうそれ、絶対聞き込みとかどうでもよくなってるやつだよね?
「で、でも、嫌よ嫌よも好きのうちって言葉があるなのよ」
「そんな言葉、聞いた事も無いわよ!」
リリィに怒られて、スミレちゃんがしゅんとなる。
うん。
まあ、そうだよね。
前世の世界には、そう言った言葉もあったけど、こっちの世界では聞いた事ないもんね。
と言うか、あったとしても言い訳にもならないけどね。
それにしても、今の話を聞く限りだと、スミレちゃんが完全に犯罪者だよ。
本当にろくでもない理由なんだもん。
なにされても、もんくなんて言えないよ。
私は、ため息を一つしてからスミレちゃんを見る。
凄く凹んでいるようで、元気がなくなってしまっている。
うーん。
仕方がないなぁ。
そんなわけで、私はアマンダさんの前に立つと、腰を90度曲げてごめんなさいをしたのだった。




