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005 幼女の友人はリリィ

 こうやって、前世の記憶を思い出してから改めてリリィを見るとわかる事だけど、リリィも私同様に美少女だ。

 腰まで届く薄い黄緑がかった髪も、綺麗な黄緑の瞳をした細めの目や綺麗な顔立ちも、少し高めの身長に女の子らしい肉付きをした肌も、どれをとっても美少女と言える。

 前世では可愛い子は可愛い子で集まるって、誰かから聞いた事あったけど、本当にその通りだなと感心してしまう。


 まあ、それはともかくとして、せっかくリリィを部屋に招き入れた事だし、そろそろ本題に入ろう。


「信じて貰えないかもしれないけど、でもリリィには聞いてほしいんだ」


 私がそう切りだすと、リリィは真剣な顔で私を見つめた。


「えっとね。……実は私、前世の記憶が甦ってしまったの」


「え?」


「昨日、崖の下が見えない位に高い所から落ちて、その時に頭を強くうってしまったみたいで、それで前世の事を思い出したんだと思う」


「下が見えない位の高い所から落ちたって……。崖から落ちたのは昨日聞いていたけど、そんな高い所から落ちて、よく無事だったわね? それで、あんなにボロボロだったのね。ジャスミンが気を失ってる間に、お医者様に回復魔法を使って貰ったけど……。それで、体は大丈夫なの? まだ痛い所無い?」


「うん。それは大丈夫だよ。大きい木が崖の下にあって、運良く木の葉っぱや枝がクッションになって助かったの。心配してくれて、ありがとうリリィ」


 私は、本当に心配そうに見つめてくれるリリィに微笑む。


「私の前世ってね、男だったんだ。だから、だからね。私は今までのジャスミンじゃないの」


「男……」


 リリィが私から視線を落として、俯いてしまった。

 それは仕方がない事だろう。

 私だって、もしリリィがそんな事になってしまったら、きっとショックを受けてしまう。


 でも、それだと言うのに、私は少し嬉しかった。

 だって、リリィは私の言う事を虚言だと言わずに、信じてくれているのだから。

 だから、信じてくれるリリィが、本当に嬉しいのだ。


 でも、嬉しいなんて言ってられない。

 私は、リリィにこの事実を受け入れてほしい。

 そして、相談に乗ってほしい。

 だから私は話を続ける。


「それで、リリィに相談に――」


「前世が男って事は、結婚できるって事よね!?」


「――はい?」


 ん?

 今なんて言ったこの子?

 結婚?


 話の途中で、突然リリィが興奮して私の両肩を掴んで揺らす。


「あ、あの。リリィ?」


「私前々から思ってたのよ。何で私は、ジャスミンと同じ性別で生まれてきちゃったんだろうって!」


「んんー?」


「だってそうでしょ? ジャスミンはこんなに可愛くて魅力的なのに、私も同じ女の子だから結婚できないじゃない!?」


「あ、はい」 


「それって不公平じゃない!? たしかに女の子同士じゃ、子孫は残せない。でも、だからって、それで同じ性別じゃ愛し合う事すら出来ないなんて間違ってるわ!」


「うーん……」


 まあ、たしかに前世の私は、女の子同士でイチャイチャしてたアニメや漫画が大好きでしたけど?

 それに世の中には、そういった人達がいるのも事実だし、私は特に気にする事も無かったけど?

 え?

 って言うか、リリィって実はそっちの人なの?


「だから思ったのよ! もし許されるなら、私はいつかジャスミンと愛を育みたいと!」


「……そうだったんだ?」


「そうなのよ! だから、これは人生最大の好機だわ!」


 リリィは天を仰いで、拳をグッと握る。


 って言うか、私よりよっぽどリリィの方が、性格変わってない?

 若干引くくらいに、勢いがやばくない?

 もの凄く鼻息荒くなってるし。


「ジャスミンは可愛い女の子なのは変わらないけど、女の子であり男の子って事で良いのよね!?」


「ん? うん?」


「決めたわ! 私は、リリィ=アイビーは、ジャスミンと結婚するわ!」


「ええーっ!?」


 私は何故かのリリィのカミングアウト劇場を目のあたりにして、当初の予定を忘れて絶句する。

 と言うか、前世は好きな百合展開も、実際に自分が当事者にさせられると感情が盛り上がらないなとわかりました。


「それはそうと、ジャスミン」


「うん?」


「何で崖なんかに行ったの? ジャスミンのお母様とお父様に、近づいたらダメって、言われていたでしょう?」


「え? あ、うん。リリィの事が心配になって、別れた後にフラワーサークルに戻ったの」


「そう。なら、その時に行ったのね?」


「ううん。崖に行ったのは、フラワーサークルまで1人で行った後なの」


「帰りも同じ道で帰ればよかったじゃない。何でまたそんな危険な所を通ったの?」


「リリィがね、もしかしたら崖を通って戻ったんじゃないかなって。それで、リリィの事が、心配になったの」


「それで、崖から戻ろうと考えたのね」


「えへへ」


「もう! お馬鹿なんだから!」


 私はリリィにギュッと抱きしめられる。


「それで、ジャスミンが危険な目にあったら駄目じゃない!」


「うん」


「本当にジャスミンが無事で良かったわ」


 良かった。と、私は安心した。

 何故なら、さっきまで急に別人の様に変わってしまったリリィは、いつもの優しいリリィに戻っていたからだ。


「それで、私に相談って言うのは何なの?」


「あ。そうだった」


 私はすっかり相談の事を忘れていたけど、リリィはしっかり覚えていてくれたようだ。


「えっとね。私、前世の事思い出して、今まで通りには生活出来ないって思ったの。それで、これからどうしようかなって……」 


「今まで通りには生活出来ない……か。たしかにそうよね。ジャスミンの雰囲気と言うか、印象かな? 少し変わった気がするもの。なんだか昨日より落ち着いていて、大人びて見えるわ」


 さっきの騒動で、リリィの印象の方がよっぽど変わったと思ったけど、それは黙っておく事にした。


「そうね。とりあえず、今まで通りとはいかないかもしれないけど、普通に生活してみたら良いんじゃないかしら?」


「普通に生活?」


「そうよ。今までと変わってしまったって言っても、それで何か支障が出るかなんてわからないし、今問題が起こっているわけではないでしょう?」


「うん」


「それに、私達だっていつかは大人になるでしょ? きっと大人になったら、その頃には、そんな悩みなんて無くなっちゃってるわよ」


「そうかな?」


「きっとそうよ!」


 うう。

 なんて、頼もしいんだろう!


 と、私は目を輝かせてリリィを見た。

 同じ9歳とは思えない程に、頼りになる大親友が眩しい位に輝いて見える。

 前世の記憶が甦ったとは言え、私は今9歳という幼い少女だ。

 昨日までの自分、それどころか前世の自分にも、ここまで物事を大きく捉える事は出来ない。


 やっぱり、リリィに相談したのは正解だったんだ。


 そこで、これからの不安が無くなった私は、ふと思い出す。


「そう言えば、忘れ物って何だったの?」


「え? 忘れ物?」


「うん」


「去年の誕生日に、ジャスミンから貰ったハンカチよ」


「ああ。あれだったんだ。見つかったの?」


「それが、結局暗くて何処に落としたか分からなくって、見つけれなかったの。それで、実は今日この後、探しに出かけようと思ってたのよ」


「そうだったんだ。それなら、今から一緒に探しに行こうよ」


「良いの?」


「うん。相談を聞いてくれたお礼」


「うふふ。それなら、お言葉に甘えちゃおうかしら」


 そんなわけで、私とリリィは再びフラワーサークルへと出かけた。

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