049 幼女の愛は危機を救う
楽しいはずのチョコの実狩りが、大変な事になってしまった。
ゴブリン達が、次々と眠った女性を抱え上げ、何処かへ連れて行こうとしている。
何人か倒れていない人もいたけれど、ゴブリン達の数には勝てなくて、押さえ付けられて身動きがとれないでいた。
馬鹿な事考えてる場合じゃないのに。
私は、ゴブリンの事を甘く見過ぎていたんだ。
抵抗してる大人の人達が、あんなにも為す術無く、簡単に押さえ付けられちゃうなんて。
私は眠気を必死で抑えながら、大きなゴブリンからルピナスちゃんを隠すようにして立つ。
本当にどうしよう?
そもそも、ゴブリンの数が多すぎるよ。
それに、眠気が凄い。
これじゃあ、ゴブリンだけを狙って魔法で攻撃するなんて出来そうにないよ。
「中々ニ上玉ガ揃ッテイルギャ。暫ラクハ退屈セズニスミソウダギャ」
そう言って大きなゴブリンが、私とルピナスちゃんに近づいて来た。
「ギャッギャッギャッ。オ前、小娘ノ分際デ我等ノ能力ニ耐エルトハ、生意気ダギャ」
「能力?」
「ソウダ! 我等ゴブリンノ能力、食ベ物ニ触レルト食ベ物ニ睡眠効果ヲ宿ス事ガ出来ル能力ダ!」
変な臭いと変な味の正体は、それが理由だったんだ。
「シカモコノ効果ハ、一度眠ッテシマウト我等以外デハ、起コス事ガ出来ナイノギャ!」
じゃあ、眠ってしまったら、もうお終いなんだ。
焦りを感じた私は大きく息を吐く。
そして、ギュッと握り拳を握った、
大丈夫。
落ち着け私。
まだ大丈夫だから。
私は震えていた。
目の前で、押さえ付けられる人や、抱えられて連れてかれる女性達を見て恐怖していたのだ。
今までをは全く違う魔族との遭遇の仕方で、心の底から本気で怖いと感じた。
もしかしたら、私が眠いのを我慢できる理由の一つは、この恐怖なのかもしれない。
考えろ。
考えるんだよ私。
何かこの場を切り抜けられる方法があるはずだよ。
私は眠気を紛らわす為に、ごしごしと目をこする。
「ギャッギャッギャッ。限界ノヨウダナ? サアテ、ジックリ楽シマセテヤルゾ」
「ジャスミンお姉ちゃん」
ルピナスちゃんが心配そうに、私の顔を覗き込む。
ルピナスちゃんだけでも逃がさなきゃ。
「大丈夫だよ」
私はルピナスちゃんの頭を撫でる。
ルピナスちゃんが、睡眠効果のあるチョコの実を食べなくて良かった。
これなら、ルピナスちゃんだけでも逃がせるかもしれない。
ルピナスちゃんの嗅覚に感謝だよ――嗅覚?
「あっ!」
その時、光明が見えた。
私は思い出したのだ。
そうだ。
そうだよ!
私は口に指を当てて、思いっきり指笛を吹いた。
「小娘、ドウシタンダギャ?」
ゴブリンの質問に対して、私は不敵に笑みを浮かべて返す。
そしてその時、ゴブリンが背後から殴られて、おもいっきり吹っ飛んだ。
「お待たせしましたなのですよ。幼女先輩」
「スミレちゃーん! 怖がっだよー」
私は泣きながらスミレちゃんに抱き付いた。
実際に本当に怖かったので、涙腺崩壊だ。
今回ばかりは、ルピナスちゃんがいる手前、不安を隠すので精一杯だった。
「もう安心なのです!」
スミレちゃんはそう言って、周囲を見まわした。
「状況はだいたい把握したなのですよ! 後は任せてなのです!」
「うん! スミレちゃんかっこいいよ! 愛してるーっ!」
私がキャーと黄色い声援を送ると、デレデレな顔でスミレちゃんが頭を掻いた。
すると、そこで大きな声が響き渡る。
「ちょっと待ったー!」
「え?」
大きな声のする方を見ると、なんと眠っていたはずのリリィが立ち上がっていた。
え?
リリィ?
あれ?
眠ってなかった?
私は目を丸くして驚き、立ち上がったリリィを見る。
「スミレ! 私ですら、ジャスミンに愛してるなんて言葉を言われた事が無いのに、どういう事よ!?」
リリィがスミレちゃんに凄む。
「あ、あの。リリィ?」
私がオロオロする中、リリィに凄まれたスミレちゃんが胸を張って余裕の笑みを見せる。
「ふっふーん。羨ましいなの?」
ちょっと、スミレちゃん何で煽ってるの!?
「羨ましいわよ!」
うん。
私、リリィのそういう正直な所好きだよ?
でも、ちょっと待って?
「ね、ねえ。リリィ? さっき、眠ってたよね? 眠ったふりをしていたわけじゃないよね?」
眠ったふりをしていたとは、私には思えない。
仮にそうだとしても、そんな事をする理由が見つからない。
その時、スミレちゃんに吹っ飛ばされた大きいゴブリンがリリィに迫る。
「ドコノ誰ダカ知ラネエガ、オデニ手ヲ上ゲルトハ、良イ度胸ダ」
大変!
ゴブリンが勘違いして、リリィを襲おうとしてる!
「リ――」
リリィ逃げて! と、私がそう言おうとした時だった。
私の目の前で、驚くべき光景が広がった。
なんと、リリィが「煩いわね!」と言って、大きいゴブリンを上段回し蹴りで再び吹っ飛ばしたのだ。
「え?」
私は起きた事に頭がついていけなくなり、目を丸くしてポカーンと口を開けて硬直する。
「眠ってたわよ。でも、ジャスミンのスミレへの愛の囁きを聞いて、眠ってなんかいられないでしょう!? 私は、2人の交際なんて認めないからね!」
「ええーっ!?」
愛してるって言ったけど、そういう意味じゃないよリリィ!
それに、眠ってなんかいられないとか、そんなので起きれちゃうものなの?
ゴブリンじゃないと起こせないんじゃなかったの?
って言うか、そん事より今の何!?
リリィって、そんなに強かったの!?
あの大きなゴブリンが、口から泡吹いて気絶してるよ!
もう、リリィが人間離れしすぎて意味が解らないよ!
私は怒濤の驚きオンパレードで、いつの間にか完全に目が覚めました。




