048 幼女に這い寄る緑の影
さて、皆さんお待ちかね?チョコアイス作りのお時間です。
調理をするのは、私とリリィの2人。
たっくんがオぺ子ちゃんとお話がしたいと言うので、2人だけで散歩に行かせてあげる。
すると、ルピナスちゃんとブーゲンビリアお姉さんは目を輝かせて、それを尾行しに行ったのだ。
でも、ルピナスちゃんが恋バナ好きだったのは、ちょっと意外だったかも。
凄く目をキラキラさせて、2人を見に行っちゃったもんなぁ。
ちょっとだけ驚いちゃった。
それに驚いたと言えば、ブーゲンビリアお姉さんだよね。
ルピナスちゃんは純粋な目だったけど、ブーゲンビリアお姉さんの目は確実に腐ってたよ。
そんなわけで、私は4人を見送ってから、リリィと一緒に調理を開始する事にした。
ちなみに、パパは眠ったままでいる。
体調不良だったし、私は眠らせてあげようと思って、そのままにしてあげたのだ。
「よーし。始めよっか」
「ええ。まずはどうしたらいいの?」
「えっとね。このボールにチョコの実と、この特製ミルクを入れるんだけど、チョコの実は入れる前に、ちゃんと皮をむくんだよ」
「わかったわ」
私とリリィは、早速チョコの実の皮むきに取り掛かる。
少し経つ頃に、リリィは「ふぅ」と一息ついて、話しかけてきた。
「チョコの実の皮って、思っていたよりもむき辛いのね」
「あ。そっか。リリィのも魔法を使ってあげるね」
「魔法?」
「うん」
私は頷くと、リリィが皮をむいているチョコの実に、氷の魔法をかける。
「わあ。凄い凄い」
私が魔法をかけた事によって、チョコの実が冷えて皮をむきやすくなったようで、リリィは目を輝かせた。
チョコの実の皮をむき終わる頃に、リリィが「そう言えば」と言葉を続けた。
「ジャスミンは、いつの間に料理が出来るようになったの? 小母様の料理のお手伝いなんて、していなかったでしょう?」
私は調理を続けながら、リリィの質問に答える。
「あー。たしかにママの料理のお手伝いは、した事なかったかも」
私はママの料理のお手伝いなんて、危ないからダメと言われてした事が無かった。
何が危ないのかと言うと、包丁だったり火を扱う事だったりだ。
それもそうかと言う単純な話で、私は9歳とまだ年齢的には幼いから納得の理由だ。
そんな私だけど、料理、正確にはお菓子などのデザートを作れるのには理由があるのだ。
「リリィも知ってるけど、私の前世って男だったでしょ?」
私は話ながら、お鍋の中に魔法で水を注いでいく。
「そうみたいね」
「その時に、料理ができる男はモテるって流れがあって、料理が出来る男の人が増えていったの。それで、当時の私は考えたの」
「うん」
水をお鍋に注ぎ終わると、今度はチョコの実が入っているボールをそこへ入れた。
「女の子は甘い物が好きなんだから、料理なんかより、デザートが作れる方がモテるんじゃないかって」
そこで私は、わざと顔をキリッとさせる。
リリィは私の顔を見て、クスクスと笑った。
「それで、ジャスミンは女の子にモテたの?」
「ただしイケメンにかぎる。だよ」
「なにそれ?」
「何事もイケメン以外がやっても意味がないって言う、悲しい言葉だよ」
「そ、そうなの?」
「うん。そうなんだよ。あ。リリィ、火をお願い」
「ええ。わかったわ」
リリィは頷くと、魔法で火を熾した。
「ありがとー」
少し経つと、チョコの実が溶けてきたので、焦がさないように混ぜ混ぜする。
チョコの実を混ぜ混ぜしながら、私は特製ミルクを入れて、更に混ぜ混ぜする。
実は、この特製ミルクが凄いのだ。
この特製ミルクがあれば、砂糖も必要なくなってしまう。
前世の世界には無いこの世界だけの、本当に特別な特製ミルクなのだ。
しかも、この特製ミルクのおかげで、チョコアイスを食べた時の口どけが確実に良くなる優れものだ。
私が丁寧に混ぜ混ぜしていると、急に周囲がざわつきだす。
「ねえ、ジャスミン。何だか様子がおかしいわ」
「え?」
私は一旦調理を中断して、周囲を見まわした。
すると、人が何人も次々と倒れていく姿が見えた。
え? 何?
何が起きてるの?
「……あれ? わたし、何だか眠く……」
そう言って、リリィが突然倒れる。
「リリィ!?」
私は倒れたリリィを抱きかかえて、気がついた。
「あれ? 眠ってる?」
リリィが眠ってしまった事に気がついた私は、体を揺すったり、名前を呼び掛けたりする。
だけど、リリィは起きる気配が全くなくて、まるで死んだように静かに眠ってしまっていた。
どうしよう。
これ、かなりやばい気がするよ。
周りの人も、どんどん眠っちゃってるみたいだし、本当に何が起きてるの?
そうだ。
パパは……。
私はパパを見たけど、パパはまだ眠りつづけていた。
もしかして、パパもリリィみたいに眠っちゃったんじゃ?
私は不安になって、何度も周囲を見まわした。
眠っていない人達も私と同じで、焦り顔で周囲をキョロキョロと見まわしている。
皆、どうすればいいかわからないんだ。
本当にどうしよう。
もしかしたら、私もリリィとパパや皆みたいに……。
私が不安な気持ちに押し潰されそうになっていたその時、聞き覚えのある声が私の名を呼んだ。
「ジャスミンお姉ちゃん!」
その言葉に振り返り、私を呼ぶその子の姿を見て、不安な気持ちが和らいだ。
「ルピナスちゃん!」
良かった。
ルピナスちゃんは無事だったんだ。
「変なのがいっぱい来たよ!」
「変なの?」
私がルピナスちゃんの言葉を繰り返したその時、物陰からゴブリン達がずらずらと姿を見せた。
「ゴブリン!?」
あれってゴブリンだよね?
間違いなくゴブリンだよね?
前世で、漫画とかアニメとかで何度も見た姿そのまんまだもん。
漫画やアニメで見た姿。
それは、身長が私達子供と同じ位で、肌が緑色で、着ている物は腰に布だけ。
そのゴブリンが、大量に現れたのだ。
「ジャスミンお姉ちゃん、どうしよう?」
ルピナスちゃんが私の手を掴んでギュッと握る。
私はそれで、しっかりしなきゃと自分に喝を入れようとしたが、その時ついに恐れていた事がおこってしまった。
「……あれ?」
眠い。
もの凄く眠い。
私は眠気を覚ます為に、頭をぶんぶんと強く横に振る。
「ジャスミンお姉ちゃん?」
「だ、大丈夫だよ」
私は眠気を我慢して、無理矢理笑顔を作ってルピナスちゃんに笑いかける。
その時ゴブリン達の背後から、他のゴブリン達より一回り大きいゴブリンが現れた。
「ギャッギャッギャッ。ナンニンカ効イテナイノモイルガ、効果ハ絶大ミタイダギャ」
「喋るゴブリン? ……あ」
そこで私は気がついた。
喋る大きなゴブリンはオぺ子ちゃんを、リリオペを抱えていたのだ。
うんうん。
わかるわかる。
すっごくわかるなぁ私。
オぺ子ちゃん可愛いもんね。
って、眠くてそれどころじゃないでしょ私のバカ。
「同胞達ヨ! 全テノ女ヲ捕エロ!」
「「ギャギャーッ!」」
ゴブリン達が雄叫びを上げる。
そして、倒れている女の人だけを一斉に捕まえだした。
嘘でしょー!?
これ、間違いなく薄い本が厚くなっちゃうやつだよ!
あれ?
でも、オぺ子ちゃんだと……。
ごくり。
あ。ダメダメ。
しっかりしろ私!
オぺ子ちゃんには、ラークがいるんだから!
って、そうじゃない!
こんなに眠くてやばい状況なのに、何考えてるのよ!?
腐ってる場合じゃないよ私!




