047 幼女は腐った三角形を発見する
ルピナスちゃんに手を引っ張られて調理場まで戻って来て、私は少し驚いた。
何故なら、荷物番をしているパパの近くに、女装をしたリリオペがいたからだ。
あれ?
パパ眠ってる?
大丈夫って言ってたけど、やっぱり大丈夫じゃなかったんだなぁ。
リリオペは何してるんだろう?
リリオペは椅子に座って、退屈そうな顔をして、机に並べられているチョコの実を食べているようだ。
ラークがいないから、つまらないのかな?
私がじっと見ていると、リリオペが私の視線に気が付き、ニコッと笑って小さく手を振った。
その姿は、まるで可憐な少女だ。
リリオペ可愛い。
もの凄く女の子だよぉ。
私もリリオペに笑顔で小さく手を振る。
すると、リリィもリリオペに気がついて、私の横に並んだ。
そして――
「ジャスミン。来て」
「え? わぁ!」
突然リリィに私はお姫様だっこされる。
私はお姫様だっこされた勢いで、ルピナスちゃんの手を離した。
そして、リリィが私をお姫様だっこしたまま、その場から走り出した。
お姫様だっこ!?
うう。
恥ずかしいような嬉しいような。
なんだろうこの気持ち?
何かに期待してるのかな?
でも、何に期待してるの私!?
ううん。
落ち着いて私!
急にどうしちゃったのか、ちゃんと聞かなきゃだよね?
私は体温が熱くなるのを感じながら、勇気を振り絞る。
「リリィ。ど、どうしたの?」
勇気を出して訊ねると、リリィはリリオペを見て呆れ顔で答えを返してくれた。
「どこで着替えてきたのかわからないけど、こんな所であの格好はまずいでしょう?」
「あ、あー。うん。そうだね。あはは」
今度は恥ずかしさでいっぱいだよ!
私のバカ!
冷静になってみると、リリィが私をお姫様だっこしながら走る先には、リリオペがいたのだ。
私は冷静になった事で、リリィの言った事について考える。
こんな所であの格好って言うけれど、気にしなくていい気がするよ。
だって、今のリリオペは男の子に見えないんだもん。
可愛いし、大丈夫だと思うんだけどなぁ。
リリオペの側まで来ると、私はリリィに下ろされた。
そして、リリィが円陣を組む様に私とリリオペの背中に手をまわして、こそこそと話し出す。
「リリオペ。どういうつもりで、その格好をしているの?」
「え? えーと。昨日2人に服を選んでもらったでしょ? だから、汚れるかもと思ったんだけど、せっかくだし着てみようかなって」
「うん。よく似合ってるよ」
「ありがとう」
リリオペはニコッと笑う。
本当に可愛いなぁ。リリオペ。
生まれて来る時に、性別間違えちゃったのかな?
って、本気で思えちゃう。
私とリリオペの話を聞いていたリリィが、呆れた顔をしてリリオペを見た。
「そうね。たしかに似合っているわよ。だけど、女装の事は内緒にしているのでしょう?」
「う、うん。そうなんだけどね。ははは」
「まあいいわ。それならリリオペ、貴方は今からオぺ子ちゃんよ」
オぺ子ちゃん!?
突然のリリィの案に、私は目を丸くした。
オペ子ちゃんだなんて、日本人みたいなあだ名つけるんだね?
やっぱりリリィは、私よりよっぽど転生者っぽいよ。
「オぺ子?」
リリオペが難しい顔をして考える。
「そう。オぺ子ちゃんよ」
「わかった。気にいったよ。それでいこう」
え?
気にいったの?
そっかぁ。
気にいったなら、それで良いよね。
リリィが円陣を解いて、ルピナスちゃんとブーゲンビリアお姉さんとたっくんがいる方を向く。
私とリリオペ改めオぺ子ちゃんも、リリィ同様でルピナスちゃん達がいる方を向いた。
いつの間にかルピナスちゃん達も私達に近づいていたようで、私達の事を不思議そうな目で見ていた。
リリィはルピナスちゃん達の顔を見ると、ニコッと笑って、オぺ子ちゃんの背中を軽く押した。
「紹介するわ。この子はオぺ子ちゃんよ」
「オ……ぺ子ちゃん」
ん?
私はオぺ子ちゃんの名を呼んだ人物を見る。
たっくん?
たっくんはオぺ子ちゃんを見て、少し顔を赤らめていた。
こ、これはまさかなの!?
私がたっくんの思わぬ反応に驚いていると、ブーゲンビリアお姉さんとルピナスちゃんが、私達の側によって来た。
そして、こそこそと小声で話し出す。
「ねえ。だいぶ可愛くなっちゃってるけど、リリオペくんだよね?何で女の子の格好をしているの?」
「オぺ子お姉ちゃんから、リリオペお兄ちゃんの匂いがするよ」
2人とも凄い!
さすがって感じだよ。
「仕方がないわ。この2人には、事情を話しましょう」
「え。でも……」
私は心配になってオぺ子ちゃんを見る。
すると、オぺ子ちゃんと目が合って、オぺ子ちゃんは私に柔らかく微笑んでこくりと頷いた。
「うん。構わないよ。下手に隠すより、そっちの方が良いかもしれないしね」
「そっか。オぺ子ちゃんが良いなら」
そんなわけで、2人に説明を始める。
そして、たっくんを放置するのもどうかという事になって、何故か当事者であるオぺ子ちゃんにたっくんを任せる事になった。
説明を終えると、私達はオぺ子ちゃんとたっくんのもとまで向かう。
そして、2人の側まで行くと、たっくんが私達に気がついて話しかけてきた。
「知らなかったよ。リリオペに、こんな可愛い双子の妹がいたなんて」
え?
双子の妹?
「病弱で普段はベッドで寝ているんだってね? それで、ジャスミンがオぺ子ちゃんの為に、チョコアイスを作ってあげようと思ったんだね」
え?
何それ?
そう言う設定にしたの?
オぺ子ちゃん!
「オぺ子ちゃーん」
と、そこでリリィがオぺ子ちゃんを手招き。
オぺ子ちゃんは額に汗を流して、早足でリリィに近づく。
「どういう事?」
うわ。
リリィ、目、目。
すっごい怖いから笑って?
「い、いやあ。色々聞かれちゃって、うっかりと」
「オぺ子ちゃん? あなた、自分の立場をわかっているの?」
「そ、そうなんだけど。女の子として接してくれるから、なんか嬉しくなっちゃってさ」
うんうん。
オぺ子ちゃん、すっごく可愛いもんね。
女の子より女の子してるもん。
リリィがため息をついて、オぺ子ちゃんをジト目で見た。
あ。
リリィのジト目も可愛いかも。
私が呑気にそんな事を考えていると、たっくんが私に近づき、こそこそと話しかけてきた。
「なあ。ジャスミン」
「なあに?」
私は念の為、リリィとオぺ子ちゃんの会話が、たっくんに聞こえないように距離をとる。
「オぺ子ちゃんって結構大人びて見えるのに、ジャスミンと同い年なんだろ?」
「う、うん」
「どうしよう。結構歳が離れちゃってるんだよなぁ……」
これは、やっぱりそう言う事なんだね。
うーん。
たっくんは普通にまともな大人の人だと思っていたけど、そっかぁ。
でも、仕方がないよね。
うんうん。
わかるわかる。
前世の私もそうだったもん。
うんうん。
オぺ子ちゃんを見つめるたっくんを見て、私は冷めた目でたっくんを見た。
ロリコン誕生だよ。
って、あれ?
オぺ子ちゃんはリリオペで男の娘だから、ロリコンじゃなくてショタコン?
でも今のオぺ子ちゃんは女の子の格好をしたリリオペだから、実質女の子なわけで?
いやでも、オぺ子ちゃんは…………。
うん。
考えるのは止めよう。
こうして、ラークとリリオペ(オぺ子ちゃん)とたっくんの、腐の三角関係が始まりました。




