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044 幼女は気合を入れて出かけます

 天気は快晴。気温は良好。

 絶好のチョコの実狩り日和である。


 いよいよ待ちに待ったチョコの実狩り当日の朝。

 私はパパとママより先に目を覚まして、チョコの実狩りに行く準備を開始する。

 作業用の軍手に、チョコの実を持ち帰る為の大きめの袋。

 チョコの実にぴったり合う美味しい紅茶。

 ハンカチにティッシュにと、次々と確認しながら鞄に詰め込んでいく。


「うーん。何か忘れてる気がするんだよね」


 私はキョロキョロと周囲を確認する。


「あ。これだ! うんうん。この本が大事なんだよぉ」


 私はそう言って、見つけた本を手に取った。

 実は昨日、リリィと町を歩いていた時に、チョコの実をチョコアイスに出来ないかと考えたのだ。

 私はとある理由から、チョコアイスの作り方を知っていたのだけど、念の為にと本を探して買ったのだ。

 そして、念の為に買った私の判断は正しかった。

 何故なら、チョコの実の調理方法についても、ちゃんと丁寧に載っていたからだ。

 おかげで、失敗せずに美味しいチョコアイスが作れそう。


「私の氷魔法が、こんな形で役に立つ時が来るなんて。氷魔法が使えて良かったよ」


 それから、必要な調理道具や食材も忘れずに鞄に詰め込んでいく。


「大荷物ね」


 必要な物を全部鞄に詰め込んだのを、眠そうなママがあくびをしながら見て呆れる。


「ママおはよー。眠そうだね」


「うんおはよう。昨日はリリィちゃんのママ達と、夜遅くまでお話しちゃったからね」


「ふーん。あ。ママにもチョコアイス食べさせてあげるからね」


「あはは。ありがと」


「うん」


 それから少しして、パパを起こして集合場所まで向かった。





 村の皆が集合場所に全員集まると、村長の合図で出発となった。

 移動は列を作らずにバラバラで、みんな自分のペースで歩いて行く。

 でも、一つだけ決まっていて、先頭は村長の息子さんが歩いて、最後尾は村長が歩いていた。

 だから、道さえ外れなければ、問題なく目的地に着ける。

 それって大丈夫なの?って思うかもしれないけれど、今までそれで大丈夫だったから、今更列を作って移動はしないのだ。


「ジャスミン。やっぱり、パパが荷物を持つよ」


「大丈夫だよ。パパは昨日飲み過ぎてフラフラだもん。心配しないで」


 チョコ林まで3時間も歩くので、何度もこんな感じでパパとやり取りをしていた。

 実際にパパの言う通り、大荷物を長時間持って移動するのは、私には大変な事だった。

 でも、そこはさすが私なのだ。

 私は周りに気付かれないように、こっそり魔法を使って荷物を浮かせて、荷物を背負っているように見せていたのだ。

 だから、パパには悪いけど、心配しなくても大丈夫なのだ。


「ありがとうジャスミン。パパの事を心配してくれるんだね」


「アナタ。本当に顔色が悪いわよ?」


「え? そうかい? 大丈夫さ。ちょっとめまいがするくらいだ」


「パパ。それ大丈夫じゃないよ」


「ごめんジャスミン。ママ、今からパパを連れてリリオペくんのママの所まで行って、パパを見てもらってくるわね」


「うん」


 私も前世で一回あったなぁ。

 結構きついんだよね。


 パパとママを見送り、再び歩き出す。

 そうして暫らく歩いた頃に、たっくんが私の横に並んで話しかけてきた。


「ジャスミンおはよう。おじさんの言った通りだ。随分重そうな荷物だね?」


「おはよー。パパに会ったの?」


「さっきね。それで、ジャスミンの荷物を持ってあげてほしいって頼まれたんだ」


 そう言って、たっくんが私の荷物を持ちあげる。


「あ」


 私は慌てて魔法を解く。


「うわ。本当に重いなこれ。ジャスミン、今までよくこんな重い荷物を背負っていられたね?」


 魔法を使っていましたから。


 なんて言えるわけも無く、私は苦笑いしておく事にした。

 私が使う魔法の事は、出来るだけ隠しておきたいのだ。

 ラークに知られちゃってる時点で、すでに遅いとは思うけれど、隠しておきたいのには理由があった。

 実は、オークをこらしめた時に、パパとママに魔法の事を話したのだ。

 その時、パパとママから「村の皆には、出来るだけ内緒にしておきなさい」と言われた。

 魔族がいる今の世の中で、強力な上位魔法を使えるのは、とても価値がある事で心配らしい。

 価値があると言うのは、それだけで狙われる理由になるからだと。

 私はその話を聞いて、たしかに。と思った。

 前世の私は、価値のあるものが、敵にも味方にも狙われてしまう事があるという事を知っているからだ。


「ちょっと、どいてくれます?」


 私とたっくんの間に、リリィが現れて割って入る。


「リリィ。おはよー」


「おはようジャスミン。さっき、ジャスミンのご両親にお会いしたわ。私のパパと一緒に、今先生に診てもらっているのよ」


 やっぱり、リリィのパパも飲み過ぎちゃったんだ。


「それより、随分と大きな荷物ね。後ろからだと、ジャスミンの姿が見えなかったわ」


「だよね」


「同意しないでくれますか?」


 リリィって、たっくんの事よっぽど嫌いなんだなぁ。

 話し方に距離を感じるもん。


「そうそう。女の子だけで、お話してるんだから、貴方は荷物だけ持ってなさい」


 と、たっくんに自分の荷物を渡して、ブーゲンビリアお姉さんがやって来た。

 たっくんは呆れ顔をしていたけど、文句も言わずにブーゲンビリアお姉さんの荷物を預かった。


「ビリアお姉さま。おはよー」


 私はブーゲンビリアお姉さんを見上げて挨拶をする。


「ジャスミンちゃんおはよう」


 ブーゲンビリアお姉さんのショートボブの髪は、今日も白とピンクのツートンカラーが可愛くて、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。

 ブーゲンビリアお姉さんが、笑顔で私の頭を撫でる。


「聞いたわよ。山越えできるようになったのは、ジャスミンのおかげなんですって?」


「ジャスミンの可愛さは世界を変える力があるのよ」


 いやいや。

 それは言いすぎだよ。

 たしかに、私は自分でも自分の事を可愛いって自惚うぬぼれてはいるけどね。

 でも、上には上がいるんだよ?

 例えばほら。

 あそこにいるよ?

 世界一可愛い天使のような可愛い女の子が!


「ルピナスちゃーん!」


 私はルピナスちゃんの後姿を見つけて、大きな声で名前を呼ぶ。

 すると、耳と尻尾をピクリと動かして振り向いたルピナスちゃんが、天使のような可愛い笑顔で私と目が合った。


「ジャスミンお姉ちゃん!」


 ルピナスちゃんが尻尾を振って私に近づいて抱き付いた。

 私もルピナスちゃんを、ギュッと抱きしめる。


 可愛すぎるー!

 ほら見て!?

 この可愛さには、誰も勝てないよぉ!


「尊い」


 こうして、私がルピナスちゃんの可愛さを堪能している中、リリィがまた一つ、一部の人達の間で有名な言葉を放ちました。


 ねえ。リリィ?

 本当に、何処で覚えて来るの?

 こっちの世界には無い、その言葉の数々。

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