043 幼女が童貞を拗らせる
「ジャスミン! この後、お風呂を一緒に入りましょう!?」
「ふぇ」
リリオペの恋の悩みを受けた日の夜。
私の家族とリリィの家族で、ホテルのレストランで食事をしていたら、リリィが物凄く真剣な面持ちで私の顔を見て質問をしてきた。
私は絶賛頬張り中だったので、ごっくんしてからリリィに答える。
「い、いいよ」
私の返事を聞いたリリィの顔から、満面の笑みがこぼれた。
「やったわ! 昨日の夜は色々あって、一緒にお風呂に入れなかったでしょう? だから、凄く残念だったのよ」
「この子ったら、お風呂に入った後に、大声で誘うの忘れてたって言って大騒ぎだったのよ」
リリィのママが呆れた様子で、リリィを見る。
「うふふ。可愛いらしくていいじゃない。ねえ?アナタ」
「そうだね。ジャスミン、いつもリリィちゃんのお世話になってるんだ。背中を流してあげたらどうだ?」
「うん。お背中流してあげるね。リリィ」
ママとパパの意見に、私は心の中で全力で同意する。
一緒にお風呂に入りたいだなんて、やっぱりリリィも子供なんだなって思えて、凄く可愛いよね。
それに、いつもお世話になってるんだもん。
お背中くらい、感謝をこめていっぱい流しちゃうんだから!
「今から楽しみだわぁ」
リリィったら、すごく喜んじゃってる。
えへへ。
なんだか、私もだんだん楽しみになってきたよ。
と、思ったのも束の間の事だった。
私はこの時、忘れてしまっていたのだ。
自分が、前世でどんな男だったのかを。
◇
食事が終わって、リリィと一緒にお風呂に入る為に、脱衣所で服を脱いでいる最中の事だった。
私はリリィの裸を見て赤面し、リリィを直視できなくなってしまい、頭を抱えてしゃがみこんだ。
やばいよ!
思わぬ誤算だよ!
裸の女の子なんて、見れるわけないでしょー!?
私は前世で童貞だった。
だから、もちろん前世で女の子の裸を、生で見た事が無い。
むしろ女の子の裸なんて見たら、逃げ腰になってしまうチキン野郎だったのだ。
そして今、そんな前世の自分の記憶が邪魔して、現在の私にまで悪影響を及ぼしている。
残念な事に、更にとどめと言える一つが、決定的にそれを加速させる。
その一つとは、私が前世でロリコンだった事だ。
ロリコンだったので、子供の裸なんて見てもなー。と、いった感じになったりしない。
お ち つ けーっ!
落ち着くのよ私!
今は私も9歳の女の子なんだよ!?
ロリコンを拗らせてどうするのよ!?
こういう時こそ、長年培ってきた大人の余裕を見せつける時!
そうだよ!
こんなの、まだ焦るような段階じゃないじゃない!
それに、リリィは9歳とは思えない位に、発育が良いんだもん!
出る所がちょっと出てて、腰に若干くびれだってある!
リリィの体つきは、ギリでロリコン向けじゃない!
はず! ……くっぅ。
ダメだ。
思った以上にダメージがでかいよ!
考えてみれば、もろ成長途中の体つきだから、私とは別のタイプのロリコンが涎を垂らすレベルだよ!
リリィったら、恐ろしい子!
ううん。
目を覚ますのよ。
大丈夫よ私。
落ち着いて?
今の私は同じ女の子!
女の子が女の子の裸で興奮するなんて、そんなの大好物……じゃなかった。
違う。そうじゃない!
私は頭の中で、そんな長ったらしい葛藤をしていたが、そこで妙な事に気がついた。
あれ?
何だか、変な視線を感じるよ?
顔を上げると、いや。
上げるまでもなかった。
しゃがみこんでいた私の目の前で、リリィが横になって顔をこちらに向けて、鼻血を垂らしながら体の一部をずっと見ていた。
リリィの視線を追って、その視線の先を見る。
「ぴゃっ……!」
私は恥ずかしさを込み上げて、頭に血が勢いよく上るのを感じた。
何故なら、リリィの視線の先が……。
「バカーッ!」
私がリリィの頬を叩き、ペチコーン!と、脱衣所に音が鳴り響く。
「うふふ。さあ、入りましょう」
リリィがまるで何事も無かったかのように、もの凄く良い笑顔で頬を腫らせながら立ち上がる。
「もぉ!」
入りましょうじゃないよ!
リリィってば、油断も隙もあったもんじゃないよ!
ホント、やんなっちゃう!
私はプンスカ怒りながら、リリィの後に続いてお風呂場へと移動する。
さっきまで馬鹿みたいに色々考えてた事とか、おかげで全部どうでも良くなっちゃった。
そこは、感謝してあげてもいいかな。
そう思った私は、ため息を小さく一つして苦笑する。
「リリィ! 痛くなるくらい、背中を強くゴシゴシしちゃうからねー!」
「やだ。ジャスミン、怖い事言わないでよ」
「えへへー。真っ赤っかになっちゃうんだから」
私はイタズラっぽく笑う。
そして、勿論いつもの感謝をこめて、愛情たっぷりに優しくゴシゴシしてあげた。




