042 幼女と恋する男の娘
リリオペから恋の相談を受けて、一時間が経とうとしていた。
生憎私は前世から恋愛に縁が無かったので、全く役には立たなかった。
だけど、だからこそ私は興味津々となって、リリオペの話を聞き続けていた。
そして私はリリオペの話を聞きながら、話す時の仕草などで、リリオペから出る女の子オーラを感じていた。
男の娘って凄いなぁ。
リリオペの事を知ってる人だって、別人の女の子として紹介すれば信じちゃうと思うよ。
そう私が考えてしまう位に、今のリリオペは女の子より女の子している。
頭につけたリボンも、フリフリのついたブラウスも、ヒラヒラのフレアスカートも、フォーマルシューズも、リリオペに全部よく似合っていて可愛い。
身長は同年代の男の子達の中では、拳一つ分くらいの少し大きめの身長だけど、何と言ってもまだ9歳だ。
私と同じ年齢の子供なんだから、大人から見れば小さい。
それに、リリオペは細いのだ。
今のリリオペは、そういう要素もあって、どっからどう見ても可愛い女の子。
私やリリィと一緒に町を歩いていたって、今のリリオペを男の子だとわかる人もいないだろう。
私がリリオペの可愛さに堪能していると、話はチョコの実狩りを含んだ話題となった。
「本当は明日のチョコの実狩りは、ラークと一緒に楽しもうと思っていたんだ」
「そう。ラークの馬鹿が風邪をひいていなければ、それも叶えられたのに残念ね」
「まさか昨日の夜に、雨の中を傘も差さずに走り回っていたなんて。こんな事なら、僕も一緒に捜しに行けばよかったよ」
う。少しグサッときたよ。
ごめんねリリオペ。
こんな事なら、ラークの健康に気を使ってあげればよかったよね。
「でも、看病で一緒に残れば良かったじゃない。どうして残らなかったの?」
「僕もそれは考えたよ? でも、僕がチョコの実狩りを楽しみにしていたのを、ラークも知っていたから、変だと思われちゃうかなって」
リリオペは苦笑して俯いた。
「ラークには気持ちを隠しているから、ただ単純にチョコの実が好きって伝えているんだ。それなのに、チョコの実狩りに行かないなんておかしいでしょ?」
「そう。でもね、リリオペ」
リリィがリリオペの顔を、真剣な面持ちで見つめる。
それを受けたリリオペは、リリィの瞳から目が離せなくなった。
「気持ちはわからないでもないけれど、少しくらいは思った事を口に出さないと、そのうちジャスミンみたいに百面相になるわよ」
「え!? 何でそこで私!?」
今まで黙って聞いていた私は、急に話題に出されて驚く。
百面相ってそんなわけ――
「う。たしかに、そうかもしれないね」
リリオペが苦笑する。
「ええ!? え? え? 何? え? 嘘でしょう?」
私、そんなに百面相をしていたの!?
でも、そんなの今まで聞いた事なかったよ?
本当にそうだったなら、凄く恥ずかしいよ!
私は恥ずかしさのあまり、思わず顔を手で隠す。
「ほら、今だってしているでしょう? ジャスミンは可愛いから、百面相していても逆に可愛さを際立たせているから良いけど、他の人だとこうはいかないもの」
「はは。そうだね」
リリオペが苦笑する。
恥ずかしさで未だに顔を隠し続ける私に、リリィが顔を近づけて私の耳元で囁く。
「ジャスミンの顔が百面相する様になったのは、ジャスミンが前世の事を思い出してからよ」
それを聞いて、私はなんだか納得してしまった。
そして、ようやく恥ずかしさが和らいで、私は顔を隠すのをやめた。
前世の私は、人と話す事をあまりしなかった。
そして、一人になると独り言を喋る。
それで今も、前世の事を思い出してから、独り言を言う様になったのだ。
前世で人と話さない自分と、人とよく話す今の私が混ざった事で、思っている事を口にしない時に百面相をする様になったのかもしれない。
あれ?
でも、それってつまり……。
「ジャスミンが百面相する様になったのって、最近だよね? 前はそんな事なかったのに。何かあったのかい?」
ひいぃ!
ほら!
やっぱり気になっちゃうよね!?
言い訳を!
言い訳を考えないと!
「女の子には色々あるのよ」
リリィ?
それだと理由になってないよ?
「はは。そう言うものなんだね」
「そうよ」
え?
それで納得しちゃうんだ?
まあ、いいや。
リリィ、ナイスフォローだよ!
「話を戻すけど、ラークには思った事を、しっかり言わないと伝わらないわよ」
「でも、僕がラークの事が好きだって事、今はまだ明かしたくないんだ」
「あら。どうして?」
あ。私、それは何となくわかるかも。
「それって、今の関係を壊したくないって事だよね?」
私がそう言うと、リリオペが苦笑して頷いた。
「それなら仕方ないわね。でも、どうするの? このままでいいの?」
「よくは無いけど、また相談にのってもらえたら嬉しいかな」
「そ。まあ、話くらいは聞いてあげるわよ」
「うん。私も聞くよ」
私も、うんうん。と頷く。
「ありがとう。2人とも。今後もよろしく頼むよ」
そう言って、私とリリィに向けたリリオペの笑顔は、とても素敵で可愛らしい恋する女の子だった。




