041 幼女は新しい属性を手に入れた
リリオペ=ヤブラン。
ラークの一番の友達で、私やリリィともそれなりに仲が良い。
健康診断でお世話になった看護士さんの息子さんで、私と同じ9歳の男の子。
いつも髪の毛を七三分けにしているからか、真面目そうな印象を持つリリオペ。
そんなリリオペが顔を真っ青にして、スカートを片手に持って、動揺を隠せないでいた。
「いや。これは、その……違うんだ!」
私とリリィは無言でリリオペを見る。
それが焦りを募らせたのか、リリオペは目を泳がせる。
「あ、あれー? おかしいなー。これズボンだと思ってたよー」
リリオペ。そこ、スカート売り場だよ。
リリオペのすぐ横に、スカートコーナーって書いてあるよ。
「いやー。まいったなー。これズボンに似てるから」
リリオペ。それ、すっごいヒラヒラのフリルついてるよ。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで!」
リリオペ。それ気に入ったんだね?
元あった場所に戻さず、レジに持って行こうとしてるよ?
しかも、今動揺してるのに、すっごい丁寧に折りたたんだよね?
「待ちなさい」
リリィが笑顔で、リリオペの肩を掴んで引き留める。
「な、何だい? リリィ」
「忘れてるわよ?」
そう言って、リリィがリリオペにカゴを渡した。
それは、さっきまでリリオペが立っていた場所に置いてあったカゴだ。
そのカゴの中には、お洋服がいっぱい入っている。
もちろん、全部女の子用のお洋服だ。
「あ、ありがとう」
あ。素直に受け取るんだね。
と言うか、さっきからリリィが凄くニコニコしてる。
「リリオペ。私に任せて? 悪いようにはしないわよ」
「……えっと、どう言う事?」
「うふふ」
リリィ。やめてあげて!
笑顔で迫るから、リリオペが怯えて小さく震えているよ!
そんなわけで、リリィがリリオペを試着室まで連れて行く。
私は、事の成り行きを見守る事にした。
はい。そうです。
皆さんお分かりの人はお分かり頂けてますよね?
そうです。
今から、リリィプロデュースによるファッションショーの始まりです。
リリィがリリオペに、様々なお洋服をあれやこれやと試着させていく。
最初は見ているだけだった私も、途中からリリィと一緒に盛り上がる。
そして、リリオペをまるで着せ替え人形の様にして大興奮だ。
だって、仕方がないでしょう?
リリオペったら、もの凄く可愛いんだもん!
私は前世で男の娘属性があったわけじゃないけど、今ならわかる気がする。
これは、いいものだ。
私はリリィと一緒になってキャーキャー騒ぎながら、リリオペに色んなお洋服を着せていった。
それから暫らくして、私達3人は買い物を済ませて、近くにあった喫茶店でお茶をする事になった。
もちろん、リリオペには女の子のお洋服を着させている。
リリオペの今の服装は、頭に可愛いリボン。
フリフリのついたブラウスに、ひらひらのフレアスカート。
そしてフォーマルシューズだ。
どれも、とても似合っていて可愛らしい。
うんうん。
可愛いなぁ。リリオペ。
私がリリオペを見て、お茶を飲みながらニヨニヨしていると、リリオペがモジモジしながら呟いた。
「あ、あのさ。相談したい事があるんだけど、良いかい?」
「相談? いいわよ」
「うん。何でも言ってよ。相談に――」
「え? ジャスミン? 今何でもって?」
「リリィには言ってないでしょう?」
「ちぇー」
ちぇー。じゃないよ!
時々、私よりもリリィの方が転生者なんじゃないかって思う事あるよ!?
行動や発言が、まさに前世の私なんだもん!
リアルでそれやめて?
私はリリィをジト目で見ると、リリィが「その顔も可愛いわ」と言って、頭を撫でてきた。
とりあえず、リリィの事は置いておいて、リリオペの話を聞こう。
「それで、相談ってなあに?」
「え? あ、うん。実は、好きな人がいるんだけどさ……」
「好きな人!?」
リリオペの言葉で、私はつい大声を上げて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと」
「あ。ごめん」
私はリリオペに制されて、ちょこんと座り直した。
「相手は誰なの?」
いつの間にか聞く気満々なリリィが、身を乗り出してリリオペに訊ねる。
「その……。ラークなんだ」
え?
今なんて?
モジモジと発せられたその言葉は、あまりにも驚愕な名前をあげた。
私は聞き間違えたのかと思い、一瞬自分の耳を疑う。
「ラーク? リリオペが好きな人って、あの馬鹿ラークだったの?」
「はは。うん。そうなんだ」
どうやら、聞き間違えでは無いようだ。
「何で、あんな馬鹿好きになったのよ?」
ちょっとリリィ。
好きだと言ってる相手の事を、馬鹿とか言い続けるのは良くないと思うよ?
「むしろ、そんな馬鹿な所が可愛いかなって」
「なるほど。駄目な男ほど夢中になっちゃう、女の弱点みたいなものね」
うんうん。と、リリィが頷く。
そこで私は気がついた。
あれ?
そもそもリリオペって、今は女の子の格好してるけど、男の子だよね?
私と違って前世が男とか、そういうのじゃなくて、男の子そのものだよね?
でも、ちょっと待って?
そもそも、前世の私も散々見て来た言葉があるじゃない!
男の子は男の子同士で、女の子は女の子同士でなんたらと言うあの言葉が!
うん。
何もおかしな事は無いよね?
それに、ほら見てよ?
リリオペったら、すっごく可愛いんだよ?
仕草も何だかいつもと違って、女の子みたいだし。
と言うわけで、私は男の娘と化したリリオペの、恋の相談に乗る事にした。
うーん。
もじもじしちゃって、本当に可愛いなぁ。
写真に収めたい。




