040 幼女と町の風事情
ニクスちゃん達スワロー一族のおかげで、風抜けの町カスタネットへと到着する。
ニクスちゃんからバイバイする時に聞いたのだけど、帰りも迎えに来てくれるようだ。
なので、ニクスちゃんと「またねー」と手を振ってわかれた。
ニクスちゃん達と別れた後、早速チョコの実狩りに行きたい所なのだけど、残念ながら今日はお預け。
何故なら、本当は山越えで一日使う予定だったので、チョコの実狩りは元々明日の予定なのだ。
だから、今日は丸一日自由行動となった。
せっかくだからと、私とリリィは町を見て回る事にした。
そんなわけでやって来ました。
風抜けの町カスタネット。
名前の通り、ここは楽器のカスタネットの様な見た目をした町。
獣人と鳥人が一緒に暮らす町だ。
住宅街は特殊で、皆さんご存知の子供用カスタネットで例えると、青い部分に鳥人が、赤い部分に獣人が住んでいる。
この町の面白い所は、鳥人達が家を構えているのが、大地の上ではなく下という事だ。
そして、この町が何故風抜けの町と呼ばれるのかと言うと――
「ジャスミンッ危ない!」
「――え?」
リリィにガバッと、勢いよく覆いかぶさられる。
そして、その瞬間に私がさっきまで立っていた所に、何かが落ちてきた。
「怪我はない?」
「う、うん。リリィ、ありがとう」
何が落ちてきたのかと見てみると、それは漫画だった。
「漫画……。え? この世界にも、漫画ってあったんだ?」
「まんが?」
どうやら、リリィは漫画を知らないらしい。
リリィと違って、前世で色々とお世話になった漫画の存在を知った私は、懐かしさのあまりテンションが上がる。
そして、それが落ちてきた物だった事を忘れて、拾い上げてパラパラと捲る。
私の今住んでいる村は人口が約60人程度しかいない小さな村だから、必要ない物と判断されて供給が無くて、きっと今までお目にかかれなかったのだろう。
漫画の存在を知って、何だか嬉しくなってきた。
「ごめんねー!」
私が漫画をペラペラと捲っていると、大きな声が上空から聞こえてきた。
私は漫画を閉じて、声のする方を見上げる。
「ごめんね! 大丈夫? お嬢ちゃん達。怪我は無かった?」
どうやら、鳥人のお姉さんが落としたようだ。
鳥人のお姉さんは、申し訳なさそうに謝りながら、私の目の前に降り立った。
「大丈夫だよ。はい。どうぞ」
私は返事をして、漫画を返してあげた。
漫画を返してあげた所で、私は一つ気になる事が頭に浮かぶ。
「ありがとう。ほんっとごめんね」
「うん」
私が再び返事をした所で、リリィが「ちょっと良いかしら?」と言って、鳥人のお姉さんに質問を始めた。
「この町は風が吹いてるから、物が落ちてこないと思ってたのだけど、今は風が吹いていないのかしら?」
そうそう。それそれ。
私も、それが気になったんだよね。
風抜けの町と言われるこの町は、鳥人の暮らす住宅街と獣人の暮らす住宅街の間に、常に強い風が吹いているはずなのだ。
その強い風のおかげで、よっぽどの事が無ければ、上から物が落ちて来る事が無い。
しかも、漫画の様な軽い物が、そのまま落下するなんてありえなかった。
鳥人達だって、この町の住宅街の間を、自由に飛び回る事なんて出来ないのだ。
それほど強い風が吹いているはずなのに、漫画が落ちて来て、更に上空から鳥人のお姉さんがやって来た。
それは、私やリリィにとっては、かなり不思議な出来事だった。
「実は、ここ何日か、風がピッタリと止んでしまったのよ。おかげで、この町に住む皆が困ってるのよね」
「たしかに困るわね」
「ええ。それに、原因がわからないから、今の所どうしようもないのよね」
「そうなのね。教えてくれてありがとう」
「ええ。じゃあね」
「さようなら」
「お姉さんバイバーイ」
私とリリィは、鳥人のお姉さんに手を振って別れる。
「ねえ、ジャスミン」
「なあに?」
「もしかしたら、これも魔族の仕業かしら?」
「うーん。どうだろう? 魔族のイメージって、私の中だと、ただの変態ってイメージしかないからなぁ」
町から風を奪うとか、そんなそれっぽい事より、風で飛んできた下着を盗んでいくイメージだよね?
「それもそうね」
リリィも私の意見に納得したらしい。
それから、止まった風の事を考えていても、私達にはどうする事も出来ないので、この話は止めとなる。
「そんな事より、お洋服を見に行かない? ジャスミン」
「うん。行こう行こう!」
と言うわけで、私とリリィは洋服店へと足を運ぶ事にした。
◇
リリィお勧めの洋服店があるらしいので、私はリリィの案内でお勧めの洋服店へと到着した。。
可愛いフリフリのついたお洋服に、綺麗なドレスの様なお洋服。
色々なお洋服を、リリィと見て回る。
流石リリィお勧めのお洋服屋さんだよ!
可愛いお洋服がいっぱいで目移りしちゃう。
私が目を輝かせて色々なお洋服を見ていると、リリィが「ねえ。ジャスミン」と声をかけてきた。
「何か欲しい服とかあるの?」
「今の所は無いかなぁ。でも、可愛いのお洋服がいっぱいあるし、試着はしてみたいかも」
「いいわね。じゃあ、私が選んだ服も着て貰おうかしら?」
「うん。だったら、私もリリィの……ってあれ?」
リリィと話しながら、服選びをしていたその時、私は意外な人物を見つけてしまった。
「リリオペ?」
「――えっ!?」
私が名前を呼ぶと、もの凄く動揺しながら、リリオペが私とリリィの顔を交互に見た。
「ジャスミン!? リリィ!?」
どうしたの?
すっごい全身から、汗が滝のように流れてるよ?
顔面蒼白だし、本当に大丈夫?
私がそんな風に心配をしていると、リリィが訝しげな顔をして呟く。
「スカート?」
「え?」
リリィの言葉を聞いてリリオペを見てみると、たしかにスカートを手にしていた。
おや?
なるほどね。
だから、そんなに顔面蒼白で、滝のように汗を流していたんだね。
うんうん。
そうかそうか。
これは、また1人変態さん追加の合図ですか?




