004 幼女は盛り上がる
前世の記憶が甦った現在美少女な私ジャスミン=イベリスは、今朝目が覚めてから、この世界で使う事が出来る魔法を色々と試していた。
本当は朝一で大親友のリリィのお家まで行こうと思っていたのだけど、目が覚めたら急に魔法が使いたくなったのだ。
前世の世界では、決して使えなかった空想上でしか存在しない魔法という存在。
そんな物が使えるのだから、ちょっとワクワクしてしまうのも仕方ないのだ。
それに、実は前世の記憶が甦るまでの私は、魔法があまり得意ではなかった。
と言うか、今より小さい頃に一度使ったっきり、苦手意識で私は魔法を使っていない。
だからこそ、前世をオタクとして生きた私は、新鮮な気持ちで使えるのだ。
この世界で使える魔法には属性があって、人によって使える属性が違うのだけど、私は水の属性を使える。
試しにコップに水を注いで飲んでみたら、中々美味しかった。
これなら、無人島に行っても生き残れそうだ。
そうそう。この世界では、鏡が高級な物として扱われている為に一般家庭に鏡が無く、もちろん私の家にも鏡が無い。
一応鏡代わりの代物はあるけど、鏡程便利ではなかった。
そんなわけで、色々な魔法を試し終えた私は、魔法を使って水を鏡の代わりにして宙に浮かした。
そして、水面に映った自分の姿をマジマジと見つめる。
「やっぱり可愛い。何で今まで気が付かなかったんだろう? やっぱり純粋な頃の私は、純粋だったんだね」
すっかり前世の記憶のおかげで性格の変わった私は、そんな事を言いながら色んなポーズをしてみる。
同年代の女の子達の中でも小さめの身長で細身の身体。
髪はサラサラで、小さい顔についたくりくりした可愛い目。
どれをとっても可愛い要素しかない見た目で、自分で言うのも何だけど、天使のようだ。
「あの頃は、ぶっさいくな顔したおっさんだったからなぁ。きっと罪無く死んだ私を、神様が哀れんで、美少女に生まれ変わらせてくれたんだ。神様ありがとう!」
そこで私はふと思う。
「あれ? 実はこれ、最高なんじゃ」
うん。
何かテンション上がってきたぞ!
「一時はどうなる事かと思ったけど、別にジャスミンとしての私が消えたわけじゃないし、前世の記憶を思い出したおかげで色々と知識や知恵もついたし、良い事ずくめだよね!」
そして、テンションが上がった私は、髪をいじり肌を触る。
サララサの髪に、もちもちスベスベな肌。
全て触り心地が気持ち良くて心地良い。
「女の子の髪の毛触っても、お肌触っても通報されな――」
しかし、そこで私は気がついてしまった。
「――よくよく考えたら、自分の体なんて触っても、別に嬉しくない。それに……」
水面に映った自分を見る。
「これただのナルシストな変態だよ。しかも、中身は半分おっさん。マジキモイ」
前世がロリコンなおっさんだったせいで、我を忘れてしまった自分にがっかりして、私は魔法を解いてベッドにうつ伏せになった。
「まあでも、私が美少女って気付けたのは良かったよね!」
凹んでいても仕方がないので、私はポジティブに考える事にした。
結局ナルシスト思考なのは、前世のおっさんな自分が悪いという事にして、この際水に流す事にする。
「あっ。そうだ。相談するかどうかは、ともかくとして、昨日の事リリィにありがとうって言わないと!」
ついつい忘れてしまっていたが、昨日はリリィにもの凄く心配をかけてしまった。
リリィは凄く優しいから、きっともの凄く心配したに違いないのだ。
だから、ごめんじゃなくて、ありがとうって言わないとだよね!?
そう思って身支度をしていると、ママの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ジャスミン。リリィちゃんがお見舞に来てくれたわよー」
やっぱり、リリィは本当に良い子だ!
私は嬉しくなって駆け足で部屋を出た。
「リリィおはよう! 来てくれて嬉しいわ!」
「ジャスミンおはよう。ああ、良かった。元気みたいで安心したわ」
「リリィ、昨日はありがとう。凄く嬉しかった」
「ううん。良いのよ。ジャスミンが無事で本当に良かったもの」
やっぱりリリィは優しいな。
私はそう思いながら、よしっ! と、それからリリィを大急ぎで部屋へ招き入れた。