039 幼女と鳥人の恩返し
ラークから話を聞いて宿の外に出ると、村長とニクスちゃんのパパがお話をしていた。
それと、少し離れた場所から、集落の人達が2人の話を聞いていた。
「ジャスー」
私は呼ばれて声のした方に目を向ける。
「あ。ニクスちゃん」
ニクスちゃんが集落の人達がいる所から、手を振って走って来た。
「おはよー」
「おはようジャス。それと、リリーやっけ?おはよう」
「ええ。おはよう。ニクス」
実は、昨夜に2人は会っている。
エロピエロから服を取り返した時に、ニクスちゃんの家を訪ねたのだ。
あと、剥ぎ取りの被害にあった人がわからなかったので、ニクスちゃんのパパに取り返した服を全て渡した。
ちなみにスミレちゃんは魔族だから、人に見つかると大騒ぎになっちゃうので、早々に姿を隠していた。
まあ、それはさておきとして。
「ねえねえニクスちゃん。山越えを手伝ってくれるって本当?」
「せやねー。ウチを助けてくれただけじゃなく、犯人を追い払って服まで取り返してくれたやろ? それで、おとんが皆に恩返しせなあかんって言うたんや」
「そうだったんだ。ありがとー! 助かるよー」
「それはこっちのセリフや。皆、ジャスに感謝してるんやで」
「そうよジャスミン。ここの集落の人達も、ジャスミンの魅力に気がついたのよ」
リリィが若干ずれた意見を言っているような気がしないでもないけど、今の私は気にしない。
何故なら、念願のチョコの実狩りに行けるからだ!
私はテンションが上がって、バンザイしてピョンピョン跳ねる。
あれ?
でも、手伝うって言っても、具体的にどうやって山越えするんだろう?
一頻り喜んだあと、疑問が浮かんだので聞いてみる事にする。
「山越えをする方法を教えてほしいんだけど、良いかな?」
「ええよ」
「言われてみればそうよね。山は昨日の雨のせいで危険だし、どうやって進むの?」
「魔法を使えばええねん」
「魔法?」
「ここの集落におる鳥人は、皆ウチと同じスワロー一族なんよ」
「うんうん」
「それでウチ等スワロー一族は、鳥人の中でも渡り鳥の家系になるんや」
スワローってツバメだよね。
なんて思ってはいたけれど、やっぱりそうなのかも。
ツバメと言えば、渡り鳥だもんね。
「で、スワロー一族は、皆風の魔法が得意なんよ」
「おー。なるほどだよ」
「そう言うわけやから、集落に住んでるスワロー一族が総出で、恩人に恩返しせなあかんってなったんよ」
「ありがとー」
私は嬉しくなってニクスちゃんに抱き付く。
「ジャス。せやから、ありがとう言いたいんは、ウチ等の方や」
「えへへぇ」
それにしても、そっかー。
風の魔法が得意だから、きっと人を運んで空を飛べるって事だよね?
凄く助かるなぁ……あれ?
空を飛べる?
もしかして、私の魔法があれば、そもそも……。
うん。考えるのは止めよう。
そんな事を考えながら私が額に汗をにじませていると、リリィが「ねえ」と、ニクスちゃんに話しかける。
「ニクス。聞きたい事があるのだけれど?」
「どうしたん?」
「フェニックスって言う名前の魔族を捜しているのだけど、聞いた事ないかしら?」
リリィの発言に私は目を見開いた。
ちょ、ちょっとリリィ?
そう言う話は、関係の無い人にしたら駄目だと思うよ?
「フェニックス……? 知らんなぁ。何で魔族なんて捜しとるん?」
「色々事情があるのよ」
「ふーん。魔族なんて、関わるとええ事全然ないし、あんまり関わらん方がええよ」
「そうね」
あれ?
魔族の事、もう少し詮索されちゃうかなって思ったけど、もうお話終わりなんだ。
私は色々聞かれちゃうと思っていたけれど、意外と話題がすぐ終了した事に驚いて、ポカーンと口を開けて固まった。
そんな私の顔を見たニクスちゃんが、クスッと笑う。
「どないしたん? おもろい顔して」
「え?あ。ううん。何でもないよ」
何だか恥ずかしくなって顔が赤くなる。
顔を赤くした私を、リリィがニコニコしながら頭を撫でてきた。
「昨日も思ったんやけど、ジャスは可愛いなぁ」
「でしょう?」
今度はニコニコした2人に頭を撫でられる。
うう。なんか恥ずかしい。
と、言うかだよ。
よく考えてみたら、色々と考えすぎだったのかも。
あまりにもリリィが年齢不相応な位にしっかりしているから、ついつい忘れがちだったけど、私達ってまだ9歳だもんね。
9歳の幼い女の子が、そんな詮索をするような事するわけないもん。
疑問に思っても、正直深く考えた上でじゃなくって、気になったからていどだよね。
私だって記憶を取り戻す前や、前世で9歳くらいの時は、結構何も考えてなかったと思う。
そう考えたら、やっぱり考えすぎてただけだよね。
そう思うと、色々と心配してたのが恥ずかしい。
多分、こういう余計な事を考えちゃうのは、やっぱり記憶が甦っちゃったからなんだろうなぁ。
2人に頭を撫でくりまわされながら、そんな事を考えていると、ニクスちゃんのパパが話を終えてやって来た。
山越えは準備の事を考えて、お昼ご飯を食べてからという事になったらしい。
そんなわけで、私とリリィは準備をする為に一度宿へと戻る事にした。




