表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/288

038 幼女と風邪をひいたお馬鹿

 エロピエロとの戦い(?)を終えてから翌日の朝。

 昨日の雨でチョコの実狩りが中止になって、どんよりした気持ちで宿の廊下を歩いていると、ラークと顔を合わせてしまった。


 うぅ。

 めんどくさいのと会っちゃったよ。

 ラークには悪いけど、今はお馬鹿の相手をする気分じゃないのに。

 ここは見なかった事にして、通り過ぎるが吉だよね?


 私がそんな事を考えながら、てくてくと歩いて行こうとしたが、残念ながらラークが見逃してくれなかった。

 ラークが「おい」と言って、私の肩を叩く。


「おめーが魔性の女ってのは、本当だったんだな?」


「へ?」


 突然そんな事を言われて、私は意味が分からずポカーンと口を開ける。

 そして、そんな私の顔を見たラークが、不機嫌そうな顔をして咳き込んだ。


「くっそー。ジャスミンに昨日雨の中会ったのが、俺の運の尽きだったぜ。風邪ひいたんだよ」


「それって、私のせいじゃないじゃない。雨の中で傘も差さずに、走り回ってた自分の責任でしょう?」


 自分から傘も差さずに雨の中を走り回っておいて、私に会ったのが原因って酷い言いようだよ。

 チョコの実狩りが中止になって落ち込んでいる時に、言いがかりをしないでほしいよ。


「わかってたなら、傘くらい貸してくれても良かっただろ? 本当に気が利かねー奴だな」


「なっ……」


 思わずイラッとしたけど、私は前世で36年も生きた人生の大先輩。

 そう。大人なのだ。

 今は気持ちが落ち込んでいるから、大人な私は、こんなお馬鹿を相手に腹を立てたくないもん。

 ここは営業スマイルでのりきろう。


「私も傘を持っていなかったのよ」


 そう言って、私はとびっきりのスマイルをラークに向ける。


「ったく。だったら、取りに行けば良いだろ? これだから、困るんだよな。魔性の女とかあだ名つけられるような奴は。ったく。性格ねじ曲がってん――」


 私のイライラがピークを迎えて、スマイルが崩れかけたその時、ラークの後頭部をドロップキックしてリリィが現れた。


「――でぅふぇぇっ」


「性格ねじ曲がってるのは、アンタでしょーが!」


 あ。ナイスだよリリィ。

 スッキリしたー。

 リリィ大好き。


「まあ。魅力が溢れだしすぎて、皆を魅了しちゃうって意味では、魔性の女ってのは間違っちゃいないけどね」


 今日もリリィは絶好調な様です。


 それにしても、魔性の女って久々に聞いたよ。

 そう言えば、私そんな風に言われていたんだっけ?

 たしか、正確には魔性の幼女だったよね?


「いってー。俺は病人だぞ。病人はいたわれよ」


 労わってほしいなら、もう少し憎まれ口を減らせばいいのに。

 本当に馬鹿だなぁ。

 ラークって。


「そう言えば、アンタにしては、随分おとなしいわね」


「あ。たしかに」


 うんうん。と、私は頷く。

 めんどくさい感じは、いつも通りだけど。

 でも、声のボリュームが小さくて煩くないかも。


「風邪ひいたせいで喉が痛いんだよ。おかげで声もあんまり出ないんだぞ」


「そのわりには、随分よく喋るのね」


「たしかに饒舌じょうぜつだよね」


 うんうん。と、私は頷く。


「こんな事になるなら、俺もジャスミンみたいに、昨日の服をとられた奴を家に送ってやればよかった」


「あら。そうだったの?」


「うん。って、あれ? 何でラークがその事知っているの?」


「さっき恩人だとかなんだとかで、山越えを手伝うって言って、集落の人達が爺ちゃんと話してたぞ」


「それ、ホント!?」


「本当だよ。俺は風邪ひいたせいで、母ちゃんと留守番だってのに、いい気なもんだぜ」


 昨日の夜、エロピエロが服を置いて逃げ出したから、盗まれていた服を集落の人達にお返ししたのだ。


 多分だけど、服を取り返してくれてありがとうって皆から言われたから、それが恩人って事なのかも。

 それで、私達の村の村長のラークのお爺さんと話をしてるんだ。

 諦めていたチョコの実狩りに、もしかしたら行けるかも!?


 そう思った私は、じっとなんかしていられなくなった。


「行こう! リリィ!」


「ジャスミン!?」


 私はリリィの腕を掴んで、一目散に駆け出した。


 昨日の雨で、一時はチョコの実狩りが中止になっちゃったけど、山越えが出来るなら決行だよね!?

 すっごい楽しみにしてたんだもん!

 嬉しすぎるよー!


「俺を置いて行くなよ!」


 背後からラークの声が聞こえるような気がするが、私は止まらない。

 そうして、私は大急ぎで宿を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ