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036 幼女の目からも汗が流れます

「エロピエロ! 女の子達の服を返しなさい!」


 洞穴にリリィの声が鳴り響く。


「観念しろなのよ! エロピェッ。……サルガタナス様」


 あ。スミレちゃん、エロピエロに睨まれて、言い直した。


 ピェの部分で声が裏返っちゃっていたし、顔面蒼白になってる事から、相当怖いんだと伝わってくる。


「誰かと思ったら、バティンじゃないか。何だい? お前、最近連絡を寄越さなくなったみたいだけど、原因はそれかい?」


 エロピエロがリリィと私を交互に睨み、再びスミレちゃんを睨む。

 睨まれたスミレちゃんは、びくりと体を一瞬ふるわせて硬直した。


「バティン。お前よく見ると、何だか雰囲気が変わってるね。やれやれ。フルーレティの尻拭いなんて、オイラはしたくないんだけどなあ」


 エロピエロが手にしていた服を無造作に投げ捨てて、大きくため息をついた。

 それを見ていたリリィが、怒って前に出る。


「何が尻拭いよ! 女の子を襲って、服を盗んでるような変態盗人野郎が、偉そうな事言ってるんじゃないわよ!」


「失礼な奴だなあ、お前。オイラには、ガキだからと言って黙って見過ごすような優しさはないぞ」


 言った途端、エロピエロが手に魔力を溜めて、リリィを襲う。


「ロックグラビテイション」


 エロピエロが魔法を唱えると、空中に魔法陣が生まれ、そこから顔位の大きさの岩が出現した。

 そして、その岩から引力が発生して、リリィが石に引き寄せられる。


「きゃあっ!」


「リリィ!」


 それを見て、咄嗟に私も魔法を使う。

 もちろん、いつもの長ったらしい自己流の詠唱を唱えている暇がないので、無詠唱で魔法を使った。

 私の使った魔法は、エロピエロの魔法より強力な引力の魔法だ。

 もちろん、引き寄せる先は私の所である。


「ひゃっ」


 リリィは私の魔法に引っ張られて、私の所まで宙を舞う。

 そして、私はそのままリリィを受け止めた。


「ジャスミンありがとう!」


「うん。リリィ、怪我はない?」


「ええ。ジャスミンのおかげよ」


 私とリリィがお互いをギュッと抱きしめながら話す様子を、エロピエロが驚きながら凝視ぎょうししていた。

 スミレちゃんはエロピエロに睨まれて、すっかり戦意を喪失させて、プルプルと震えて私の後ろへと身を隠している。


 うーん。

 スミレちゃん年長者なのに、一番頼りない。

 エロピエロが、よっぽど怖いんだろうなぁ。

 自分が仕えていた人と同格の魔族って言っていたし、それも仕方のない事だよね。

 単純に実力じゃ勝てないだろうし、あんな風に睨まれたら、そりゃあ怖いよ。

 しかも見た目がピエロで、こんな暗がりの洞穴で焚火に照らされた顔だから、何もしてなくても不気味だもん。


 私は後ろに隠れるスミレちゃんをチラリと見て、そんな事を考えながら苦笑する。


「オイラの魔法が効かない? いや、そもそも詠唱無しで、オイラの魔法に勝ったのか!? そんな事があるわけない!」


 何やらワナワナと震えだしたエロピエロが、私を睨みつけて、空中に無数の魔法陣を作り出した。

 その数は数えきれないほどの量で、何が飛び出してくるかはわからないけども、かなり危険だと感じる。


 ちょっと、アレって危ないかもだよね?

 えいっ。


 私はそれを見て、全ての魔法陣に狙いを定めて、つららを魔法で作り出して乱射した。


「――なん……だとっ……!?」


 私の作り出したつららは、全て魔法陣に命中して、魔法陣は割れて崩れ去る。

 つららに魔法陣を凍らす効力を持たせてみたのだけど、どうやら上手くいったようだ。


 やった!

 ナイスだよ私!


 私に魔法陣を全て消されたエロピエロは、信じられないと言った驚愕の顔をして私の顔を見た。

 そして、その視線に気がついたリリィが、私の前に立つ。


「いやらしい眼で、ジャスミンを見ないでもらえないかしら?」


「見てねーよ!」


 どうやらツッコミを入れる余裕はあるみたいだ。


「おい、バティンッ! その娘は何者だい!?」


「あーら、エロピエロ様。随分手こずっているご様子なのね?」


 私の背後でさっきまで怯えていたスミレちゃんが、今のやり取りを見て余裕が出たのか、随分強気になって私の横に立っていた。


「エロピエロ? お前、オイラを愚弄ぐろうしているのか!? いや、今はそれどころではない。その娘は何者だと聞いている!」


 エロピエロの言葉を聞いたスミレちゃんが、私から見ても殴りたくなるほどムカつく相手を見下した目でエロピエロを見る。


「幼女先輩なのよ」


「は?」


 うん。

 そりゃ、は? ってなるよ。

 私が向こうの立場でも、あまりにも意味がわからなくて、は? って、なるもん。


「もう。スミレったら。それだと、伝わらないわよ」


 流石リリィ。

 スミレちゃんの説明は、意味不明だもんね。


「アンタがさっき燃やした、私の服に入っていたパンツを穿いていた美少女よ!」


「ねえリリィ? そう言う事言うのやめて? それに、今はそれどうでも良い事だよね?」


「そんな事ないわよ。大事な事だわ。むしろ、他に大事な事なんてないでしょう?」


 いっぱいあると思うよ?


「たしかに大事な事なのよ。幼女先輩のパンツ焼却問題に比べたら、エロピエロ様がやらかした追い剥ぎ事件なんて些細な事なのよ」


 追い剥ぎ事件の方が、よっぽど重大だと思うよ?


「わかってるじゃない」


「あたりまえなのよ」


 リリィとスミレちゃんが熱い握手を交わす。


 もうやだこの2人。


 その様子を見ていたエロピエロが、気の毒な目で私を見た。


「お前、大変だな」


 うっ。

 同情されちゃったよ。


 めちゃくちゃな2人に囲まれた私は、エロピエロの同情に思わず目から汗を流したのだった。

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