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035 幼女は場の空気に流されやすい

「エロピエロの説明をするなのよ」


「ええ」


 エ、エロピエロって、すっごい嫌なあだ名がついたなぁ。

 サルガタナスって魔族の人。


 リリィとスミレちゃんの2人は、追い剥ぎの犯人であるサルガタナスに、エロピエロと言うあだ名を名付けたみたいだ。

 たしかに、サルガタナスは下着も一緒に脱がしていた。

 だから、エロピエロって言う呼び名は、妙にしっくりしている。

 それはともかくとして、そのエロピエロについてスミレちゃんからの説明が入るみたいなので、私もリリィと一緒にスミレちゃんの説明を受ける事にした。


「まず、エロピエロの使う魔法の属性は闇属性と土属性なの。だから、幼女先輩が使う重力系の魔法も、もちろん使えるなのよ」


「えーと、たしか私が使う土の属性の上位は、闇の属性がまじってるんだよね」


「そうなのです」


 今更なのだけど、こっそり魔法について私は調べていた。

 この世界の魔法は、一般的には下位魔法と上位魔法があり、下位魔法が火と水と風と土の四種類の属性を使う魔法だ。

 そして、上位魔法は四種類の属性に光、もしくは闇の属性を混ぜて使う魔法なのだ。

 私の使う氷の魔法は水に光、重力の魔法は土に闇だったりする。


「ジャスミンが使う重力の魔法……ね。姿が見えなくなるのは、どういう原理なの?」


 あ。それは私も気になってたんだよね。

 私と同じだと、魔法じゃ無理だろうし、どうやって見えなくなってるんだろう?


「それこそが、エロピエロの特殊能力、透過能力なのよ」


 そっか。

 エロピエロの能力なんだ。

 オークみたいな、しょうもない脳力とは違うんだね。


「そうなってしまうと、魔力が尽きたら使えなくなるって事も無さそうね」


 リリィが真剣な面持ちで、手に顎を乗せて深く考え込んだ。

 どうやら、リリィも私と同じように思っていたらしく、その方向で攻略法を考えていたのかもしれない。


「正確に言うと透過能力は、右手で触れたものを透明にして、左手で触れたものを元に戻す能力なのよ」


「え?スミレちゃん。それなら、右手で触れない限りは、透明になれないの?」


「そうなのですよ」


「完璧ではないって事ね」


「そうなのよ。だからと言って、それでどうにか出来るとも、私には思えないなのよ」


「うーん……」


 たしかに。と、私は思った。

 問題は、重力の魔法なんかより、姿が透明になって見えなくなる事だ。

 どれだけ追い詰めたとしても、透明になられてしまっては、捕まえようにも捕まえようがない。


「透明になると、体臭って消えてしまうの?」


「体臭は消えないなのよ」


「勝ったわね」


「え? って、あー。そう言う事ね。スミレちゃんがいれば透明になられても、逃げられないんだ!」


「そう言う事よ」


 私とリリィが微笑み合って頷くと、スミレちゃんが「それは」と続ける。


「申し訳ないけど無理なのよ。私は女の子の匂い専門なのよ」


「ええー」


 私は少し引き気味になる。

 だって、女の子の匂い専門と言った時の顔が、もの凄くドヤ顔だったんだもん。


「使えないわね。と、言いたいところだけど、理解できるから仕方がない事もわかるわ」


 やっぱり理解できちゃうんだ。


「しかし困ったわね。さっき私が襲われた時も、姿が見えなくて何も出来なかったのよね」


「うーん。姿が見えなくなっても雨があたるから、それで居場所を判断するしかないのかな」


「そうね。ただ、日は落ちてしまったし、こんな暗がりじゃまともに判断も出来ないわ」


 うーん。と、3人で考える。


 透過能力をどうにかしないと、どれだけ追い詰めても、逃げられちゃうもんね。

 それに、スミレちゃんよりも、強い人みたいなのに――ん?

 スミレちゃんより強い?

 そうだよ。そうだよ!

 つい流れで、私まで捕まえる事を前提に考えていたけど、エロピエロはスミレちゃんより強いんだ!

 私達だけで、どうにかしようって考えが、そもそもおかしいんだよ!

 よし。

 ちゃんと2人に言おう!

 もうそろそろ、私も流されてばっかじゃいられないもんね!


 私は決心して、強く言葉を投げかける。


「あのね、2人と――」


「――こうなったら、行き当たりばったりよ!」


「了解なのよ!」


「え?」


 ちょっと待って!

 それじゃあ、いつも通りだよ!

 ダメダメなやつだよ!

 と言うか、私の話を聞いて?


「だから、そ――」


「――覚悟しなさいエロピエロ!」


「引導を渡してあげるなのよ!」


 リリィとスミレちゃんが走り出す。 


「あ……」


 うん。

 私には、あのお馬鹿な2人を止めるのは無理だよね。


 結局、私の決心は跡形もなく崩れ去り、場の空気に流される事が決定した。

 私は、走り行く2人を見てため息を一つついて、2人を追いかけた。

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