032 幼女の心と秋の空
リリィの捜索は、ニクスちゃんのパパと一緒に行く事になった。
ニクスちゃんのパパに悪いからと断ったのだけど、ニクスちゃんのパパが娘の恩人を放っておけないと言って、一緒に来てくれる事になったのだ。
ニクスちゃんのお家を出ようとした時、ドアを開けると、まだ雨がザーザーと降っていた。
私が魔法を使おうかと考えていると、ニクスちゃんのパパが傘を持って来る。
「これを使いなさい」
「ありがとー」
私は傘を受け取ると、外に出て傘を差した。
水玉模様で可愛い。
ニクスちゃんの傘かな?
「ジャス。良かったらこれ着てってな」
私が傘の模様に見惚れていると、今度はニクスちゃんがローブを渡してくれた。
「うん。ありがとー」
私が着て来たカーディガンはビショビショになっちゃったし、気を使ってくれたんだね。
嬉しいなぁ。
私は早速ローブを着る。
布地が分厚くて暖かく、雨で冷え込む今には丁度良い感じだった。
あまり考えたくないけども、リリィが追い剥ぎされちゃってたら、これを着せてあげよう。
「それじゃあ、行こうか。ジャスミンちゃん」
「うん」
リリィの捜索開始だ。
しかし、思ったよりもリリィの捜索は困難な事になってしまった。
ニクスちゃんのパパから、今まで被害の起きた場所を聞いて、リリィが行っていないか一つ一つ見て回る。
だけど、リリィの姿は無く、時間だけが過ぎていく。
「ここにもいない……。どうしよう」
リリィは無事なのだろうか? と、次第に焦りが出てくるのを私は感じていた。
「ジャスミンちゃん。今気がついたけど、事件現場は全部開けた道みたいだ」
「え?」
たしかにその通りだと思った。
今まで見て回った所を思い出すと、狭い横道だとか人通りが少なそうな場所だとかで、事件が起きていなかったのだ。
そして、全てが開けた広い道ばかりだった。
「開けた道で、まだ事件が起きてない場所に行ってみるかい?」
「うん!」
私はニクスちゃんのパパに連れられて、急いでまだ事件の起きていない開けた道のある場所へと向かう。
そうして、二つ目の場所まで辿り着くと、家の塀にもたれかかって座り込む、裸のリリィの姿を見つけた。
「リリィ!」
私がリリィの名前を呼んで近づくと、リリィがゆっくりと顔を上げて私を見た。
私は着ていたローブをすぐに脱いで、それをリリィに着せる。
そして、リリィをギュッと抱き寄せた。
そうして私は気づいた。
リリィ。震えてる……。
いつも馬鹿な事ばかり言って、私を振り回していたリリィが震えていたのだ。
追い剥ぎの被害に合って、それ程の恐怖を味わったんだ。
私は心が締め付けられる様に、苦しくなった。
大好きな友達が追い剥ぎの被害にあって、こんなにも弱々しくなっている。
思わず涙が零れた。
こんなにも悲しい気持ちになったのは、初めての事だった。
「もう。心配したんだよ」
私の、リリィを抱きしめる腕に力がこもる。
「ごめんねジャスミン」
リリィが力なく答える。
震えるリリィを抱きしめながら、私は追い剥ぎの犯人への怒りを覚えた。
絶対に許さない。
私の大切な友達に、こんなにも酷い事をした犯人を、私は絶対に許さない。
少しの間、リリィを抱きしめていると、リリィの震えが止まった。
震えが止まったので、私はリリィの体を離した。
いつまでも、リリィをこのままにしておけない。
一度、宿に戻ろう。
それから、犯人を見つけに行くんだ。
そう私が心の中で決心していると、リリィが私に話しかける。
「ありがとう。それにしても、まさか私まで追い剥ぎに合うなんてね」
「ホント、馬鹿なんだから。もう無茶しないでね?」
「そうね。反省するわ」
リリィからは、いつもの様な元気が無く、見ていて居た堪れない。
「リリィ……」
私は、元気のないリリィの事が見ていられなくなって、もう一度抱きしめた。
リリィがこんな辛い目に合うなんて。
いつも私を振り回して、困らせてくれちゃうリリィだけど、こんなの嫌だよ!
いつものお馬鹿で元気なリリィが良いよ。
「ジャスミン。ジャスミンの柔肌を、もう少し味わっていたいのだけど、今はそれどころじゃないの」
「へ?」
おや?
リリィの様子が……。
リリィが私に抱き付かれながら、勢いよく立ち上がる。
おかげで、せっかく羽織わせたローブが、勢いで地面へ落ちてしまった。
「あの変態盗人野郎を捕まえに行くわよ!」
「リリィ? 随分元気だね」
「え? そりゃあ、さっきまで裸にされて、この雨のせいで体が冷えて寒かったんだもの。でも、ジャスミンの温もりを2回も貰ったから、完全復活したのよ。当然じゃない」
「あはは……」
うん。知ってた。
リリィって、そう言う子だもんね。
うんうん。
流石のリリィも、被害者側になって落ち込んじゃったんだなんて、思ったりしないよ?
涙が零れた?
ないない。
雨が顔にあたって、涙に見えただけじゃないかな?
でも、そうだよね。
うんうん。
わかるわかる。
この雨の中、素っ裸にされたんだもん。
そりゃあ、寒さで体も震えちゃうよね。
え?
犯人が許せない?
全然そんなこと思わないよ?
むしろ、狙う相手間違えちゃったのかな?って感じで、すっごく不思議だよ。
え?
いつものお馬鹿で元気なリリィ?
戻って来なくていいよ?
「ふっふっふっふっ。待ってなさいよ変態盗人野郎。ジャスミンの温もりでヒートアップした私に、恐怖して震えて待つがいいわ!」
だから、戻って来なくて良いってば……。
私がリリィの相変わらずな反応を見て、「はあ」とため息をこぼして、地面に落ちたローブを拾う。
そして、私が拾ったローブをリリィに再び羽織わせる横で、ニクスちゃんのパパが呆気にとられて呆然としていた。
て、言うかリリィ。
さっき反省するって言ったよね?




