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003 幼女がおっさんになった

 フラワーサークルからの帰り道、私は本当にリリィとすれ違いになっただけなのか不安になった。


「リリィ……」


 私は考えた。すれ違ったとして、いったい何処ですれ違ったんだろう? と。

 そして、思い出した。


 パパとママに、危ないから近づいちゃ駄目って言われてた崖道かも。


 危ないからと聞かされていた崖道は、近道になるのだ。

 だから、リリィが早く家に帰る為に、崖道を利用した可能性は高い。


 よしっ!


 それからの、私の行動は早かった。

 私はリリィの事が心配で、私も近道になるから通ろうと考えたのだ。


 それに、すれ違ったのではなく、リリィの身に何か起きたのかもしれない。

 だからこそ、私の不安は消えたりしていない。



 崖道までやって来た私は、パパとママが危ないと言った理由を、思い知らされた。

 崖道は本当に危なくて、歩ける場所も大人の片足幅分の大きさしかなかった。


 私は息を飲み込んで、目に涙を浮かべながら決心する。


 リリィの事が心配だもん。

 勇気を出せ私!


 今の私だからわかる。

 これは、勇気ではなく無謀だ。

 だけど、この時の私は、それが勇気だと信じていた。

 だからこそ、リリィを早く見つけたい一心で、その崖道を進む事にしたのだ。


「リリィ……」


 一歩。また一歩と、少しずつ、少しずつと進んでいく。

 時折、風が崖道を吹き抜けて、それが私の恐怖や不安を煽る。


 もし、リリィがこの崖道を通って、落ちてしまったらと不安で下を見る。

 だけど、暗がりで崖下など見えるわけもなく、私は不安を消す為に目をつぶって首を横に振る。


 そして、また一歩。

 また一歩と、少しずつ進んでいく。

 不安は消えない。

 そして、私の不安は焦りとなる。


 月明かりしかないこの崖道で、9歳と幼かった私がまともに進む事が出来るはずがなかったのだ。

 その不安からくる焦りで慎重さに欠けてしまった私は、崖道の途中で足を滑らせて転落してしまった。


「――きゃっ!」


 落ちる。落ちる。真っ逆さまに。

 私は目からいっぱい涙を流しながら落ちていく。


 パパとママ、言いつけを破ってごめんなさい。

 リリィ、どうか無事でいてね。


 そして、私は落ちながら気を失った。





 痛い……。


 私は、全身の痛みを感じながら、ゆっくりと目を覚ました。

 目を開けて体を起こそうとすると、痛みで上半身を起こすのがやっとだった。


 周囲を見まわして、頭上を見上げると、大きな木がある事に気がついた。

 運良く崖下にあった大きな木に助けられ、一命を取り留めたようだ。


「……っう」


 だけど、その時に強く頭を打ってしまったようで、とくに酷い痛みが頭を襲う。


 帰らなきゃ。


 私は痛みに耐えながら、一生懸命立ち上がった。


 帰らなきゃ。


 私は痛みに耐えながら、フラフラとした足取りで必死に歩いた。


 途中何度もこけて、擦り傷を何度も作った。

 こけた回数だけ、頭に頭痛が走り、全身に激痛が走る。

 それでも、私は必死に歩き続けた。


 そうして、フラフラになりながらも村の近くまで何とか辿り着いた私は、そこでリリィと再会した。


「ジャスミン!!」


 私を見つけたリリィの目から、大量の涙が溢れだす。

 そして、リリィが私に駆け足で近づいて来て、私を強く抱きしめた。


 私はリリィが無事である事に安堵して、そのまま気を失ってしまった。





 目が覚めると、見慣れた天井が見えた。

 私は自分の部屋のベッドに運ばれたようだ。

 まだ全身が痛い。

 だけど、不思議と頭の頭痛は治まっていた。


 私は上半身を起こして周りを見る。

 側でパパとママ、それからリリィが私を囲っていた。


「ごめんね。ごめんねジャスミン」


 大粒の涙を流したリリィに謝られて、私はリリィから別れた後の話を聞いた。

 リリィは私より先に村に帰っていて、私がまだ家に帰っていないと知らされて、必死に私を探してくれていたらしい。

 私の考えは当たっていたようで、リリィも崖道を通ったらしいのだ。


 だから、リリィは自分のせいだと、自分を強くせめて私に謝った。

 でも、そんな事ないよと、私は未だに泣き止まないリリィの頭を撫でてあげた。


 パパとママも、二人共崖道を通ったのだから、どっちが悪いのではなく、二人共悪いのだと私達を叱った。

 でも、その後は、無事で良かったと抱きしめてくれた。


 だけど、この時の私は頭に違和感を感じ始めて、少しずつ気持ちが悪くなっていった。

 そして、自分じゃない誰かの記憶が私の中に流れ出した。

 頭の中がごちゃごちゃして、まるでミルクをコーヒーに入れて、混ざっていく様で気持ちが悪い。


 私の体調の不良を察したパパとママとリリィは、今日はこのまま休みなさいと、私をベッドに寝かせ部屋を出て行った。


「何これ? ……何これ?」


 皆が部屋から出て行くと、いよいよ私の中に誰かの――前世の記憶が凄い勢いで甦ってくる。

 そして、全てを思い出した私は、深い深いため息をついた。





 そうして、あれやこれやで今に至ったわけなんだけどと、そこまで思い返して立ち止まる。


「こんな遅い時間に尋ねたら、迷惑だよね? ……よし。明日にしよう!」


 私は回れ右をして、我が家へと戻る事にした。


 意外な事?に、この後はぐっすり眠れました。

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