029 幼女と集落の空模様
山の麓の集落。
そこには、獣人や鳥人を含めた獣族が多く暮らしている。
獣族の獣人達はルピナスちゃんの様に頭に耳をつけていて、そしてお尻から尻尾が生えている種族だ。
その種類は様々で、犬だったり猫だったり兎だったりで、ケモナーには嬉しい種族なのだ。
残念ながら私はケモナーではないので、とくに興奮する事は無いけど、女の子のケモ耳とケモ尻尾は可愛いなと改めて実感した。
と言っても、いつもルピナスちゃんと言うケモッ娘天使と一緒にいるので、私は目移りしない。
「雨が降りそうね」
ブーゲンビリアお姉さんの一言で空を見上げると、たしかに雨の降りそうな黒い雨雲が空を覆っていた。
いつの間にか、空を雨雲が覆っていたらしい。
普通は雨雲の様な黒い雲があれば、あたりが暗くなって気が付くのだけど、この集落では住み慣れていないと気が付きにくい理由があった。
集落には灯篭の様な物が、そこら中にあり、そこから出る光が周囲を照らしている。
その光があまりにも明るく周囲を照らしているから、空を覆う雨雲があっても明るいのだ。
もちろん、日が落ちても明るい。
「明日、雨降らないといいのだけれど」
「そうだね。雨の中の山越えは大変だもんね」
私は、うんうん。と頷いたけれど、リリィの解釈は私と違っていたらしい。
「ジャスミン。流石に雨が降ったら、山越えせずに中止になると思うわよ?」
「え!? それは困る!」
でも、たしかに雨で地盤も緩くなっちゃうし、山越えは厳しいのかも。
チョコの実狩りを、かなり楽しみにしていたから、中止になるのは嫌だなぁ。
そんな事を考えながら、リリィ達と散歩をしていると、人だかりを見つけた。
すると、ルピナスちゃんが興味津々な様子で、駆け足で近づいて行ってしまった。
「なんだろうね?」
「そうね。ジャスミン、私達も行ってみましょうか」
「うん」
ルピナスちゃんの後を追って人だかりまで行くと、何やら不穏な話声が聞こえて来た。
「また被害者が出たんだって?」
「これで何人目だ?」
「もう、ここもお終いかもしれないわね」
何かの事件かな?
もしかして魔族絡み?
私は少しの不安を抱いて、リリィの顔を見た。
「ジャスミン。少しここで待ってて」
「え? うん」
私が返事をすると、リリィが人だかりの中心まで、人をかき分けて進んでいった。
「あまり良くないタイミングで、来ちゃったかもしれないわね」
人だかりに入っていくリリィの後姿を見ていると、ブーゲンビリアお姉さんがルピナスちゃんを連れて話しかけてきた。
「ジャスミンちゃん。ルピナスちゃんと一緒に、ここで待っててもらえないかしら? 私は村長に、この事を伝えに行って来るわ」
「うん。ルピナスちゃん、手を繋ごっか?」
「はーい」
私はルピナスちゃんと手を繋いだ。
そうして暫らくの間待っていると、リリィが戻って来た。
「お待たせ。って、あれ? ビリアは?」
「ビリアお姉さまは、村長に報告に行ったよ」
「そう。それは良い判断だったかもしれないわね」
「何があったかわかったの?」
「ええ」
リリィは返事をすると、真剣な面持ちで言葉を続ける。
「ここ最近、この集落で追い剥ぎが起きているみたいなのよ」
「追い剥ぎ?」
「ええ。そして、追い剥ぎの対象は、必ず少女達の着ていた衣服」
「……うん?」
「追い剥ぎにあった少女達は、全裸にされて、その場でしゃがみこんで動けなくなるでしょ?」
「う、うん」
「それで皆、その少女を見に来てるみたいよ」
「最低だよ!」
どうりで男の人ばかりで、女の人がいないと思ったよ!
「それでね、何故だか目撃情報がなくて、犯人は未だに謎なままらしいわ」
「それって、どう考えても、犯人は魔族だよね?」
「ジャスミンわかるの?」
「わかるの? って、そりゃ――」
はあ。と、ため息をついて空を仰ぐ。
「そんな馬鹿な事をするのは、魔族しか考えられないよ」
パンツを盗むオークに、匂いの付いたハンカチを盗んだスミレちゃん。
今まで会った魔族は、たったの2人だけだけど、どちらも女の子の私物を盗む変態だった。
そう考えれば、今回の衣服を追い剥ぎする犯人も、魔族と考えるのが妥当だと言えるはず。
私が空を仰ぎながら、そんな事を考えていると、一粒のしずくが私の頬を撫でる。
「あ。雨だ」
ぽつぽつと、ゆっくりと雨が降り始めた。




