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288 幼女の日常は今日も平和に過ぎていく

 何処までも続く青空には雲一つなく、日差しが優しく降り注ぐ。

 天気は快晴。

 今日は最高のピクニック日和。

 私はリリィとスミレちゃんとルピナスちゃん、それにマモンちゃんと一緒に、トランスファの近くにあるお花畑のフラワーサークルまで来ていた。

 勿論トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんも一緒だ。


 可愛いお花を潰してしまわない様に、慎重に場所を選んでいく。

 そうして、ここだって思える場所に大きめのレジャーシートを敷いて座ると、リリィが満面の笑顔で沢山のお弁当を広げ始める。

 不意に爽やかな風が頬を撫でて、私は花の香りを感じとると同時に、お弁当のオカズの美味しそうな匂いがかすかに鼻をかすめる。

 匂いにつられてリリィが並べるお弁当に視線を向けると、リリィがお弁当を全て並べ終えていて、私はお弁当を見て目を輝かせた。


「わぁ。これ、本当に全部リリィが作ったの?」


 私が訊ねると、リリィは自慢気に答える。


「ええ。ジャスミンに食べてもらいたくて、作って来たのよ」


 色とりどりのオカズは、とても綺麗に並べられて、そして可愛いものばかり。

 私はお弁当の中身を見て目を奪われる。

 すると、私の肩の上に座っていたトンちゃんが、我先にと宙を舞い、お弁当に手を伸ばす。


「いただきますッス~」


 トンちゃんがオカズを取ろうとした瞬間だった。

 リリィがトンちゃんの目の前から、お弁当をひょいっと持ち上げてニッコリ笑う。


「ドゥーウィン」


 トンちゃんはリリィの一言で顔を青ざめさせて、無言で頷いた。


「さあ、ジャスミン。食べてみて?」


「う、うん」


 私は冷や汗をかきながら、玉子焼きをパクリと食べる。

 すると、玉子焼きはふんわりとしていて柔らかく、口の中に甘くて優しい味が広がっていく。


「美味しい! 凄いよリリィ。とっても美味しいよ」


「本当? 良かったわ。さ、ドゥーウィン達も良かったら食べて」


「良いッスか!?」


「勿論よ」


「やったッスー!」


 トンちゃんがリリィから許可を貰って、嬉しそうにお弁当を食べ始める。


 さっきのは、なんだったんだろう?

 うーん……あ。

 もしかして、最初に食べるのが私じゃないと駄目だったとか?

 もしそうなら、そんな事を気にしちゃうリリィが、ちょっと可愛いかも。


 などと私が考えてニヤニヤしていると、スミレちゃんがおにぎりを手に取ってリリィに話しかける。


「もう修業は終わったなの?」


 修業?


「そう言えば、マンゴスチンさんとベルフェゴールさんから料理を教わってたんだぞ」


 あぁ。

 そう言えばそうだよね。

 その2人から料理を教わっていたのを私も見た事あるよ。


「ちょっとプリュ。ジャスミンには内緒にって言ったでしょう?」


 あ、内緒だったんだね。

 見かけた時に声をかけようと思ったけど、声をかけなくて正解だったよ。


「そうだったんだぞ。ごめんなさいだぞ」


「仕方がないわね」


 リリィはそう言って、眉根を下げて謝るプリュちゃんの頭を優しく撫でた。

 すると今度はマモンちゃん尻尾をピンと立たせて立ち上がり、勝気に笑いながらリリィに指をさす。


「リリィ=アイビー! 勝負よ!」


「嫌よ」


「何ですってーっ!?」


「マモンちゃん、勝負って何をするなの?」


 リリィの返事に怒るマモンちゃんにスミレちゃんが訊ねると、マモンちゃんはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔で、無い胸を張る。


「どちらが多くお弁当のおかずを食べられるかの勝負よ!」


「はあ? 私がジャスミンの為に作って来たお弁当を、何でアンタなんかとの勝負に使わなきゃいけないのよ? 喧嘩売ってるの?」


 リリィがもの凄く怖い形相で、マモンちゃんを睨む。


「にゃ!?」


 リリィに睨まれたマモンちゃんは、丸くなって尻尾を隠す。

 すると、ルピナスちゃんがマモンちゃんの頭を、いい子いい子と優しく撫で始めた。


「リリィお姉ちゃんは怖くないよ」


「そうだぞ。リリさんは優しいんだぞ」


「がお」


「マモンなんて放っておくです。どうせバカだから、直ぐに立ち直るです」


「ラテの言う通りッスよ。化け猫は放っておいて、早くお弁当を食べないと、ご主人に全部食べられるッスよ」


 ぎくりっと、私は手を止める。

 実はリリィの作って来てくれたお弁当が凄く美味しくて、皆がお話をしている最中に、私は夢中になってお弁当を食べていたのだ。

 トンちゃんとラテちゃんが私に呆れるような眼差しを向けるので、私は言い訳を思いついて口に出す。


「身長! 私は身長を伸ばす為に、いっぱい食べなきゃダメなんだよ!」


 私が思いついた言い訳を言うと、ルピナスちゃんが首を傾げて私に訊ねる。


「ジャスミンお姉ちゃん身長が縮んじゃったから、元に戻したいの?」


「うっ……」


 はい。

 実は残念なような、嬉しいような、悲しいようなお知らせですが、私の身長は旅をして行く中で縮んでいたのです。

 2センチ程……。

 おかげで今の私は身長118センチ。

 元々身長を伸ばしたくないと思った私だけれど、旅をして来て不便な事もあったし、正直微妙な気持ちで一杯になっていた。


「ラテがご主人の頭の上で、ずっと重力の魔法なんて使ってるからッスよ」


「ジャスの頭の上が寝心地良いのが悪いです」


「主様は十分大きいんだぞ!」


「がお!」


 うぅ……。

 プリュちゃんとラヴちゃんの優しさが、心にしみるよぅ。


 私がプリュちゃんとラヴちゃんの優しさに慰められながら、おにぎりを口に入れて頬張っていると、スミレちゃんが丸まっているマモンちゃんに訊ねる。


「そう言えば、マモンちゃんはベルゼビュート様の許を離れて良かったなの?」


 スミレちゃんが訊ねると、マモンちゃんは顔を上げて、から揚げを一つ手で掴んで食べて答える。


「私に敗北のまま諦めろって言うの?」


「何よアンタ。勝つまでつきまとうつもりだったの?」


 マモンちゃんの答えに、リリィが凄く嫌そうな表情を浮かべて質問した。

 すると、マモンちゃんは目を光らせて、ニヤリと笑って答える。


「今度会ったら覚悟しろよって、いつも言ってたでしょ? 有言実行が私の長所だって、ベルゼビュート様が言っていたわ!」


「偉いんだぞ!」


「マモ、えらい」


 プリュちゃんとラヴちゃんが褒めると、マモンちゃんがドヤ顔になって喜ぶ。

 私がそれを可愛いなぁと思いながら見つめていると、リリィが私に優しく微笑んだ。


「ジャスミン。この馬鹿は放っておいて、私、ふと思ったのだけれど」


「え? あ、うん」


「馬鹿って言うな!」


 怒るマモンちゃんを無視して、リリィが言葉を続ける。


「思えば、ここから全てが始まったわよね。色々な事があって大変だったけど、それでも私は今までの事を良かったと思えるわ」


「うん」


 そうだよね。

 本当に色んな事があったよね。


 私もリリィと同じように思い出す。

 前世の記憶が蘇る前の私は、リリィと一緒に、このフラワーサークルにやって来た。

 そして、その帰り道に崖から落ちて、私の運命は大きく変わった。

 最初にオークと出会い、次にスミレちゃんと出って、そして私は不老不死になると決めたのだ。


 なんだか、とても懐かしく感じるなぁ。

 本当に、色んな事があったもんね。


「あの時はジャスミンのお尻に敷かれたハンカチ一つで興奮していた私も、今ではすっかり慣れてしまったわ」


 うん?


「ジャスミン覚えてる? 初めて一緒にお風呂に入った時の事を」


 えーと……おかしいなぁ。

 なんでだろう?

 同じ気持ちだと思ったんだけど、全く違う感じがしてきたよ?


「あの時に感じた胸の高まりの事は、きっと生涯忘れない。ジャスミンの小さなおっぱ――」


「ストーップ! 待って!? 待ってリリィ! なんの話をしているの!?」


「何って、ジャスミンと私の結婚に至るまでの、馴れ初めの話じゃない」


 やっぱりだよ!

 全然違う事を考えてたよ!

 って言うか、意味がわからないよ!


「ほら。一緒に新婚旅行の下見をしたんだもの、そろそろ本格的に結婚をする時期だと思うのよ」


 リリィ的には、あの旅って新婚旅行の下見だったの!?

 って言うか、そもそも、それ馴れ初めじゃないよ!

 馴れ初めって言うのは、恋のきっかけだとかそう言う……って、そんな事よりだよ!


「しないよ? 結婚なんてしないよ?」


 私が必死に異議を申し立てると、リリィが顔を青ざめさせて困惑する。


「でもジャスミン。私は確かにジャスミンの口から、告白を聞いたわよ?」


 え? 告白?

 いやいやいや。

 してないよ?


「ほら。エルフの里で、ベルゼビュートと戦っている時に言っていたじゃない。愛してるって!」


「いや本当に言ってないよ! 大好きとは言ったけど、愛してるなんて言ってないよ!」


「同じ事でしょう?」


「同じじゃないよ!」


 って言うか、例え言っていたとしても、それは結婚の申し出にはならないよ!


「リリィは話を飛躍しすぎなのよ。こう言う事は、時間をかけてパンツを見ながら、じっくり考えるなのよ」


 スミレちゃんがそう言って、リリィの肩を掴んで、リリィとスミレちゃんが私を見る。

 主に下半身を……。


「見るなー!」


 その能力を使われると、物では隠せないから嫌い!

 本当に嫌になっちゃうよ!


 私が手で2人の視線の先を隠しながら訴えると、私の訴えにルピナスちゃんが返事をする。


「ジャスミンお姉ちゃん、パンツが見えてたよ?」


「え?」


「流石はベルゼビュート様をロリコンに変えた魔性の幼女ね! そんなミニスカートで胡坐をかけば、パンツが見えて当然よ甘狸!」


 マモンちゃんに言われて、私は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、足を閉じて体育座りになる。


「主様、お尻が丸見えなんだぞ」


「がお」


「ジャスは相変わらずバカです」


「ぷぷぷ。ご主人、何処までいっても痴女は治らないッスね」


「そこがジャスミンの魅力的な所よ」


 鼻血を出しながら爽やかな顔でリリィが微笑むので、私はティッシュを取り出して、リリィの鼻血を拭き取る。

 すると、マモンちゃんが恐ろしい事を言い出した。


「なるほど分かったわ! リリィ=アイビー! どっちが甘狸のパンツを先に脱がす事が出来るか勝負よ!」


「なんで!?」


「望む所よ! 受けて立つわ!」


「望まないよ受けないで!? って言うか、なんで私のパンツを脱がす勝負なの!?」


「リリィ=アイビーがやる気を出しそうな事だからに決まってるだろ! 真剣勝負で勝ってこそ、意味があるわ!」


「マモン。アンタ、たまには良い事を言うじゃない。勝っても負けてもパンツは頂くわよ」


「あげないよ!」


 って言うか、私を巻き込まないでくれるかな?


 リリィとマモンちゃんが目を合わせてニヤリと笑う。

 そして、笑い転げるルピナスちゃんと、カメラを構えるスミレちゃん。

 トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんの4人は、私がオヤツにと作って来たパンケーキを、幸せそうに食べている。


 ……うん。

 よーし。

 今すぐ逃げよう!


 私が逃げようと立ち上がると、それを合図にするかのように、リリィとマモンちゃんが私のパンツを狙い始める。


「観念しろ甘狸ーっ!」


「安心よジャスミン! 不老不死になったのだから、パンツを穿いて無くても死なないわ!」


「そう言う問題じゃないよ!」


 私は助けを求めるべく、周囲に視線を向ける。

 スミレちゃんは目を輝かせながら写真を撮り、ルピナスちゃんはお腹を抱えて笑い転げている。

 私は自力でなんとかするしかないと察して、魔法を使って抵抗を強めたのだけど……。


「って、リリィ待って!? それスカートも脱げちゃう!」


「今日も平和ッスね~」


「主様が大変な事になってるんだぞ!?」


「いつも通りの日常茶飯事で平和な証拠です」


「が、がお」


「本当に待ってってば! 見えちゃうから! おしりとか全部見えちゃうから! って、なんでマモンちゃんは私の上着を脱がそうとしているの!? そっちにパンツは無いよって、ほっ本当に2人共待って!? 脱げっ、全部脱げちゃう! 上も下も全部脱げちゃうか――っきゃあーっ!」




~あとがき~


『幼女になったので不老不死になりに行きます』は、今回が最終話になります。

 ここまで読んで下さって、皆様本当にありがとうございました。


 今回は最終話と言う事で、少しだけ、この作品について書こうと思います。


『鐘がために英雄はなる』という全く毛色の違う一作目を書いていまして、この作品は、その一作目の外伝っぽい感じで書き始めました。

 一作目は、この作品と違ってギャグ少なめで登場人物も普通に死んじゃうような真面目な感じの作品なので、息抜き程度の気持ちで書いていたのですが、気が付いたらこっちがメインで書くようになっていました。

 それも、この作品を読んで頂いていた皆様のおかげで、頑張ってこれたからだと思っています。

 皆様のおかげで、無事に最終話を迎える事が出来た事に感謝します。


 最後に、この作品の続編のご案内をさせて頂こうと思います。

 タイトルは『幼女になったので不老不死になりました~神々残滅大作戦?ううん。お友達大作戦だよ!~』です。

 何故タイトルを変えて再始動したか理由を述べますと、この作品のタイトルが『幼女になったので不老不死になりに行きます』なので、不老不死なってしまったら流石に終わらせなダメでしょって感じで思いまして、キリも良いので一度終わった感じです。

 現在絶賛連載中ですので、もし宜しければ続編も引き続き読んで頂ければ嬉しいです。


 それでは、皆様最後までお読み頂いて、本当にありがとうございました。

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[一言] 次の作品も頑張ってくださいね(  ^ω^)
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