286 幼女のパンツが世界を救う
私がとんでもない勘違いをしていた事に気が付くと、そこで私を呼ぶリリィの声が聞こえてきた。
「ジャスミーン」
私はリリィに振り向く。
そして、振り向いて私は少し引いた。
「が……ばっ…………っ」
リリィはベルゼビュートさんを押さえ込んで、私が渡した魔法薬を無理矢理飲ませていたのだ。
そんなリリィの姿に私もニッコリ笑顔。
わぁ凄ぉいリリィ。
私達が束になっても捕えられなかったベルゼビュートさんを、私がたっくんとお話してる短い間に、余裕で押さえつけてるよ。
私も動きの速さじゃ、ベルゼビュートさんを捕まえるのなんて絶対無理だし、リリィに頼んで正解だったね。
って、そうだった。
お話してる場合じゃないよね!
私は息を大きく吸って、リリィに向かって大きく声を上げる。
「リリィ! 魔法を使うから、逃げられないように、地面に開いた穴の中にベルゼビュートさんを放り投げて!」
「わかったわ!」
私はリリィの返事を聞いて、空を飛んで穴の開いた場所の上空へと向かう。
「ご主人、どうするッスか?」
「止めをさしてやるです」
「あ、主様、殺しちゃうのか!?」
「がお!?」
「あはは。違うよ。もう悪い事しないように、お仕置きするの! 皆手伝って」
「了解ッス~」
「わかったです」
「頑張るんだぞ!」
「がおー!」
リリィがベルゼビュートさんを穴の中に放り投……蹴り飛ばし、ベルゼビュートさんが穴の横壁にぶつかり、その衝撃で大地が揺れる。
私はトンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが加護から変換してくれた魔力を右手に集中し、幾つもの魔法陣を目の前に浮かび上がらせた。
「我はジャスミン。ジャスミン=イベリス」
ベルゼビュートさんが穴の中で、フラフラと飛行を始める。
「全てを統べる全知全能の神々よ」
ベルゼビュートさんが上を見上げて、真上にいる私を怒りに満ちた目で睨む。
「我が魔力、そして、尊く愛すべき自然の加護全ての力を糧とし、彼の者にその力を示し包み込め」
「切り刻む!」
ベルゼビュートさんが叫び、莫大な魔力を帯びた無数の風が、斬撃の如く私を襲う。
「ジャスミン!」
リリィが私を心配そうに見つめて叫ぶ。
私は向かってくる風の斬撃を、魔力を集中していない左手を使って、同じ風の魔法を生み出して紙一重で逸らしていく。
多少かすったりもしているけれど、ほんのかすり傷程度なので、問題ないし気にしてなんかいられない。
だから、私はリリィに微笑む事で大丈夫だと伝える。
そして……。
「幻素砲擁!」
私が呪文を唱えた瞬間に、私が浮かび上がらせた魔法陣から、ベルゼビュートさんに目掛けて一斉に魔法が飛び出した。
それは、四大元素全てを含む魔法。
風、土、水、火。
その全ての魔力を取り入れた私の魔法が、ベルゼビュートさんに目掛けて飛んで行き、ベルゼビュートさんは両手を前に出した。
「全て食ってやるぞ! 我の力の糧となれ!」
ベルゼビュートさんが暴食の能力で私の魔法を食べる事なんて、絶対に出来ない。
何故ならベルゼビュートさんがリリィに飲まされた魔法薬は、飲んだ人の能力を、かかっている物から使用する物まで全て封印する魔法薬だからだ。
「ぐあああぁーっ!」
ベルゼビュートさんは私の魔法の直撃を受けて、悲鳴を上げる。
そして、私の視界に入るリリィも鼻血を噴き出して、幸せそうな顔をする。
え? リリィ?
急に鼻血なんて出して、どうしたの?
あ、わかったかも。
どうせその位置からだと、私のパンツが見えるとか、そんな事でしょう?
全く、本当にリリィはやんなっちゃうなぁ。
ベルゼビュートさんは私が放った魔法を全て受けて、その場で放心状態になる。
そして、私はそんなベルゼビュートさんを見て、傷が無いかこの場から確認する。
えーと……うん。
傷は無いね。
大成功だよ!
私が放った魔法は幻。
魔法を受けると、まるでもの凄い衝撃を受けているかのような錯覚を、感じ取るだけのもの。
そして、魔力を帯びた四大元素で受けた相手を優しく包み込み、傷を癒す魔法なのだ。
さっきリリィに思いっきり蹴られてたし、すっごいフラフラしてたもんね。
あのままだとリリィに殺されちゃうもん。
と、私が考えた時だった。
私は信じられない物を見てしまう。
あれ?
パンツがヒラヒラと落ちてってる。
うーん……あのパンツ、何処かで見たような……って、あれっ?
お股がスースーするよ?
私は顔を青ざめさせて確認する。
そして気が付いてしまった。
ぱ、パンツ穿いてないーっ!?
なんで!?
どうしてなのー!?
私は慌てながら、ヒラヒラと舞うパンツを見る。
腰の部分が切れてる!?
あの時だ!
ベルゼビュートさんが使った魔法で、幾つか私にあたってたから、その時に切れて脱げちゃってたんだ!
急いで取りに行かなきゃ!
しかし悲しいかな現実は。
私がいらない事をあーだこーだと考えている間に、パンツは放心状態のベルゼビュートさんの顔にパサリと不時着する。
「きゃーっ! ごめんなさいー!」
私は涙目になりながら、大急ぎでベルゼビュートさんの許まで急降下する。
そして、私は急降下する途中で、再び信じられないものを見てしまった。
それは、私のパンツを顔に被ったまま、スーハースーハーと何度も鼻で息を吸い吐き出すベルゼビュートさんの姿だった。
ベルゼビュートさんのその行動に、私は顔から血の気が引いて行くのを感じながら、急ブレーキして立ち止まる。
「べ、ベルゼビュートさん?」
私が声をかけたその時、ベルゼビュートさんは私のパンツを両手で掴み、真上にかざして眺める。
そして、ベルゼビュートさんの頬に、一粒の涙が流れた。
「我は……我は今まで、なんと愚かな事をしていたのか」
私は驚きのあまり開いた口がふさがらなくて、硬直したままベルゼビュートさんを見続ける。
「柔らかで、顔を……否。全身を包み込む様な、温かい感触。注意深く見ぬと見逃してしまいそうな、ほんのりと残る用を済ませた後のシミ。鼻に轟く甘く優しい香り」
私の全身に鳥肌が立ち、私は顔を引きつらせる。
「我は今まで、こんなにも素晴らしい物を、滅ぼそうとしていたのか……っ」
ベルゼビュートさんはパンツを再び顔に被せて、スーハースーハーと息を吸う。
そして、とても恍惚とした表情で、私のパンツを再び掲げて広げた。
み、み、みぃぃっ!
「見ないでっ! 広げないでっ! 嗅がないでっ! 触らないでーっ!」
ズドーンと私の魔法が飛び出して、地面に開いた穴に大きな音が鳴り響き、穴は急速に成長を遂げて拡大した。
と言うか、拡大し続けている。
私はあまりの恥ずかしさに混乱して、何度も何度もベルゼビュートさんに魔法を放ち続けているからだ。
その魔法は、ベルゼビュートさんと初めて戦った時にやってしまった山を消し飛ばした時よりも、もっと強力な魔法。
魔法で止む事の無い爆発を繰り返し、地面が溶けるほどの酸を四方八方にばら撒き続け、空気を圧縮した砲弾を撃ち続け、最早何倍なのかすらも分からなくなる程の重力をベルゼビュートさんに向かって放ち続ける。
「ぷぷぷ。ご主人、流石ッス。流石は変態を生み出すプロッスね」
「ジャスは相変わらずおバカです」
「主様、落ち着くんだぞ! 星が壊れるんだぞ!?」
「ジャチュ。ベリュちぬ」
こうして、ベルゼビュートさんとの長きに渡る戦い? は、幕を閉じるのであった。
ちなみに、私は必死に止めてくれたプリュちゃんとラヴちゃんに感謝をして、死にかけたベルゼビュートさんに土下座をして謝った。
そして、このベルゼビュートさんとの戦いは、私にとって凄く辛い経験になってしまった。
何故なら、トンちゃんがこんな事を言ったからだ。
「ご主人。生き返って早々にノーパンになって、ベルゼビュートにパンツを披露とか、流石は歩く痴女ッス。まさに魔性の幼女ッスね。ぷぷぷ。やっぱりご主人には、魔性の幼女ってあだ名が一番似合うッスよ。ぷぷぷ」
私は何も言い返せず、ただただトンちゃんに向かって、ぐぬぬとなる事しか出来ませんでした。




