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279 幼女を食べ物扱いしてはいけません

 ここはネコネコ編集部出張所の地下1階の侵入者撃退用広間。

 気絶したスミレちゃんの頭を、私の膝の上に乗せて、プルソンさんからお話を聞いていた。

 この大きな空間が、侵入者撃退用広間と言う名前だったというのも、プルソンさんからたった今聞いたところだ。


「それじゃあ、精霊の集落にはフルーレティさんとオークがいるんだ?」


「そうね。多分、今頃リリィって子が戦っている筈よ」


「そっかぁ。フルーレティさんとオーク、死ななきゃいいけど」


「あら? そっちの心配なの?」


「あはははは。確かに心配するなら、フルーレティとオークの方だね」


「あの子って、そんなに強いの?」


「うん。だって存在がチートだもん」


 私が虚ろな目をして答えると、サガーチャちゃんは楽しそうに笑って、プルソンさんは困惑した。


「心配しなくても、今頃フルーレティもオークも死んでるッスよ」


「後で二人分のお墓を用意してあげるです」


「リリさんは、ちゃんと手加減出来るんだぞ!」


「リリ、てかげんじょうぢゅ」


「あはははは。あまり私を笑かさないでくれるかな? お腹が痛くなってきたよ」


「それより、フェニックスの言葉を、オカマが理解している事が気になるッス」


 トンちゃんがプルソンさんに冷や汗をかきながら訊ねると、プルソンさんが頬を赤く染めながら答える。


「ふふ。やあね。そんなの、愛の力に決まってるじゃない」


「……そうッスか」


 プルソンさんの恥じらう姿を見たトンちゃんは、若干引きながら呟いた。

 するとその時、私の膝の上で眠っているスミレちゃんが目を覚ます。


「後頭部から幸せを感じるなのよ~」


「あ。スミレちゃん良かったぁ。目が覚めたんだね」


 スミレちゃんが目を覚ましたので、私は顔を下に向けて、スミレちゃんと目を合わせて微笑んだ。

 すると、スミレちゃんは大口を開けて目を見開いて、両手で私の太ももを触った。


「ど、どうしたの?」


 私が困惑して訊ねると、スミレちゃんが呟く。


「ここは天国なのですか?」


「何言ってるの? スミレちゃん」


「バカな事を言ってないで、早く起き上がるです」


 ラテちゃんがそう言って、重力の魔法でスミレちゃんを宙に浮かせて、乱暴に放り投げる。


「ぎゃっ」


 スミレちゃんは放り投げられて顔から地面にぶつかり、涙ぐんで立ち上がった。


「ラテちゃん酷いなのよ」


 スミレちゃんが涙ながらに訴えるけど、ラテちゃんはスミレちゃんを無視して、私の頭をペチリと叩く。


「スミレが目を覚ましたから、早くこの先に進むです。パンケーキの素が待ってるです」


「う、うん。そうだね」


 私は苦笑しながら立ち上がり、プルソンさんに視線を向けて訊ねる。


「この先ってどう行けば良いの? 私達が入って来た出入口以外は、扉とか無いみたいだけど」


「ついてらっしゃい」


 プルソンさんがそう言って歩き出したので、私とスミレちゃんとサガーチャちゃんは、プルソンさんの後ろをついて行く。


「俺達に道を教えてしまって良いのか?」


 プルソンさんに抱きしめられて逃げ出せないたっくんが訊ねると、プルソンさんは頬を染めながら答える。


「良いのよ。私は愛に生きると決めたの」


「そ、そうか……」


 仲睦まじい? 2人を見ながら、トンちゃん達が話し出す。


「フェニックスも随分と大人しくなったッスね」


「仲良しなんだぞ」


「きっとタイムは足掻くのが無駄な事だと、諦めたです」


「かいだん、でた」


「本当ッスね。また隠し階段から、地下に潜るんスね」


 トンちゃんとラヴちゃんの言った通り、地下に入る前と同じように床に仕掛けがあったようで、プルソンさんは床を開けて更に下へと続く階段を降りて行く。

 私達もそれに続いて降りて行くと、階段を降りた所に扉があった。

 プルソンさんは扉の前で立ち止まり、私達が階段を降りると、真剣な面持ちで口を開く。


「この扉の先にベルゼビュート様がいらっしゃるわ。ここはベルゼビュート様専用のお食事処。暴食の間よ」


 お食事処の暴食の間かぁ……。

 たしか、私が前世で得た知識の七つの大罪では、ベルゼビュートさんは暴食だったもんね。

 と言うかだよ。

 今更なんだけど、ベルゼビュートさんの能力って、絶対それに因んだ能力があるはずだよね?

 私が受けたパンツを30分以上穿いていないと死んじゃうって、どう考えても関係ないし、それにまだ二つ目の能力がわからないままだもん。

 でも、暴食の能力ってなんだろう?

 アスモデちゃんとマモンちゃん、それにベルフェゴールさんの能力はどれも厄介なものばかりだし、やっぱり厄介な感じなのかなぁ。


 私が考え込んでいると、たっくんが私を心配そうに見みつめて話し出す。


「ついに……か。ジャスミン、くれぐれも無茶だけはしないでくれよ?」


「うん。心配しなくても大丈夫だよ」


 たっくんが私を心配そうに見つめて話すので、私は心配かけないように笑顔で答える。


「ジャスミ――」


 たっくんは私の笑顔を見てもまだ心配なようで、何かを言いかけたのだけど、その時たっくんに突然変化が起きた。


「これは!?」


 たっくんはどんどんと大きくなっていき、プルソンさんも思わずたっくんを離す。

 そして、私が能力を無効化する装置を使った時に見せた姿の、フェニックスの姿にたっくんは戻る。


 元の姿に戻った?

 じゃあ、リリィはベルフェゴールさんに勝ったんだ!

 良かったぁ。

 リリィ、無事なんだね。


 リリィの事は、もちろん信じていたし大丈夫だとも思っていたけれど、それでも私はホッと胸をなで下ろし安心する。


「流石はリリィなのよ。ベルフェゴールに勝ったなのね」


「ハニーなら、この位は余裕ッスよ」


「残るはベルゼビュートの持つパンケーキの素だけです」


「リリさんかっこいいんだぞ!」


「がお!」


「こっちもリリィくんに負けていられないね」


「そうだな。俺もこれで奴とまともに戦える」


「良いわねこの空気。私もその気になっちゃうわ」


 リリィの勝利は皆の士気を高め、皆が闘志を燃やし出す。

 そして、たっくんが先頭に立って扉を開けて、私達は勢いよくベルゼビュートさんのいる暴食の間に入った。


 暴食の間は、プルソンさんの言っていた通りの、食事処と言う感じでは無かった。

 さっきまで私達がいた侵入者撃退用広間より一回り大きな部屋の中の中心に、ポツンと机と椅子が一つだけ置いてあり、その椅子にベルゼビュートさんが座って食事をしていた。


 ベルゼビュートさんの姿は、あの時、私にパンツの呪いを使った時の姿だった。

 濃藍色の肌に、蝿のような羽を生やした魔族の姿。

 遠目からもわかるその強靭な筋肉を持つ肉体は、長身で威圧的だ。


 私はベルゼビュートさんの姿を見て、ごくりと唾を飲み込む。

 この距離でも分かってしまう程の鋭い目つきで、ベルゼビュートさんは私と目を合わせた。

 そして、一瞬だった。


「遅かったな? 待ちくたびれたぞ」


 え!?


 私は後ろに振り向きながら驚く。

 何故なら、ベルゼビュートさんの声が突然背後から聞こえたからだ。

 振り向くと、いつの間にか私の後ろにベルゼビュートさんが立っていて、私を鋭く睨む。

 そして、私の驚く顔を見て、ニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。


「さて、貴様を食べるとしようか」


 暴食の能力を使われる!?


 私が顔を青ざめさせてたじろいだその時、スミレちゃんが素早く私の前に立ち、ベルゼビュートさんに向けて叫ぶ。


「そうはさせないなのよ!」


「スミレちゃん!?」


「幼女先輩を食べるだなんて、そんなうらやまけしからんエッチな事はさせないなのよ! 私だって、幼女先輩を美味しく頂きたいなのよ!」


 スミレちゃーん!

 それ違う。

 それ絶対違うよ?

 見て?

 ベルゼビュートさんの目を見て? スミレちゃん。

 ほら。

 凄く殺気だって、私を殺そうとしてる目だよ?

 そんなエッチな展開絶対無いやつだよ?

 だからスミレちゃんも、そのギャグっぽい感じの、目が炎でメラメラ燃えてる感じのそれやめて?

 凄く場違いだから。

 もの凄く場違いだからスミレちゃん!

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