275 百合の花は無垢なる想いに華麗に応える
フルーレティの能力の解除によって、雪が綺麗に無くなり、段々と気温も高くなり始めていく。
私は着ていた厚着を脱ぎ捨てて、精霊の集落に辿り着く。
するとと、そこにはぐったりと横たわる猫と精霊達の姿があった。
「死んでは……いないみたいね」
私は近くに倒れていた猫と精霊に駆け寄って生死の確認をして、命に別状は無いと判断すると、改めて集落の状況を確認した。
ベルフェゴールもそうだけど、ビリアとオぺ子は何処にいるのかしら?
オークの話だと、ジャスミンのパンツとフライパンは一か所に集めて保管しているって言ってたわよね。
確か、集落の中心にある石像の広場だったかしら?
私は急いで集落の中心へ向かって走り出す。
精霊の集落は、人からしたらとても小さな集落だったのもあって、私は直ぐに集落の中心に辿り着いた。
そして、精霊の集落の中心の石像の広場で私が見たのは、ベルフェゴールと戦っているビリアとオぺ子ちゃんの姿だった。
私は石像の広場の様子を見て、顔を顰めて状況を確認する。
広場の中心に立つ石像はドリアードの石像で、ドリアードの石像の頭には、ジャスミンのパンツが被せられている。
石像の周りには、料理をする為の簡易なキッチンが二つ備えられていて、ベルフェゴールとビリアがそれぞれに別れて料理を作っていた。
そして、石像の目の前には長机と椅子があり、椅子には精霊のスーシュとオぺ子ちゃんが座っていた。
私がオぺ子ちゃんに近づくと、オぺ子ちゃんとスーシュが私に気がつき顔を向ける。
「何やってんのよ?」
私が顔を顰めて質問すると、オぺ子ちゃんが苦笑する。
「ベルフェゴールがパンツとフライパンを返してほしかったら、料理で勝ってみせろって言いだしてこんな事に……」
「おお。パンツの女神の恋人殿ではないですか。もしや、ここにおられるという事は、雪を消して下さったのは恋人殿ですかな?」
「そうよ」
恋人と言われ気分良さげに私が返事をすると、スーシュは目を輝かせながら椅子の上でジャンプした。
「流石は恋人殿です。あの雪とベルフェゴールの能力のせいで、ワタシの同胞達が大変な事になっていて、困っていたのです。おかげで皆助かるでしょう」
「困っていたって言うわりには、呑気にあの二人の料理を見ていたようだけど?」
私が呆れながらスーシュに話すと、スーシュは「そうでした!」と大声を上げて、長机の上に立つ。
「こうしてはおられませんぞ! ワタシは二人の料理対決の実況をせねばならんのです!」
そう言ってスーシュが実況を始める。
「おーっとー! なんとベルフェゴールが、ここで最初に甘ダレに漬けていた肉を取り出しましたぞー!」
スーシュが実況を始めると、私は顔を顰めてオぺ子ちゃんに視線を向ける。
オぺ子ちゃんは私の視線に気が付くと、苦笑してため息を吐き出した。
するとその時、ベルフェゴールが私に気が付いて声を上げる。
「馬鹿な!? 貴女がここに来たという事は、やはり話は嘘偽りでは無かったという事でございますか!?」
私は驚くベルフェゴールと目を合わせて、睨みつける。
ベルフェゴールは私に睨まれると、少し苛立ったような表情で、私を睨みつけてきた。
「私の能力を受けて、何故立っていられるのでございますか!? 貴女に使った怠惰の能力は、まだ解除していないのですよ!」
「そうだったの? 確かあの時は、キモ豚がキモすぎて気が付いたら元に戻っていたのだっけ?」
私が思い出しながら話すと、ベルフェゴールが作っていた料理をお皿に盛りつけて、長机の上に置いた。
そして、私を睨みながら話し出す。
「良いでしょう。貴女の弱点は、既にベルゼビュート様が暴いています。さあ、審査を」
「わかりましたぞ」
「はい」
ベルフェゴールの出した料理をスーシュとオぺ子ちゃんが食べようとしたその時、私はめんどくさいのと時間が惜しいのもあって、ベルフェゴールを蹴り飛ばす。
「ぐはっ……!」
ベルフェゴールは私に蹴り飛ばされると、精霊の集落にある建物にぶつかって、建物を破壊して地面に転がる。
すると、オぺ子ちゃんは口元まで運んだ料理を長机の上に落とし、驚きながら転がったベルフェゴールに視線を向けた。
ビリアも料理をお皿に盛りつけていた所のようで、盛り付けている途中で、驚いて動きが止まっていた。
スーシュだけは「美味い! 美味すぎですぞー!」と叫びながら、料理を勢いよく食べていた。
「悪いのだけど、私はアンタの糞不味い料理の結果なんて、待ってやる暇はないのよ。早くアンタをぶっ飛ばして、ジャスミンの所に行かなきゃいけないの」
私は喋りながら、転がるベルフェゴールに向かって歩いて近づく。
ベルフェゴールは血反吐を吐いて起き上がり、私を睨みつけた。
「さっさとアンタの怠惰の能力を全て解除しなさい。アンタのその糞みたいな能力のせいで、タイムの馬鹿が魔族の姿に自力で戻れなくて、ジャスミンの肉壁にもなれない役立たずなのよ」
「そうはいきません」
ベルフェゴールが私を睨み、薄気味の悪い笑みを浮かべる。
「やはりベルゼビュート様に、コレを貸して頂いて正解だった様でございますね! この特殊能力を無効化出来る装置さえあれば、貴女など恐るるに足りません!」
ベルフェゴールは叫びながら、虹色の輝きを放つ石、特殊能力無効化の装置を取り出した。
「馬鹿ね。私にそれは意味ないわよ。サルガタナスが同じ様に私に使おうとして、失敗していたわ」
私が呆れながら話すと、ベルフェゴールは薄気味悪い笑みのまま答える。
「残念ですが、私は貴女の能力に気が付いてしまったのでございます」
「だから、何度も言ってるけど、私にそんなものないわよ」
「それは、貴女を含め誰もが気が付いていないだけでございます。何故なら、貴女の能力は、特殊能力を無効にすると言う能力だからでございます!」
ベルフェゴールは叫び、装置を起動させて私に向かって走り出す。
「さあ! これで貴女は私の怠惰の能力を防げませんよ!」
ベルフェゴールが私の肩を掴む。
そして、現実をつきつけてあげる為に、わざと肩を掴ませてあげた私は、ベルフェゴールの顔を殴って地面に叩きつけてあげた。
「ぶふぉあっ!?」
ベルフェゴールは地面に叩きつけられると、血反吐を吐きながら、直ぐに私との距離をとった。
「アンタ思ってたよりタフね~」
「ベルフェゴールはマンゴスチンさんから肉体強化の魔法薬を貰ってるから、ソイさんと同じで打たれ強いんだよ」
「キモ豚と一緒? 最悪ね」
オぺ子ちゃんの説明を受けて、私が顔を顰めると、それを見ていたベルフェゴールが薄気味悪い笑みを浮かべた。
「まあ良いでしょう。私の予想は外れましたが、ベルゼビュート様のお考え通りではあります。そしてそれは、貴女にとって致命的とも言えるのでございます!」
「今度は何よ?」
私がいい加減めんどくさいと思いながらも質問すると、ベルフェゴールは私に指をさして大声を上げる。
「貴女は魔性の幼女がいなければ、本来の力を発揮出来ないという弱点があるのでございます! だからこそ、ベルゼビュート様は貴女と魔性の幼女を離している間に何方かを殺す為に、別々に行動するように仕向けたのでございますよ!」
「そういう事ね。確かに、アンタの言う通りだわ。私はジャスミンがいないと、力を発揮出来ないかもしれないわ」
「そうでしょう! ここが貴女の墓場と言う事でございますよ!」
ベルフェゴールは薄気味悪く大声で笑いだす。
「リリィ逃げよう。君も君の弱点を認めているって言う事なら、ここは引くべきだ」
「リリィちゃん! ここは私達に任せて! きっと料理でベルフェゴールに勝ってみせるわ!」
「美味い! 美味いですぞー!」
「死ねーっ!」
ベルフェゴールが笑いながら私に向かって走り出す。
そして、長机に盛り付けした料理を置いたビリアと、美味いしか言わないスーシュを無視して、私は心配してくれているオぺ子ちゃんと目を合わせて微笑む。
「大丈夫よ。心配いらないわ。だって私は……」
ベルフェゴールが私の目の前に来て、拳を向けて殴りかかる。
だけど、そんなものは食らってあげる必要は無い。
私はベルフェゴールの拳を蹴り上げて、そのまま回し蹴りをし、更に後ろ回し蹴りをしてからの、止めのかかと落としをベルフェゴールに繰り出した。
「がっ……は……っ」
ベルフェゴールは私の蹴りの連撃を受けて、地面に顔を埋めて気絶し、ピクリとも動かなくなる。
そして、私は再びオぺ子ちゃんに目を合わせて微笑んだ。
「だって私は、ジャスミンからたくさんの大好きを受け取って来たんだもの」




