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274 百合は虚栄の心を捨てて咲き誇る

 オークは私のかかと落としで、地面に顔を埋めて気絶する。

 私はオークの頭を掴んで持ち上る。

 そして、オークが目が覚ますまで、顔に張り手を繰り出した。

 フルーレティはオークを助けるわけでもなく、顔を青ざめさせて私とオークを見ていた。


 オークは目を覚ますと、顔を真っ青にさせながら再び土下座を始める。

 私は一つため息を吐き出して、ジャスミンの優しい笑顔を思い浮かべながら、オークに話しかける。


「オーク、アンタ本当に次は無いと思いなさいよ?」


「はい」


「で? フルーレティ、アンタは私を止めなくて良いの?」


「残念ながら、私に百合嬢を止めるほどの実力は無いって、さっきの百合嬢とオークの戦闘で思い知らされたよ」


「アンタがそれで良いなら、私は別に構わないけどね」


 私の言葉を聞いたフルーレティは苦笑する。

 フルーレティが苦笑すると、私はそれを見て、今更ながらに疑問に思う。


「そう言えばアンタ、結構気持ちに余裕がありそうで意外よね。サキュバスの事があるから、もっと必死になると思っていたわよ」


「どういう事だい?」


「どういう事も何も、サキュバス達がアンタの降らす雪の実験に使われているのでしょう?」


 私が呆れながら話すと、フルーレティは本当に分からないと言った顔で答える。


「確かにその通りだけど、それで死ぬわけでもないし、ただの実験じゃないか」


「アンタ本気で言ってるの? アンタが降らしてる雪の寒さに、耐えられるかどうかの実験なのよ? 最悪死んだっておかしくないでしょう?」


「何を言って……っ!?」


 フルーレティが頭を押さえて蹲る。

 そして、肩を一瞬震わせたかと思うと、立ち上がって空に両手を掲げた。

 すると周囲に降っていた雪が止み、そして、まるで今まで何も無かったかのように積もっていた雪が一瞬で消える。


「百合嬢ありがとう」


 フルーレティは私にお礼を言うと、表情を曇らせて俯いた。


「どうやら、ベルフェゴールの怠惰の能力で、判断力が無くなっていた様だよ。百合嬢に指摘されるまで、あの子達が実験で死んでしまう可能性があるなんて、今まで全く思いもしなかった。そんな事、考えるまでもなくわかる事なのに」


 フルーレティが真剣な面持ちで私と目を合わす。


「百合嬢。頼みがある。私の部下、サキュバスの子達を助けてくれないか? 情けない話だけど、私ではベルフェゴールには敵わない。救ってあげられないんだ」


「安心しなさい。ジャスミンに頼まれていたし、最初からそのつもりよ」


 私が答えると、フルーレティは目尻に涙を溜めて微笑む。


「ありがとう」


「お礼ならジャスミンに言いなさいよ。私はジャスミンの代わりなんだもの」


 私が苦笑して話すと、フルーレティは頷いた。


「そうだね。お姫様には本当に頭が上がらないな。聞いたよ。あの子も不老不死になりたがっているんだろう? あの子もベルゼビュート様のように、不老不死になれると良いね」


「ならないわよ。ジャスミンは不老不死になる事を諦めたんだもの」


「え?」


 私がフルーレティの言葉を否定すると、フルーレティだけでなく、オークも驚いて私を見た。


「ま、待って下さい。パンツの女神は精霊と契約していて、もう長くないってベルフェゴールさんが言っていましたよ? 何で諦めたんですか?」


「ジャスミンってね。そう言う大事な事は、何も話してくれないの。だから私は何も聞いていないのよ。だから諦めたと言っても、それは私が勘違いしているだけかもしれない」


 話している途中で、私は段々と悲しくなってきて、少し顔を俯かせる。


「でも、私には分かるわ。きっとジャスミンは諦めてる。だって、ジャスミンは優しいから、きっと誰も犠牲にしたくないって考える子だもの。大切な人を殺す事なんて、ジャスミンには出来ないもの」


 私が悲しみを隠す為に、強がって笑いながら話すと、フルーレティは私に優しく微笑んだ。


「……そうか。そうだね。お姫様は、そういう子だ」


「そうよ。ベルゼビュートみたいな、目的の為に大切な人を殺すような奴とは違うのよ」


 私の言葉を聞いて、オークが顔を顰める。


「ベルゼビュート様ですか? 確かにオラもアレには驚きました」


「アレにはって、もしかして、アンタはベルゼビュートが不老不死になる所を見たの?」


「そうなんですよ。流石にオラも驚いて、ベルゼビュート様の恐ろしさを再認識させられました」


 オークは話しながら、顔を真っ青にさせて震えた。


 オークはアスモデが殺された所を見たって事ね。

 案外、それが理由で私に戦いを挑んだのかもしれないわね。

 本人はマモンを理由にしているみたいだけど。


「アスモデも災難よね。あの子、ベルゼビュートに惚れていたもの。でも、好きな人に殺されるならって感じだったのかしら? それなら、私にもわかるわ」


 私だって、ジャスミンの為なら……。


「アスモデ様ですか? 確かに災難ですけど、可哀想なのは残されたマモン様ですよ。随分と自分が代わりにって、後悔してましたからね」


「マモンが後悔って、確かに可哀想ではあるけど、それよりも死んだアスモデって、あっ! そうだわ!」


 そうよ!

 よく考えてみたら、今はジャスミンが危険な状態なのよ!

 あの指輪があるとは言え、絶対にジャスミンは無茶をするもの!

 それに、こんな所でのんびり話をしている間にも、ジャスミンの寿命は刻一刻と近づいているのよ!

 さっさとベルフェゴールを片付けて、ジャスミンの所に行かないとよね!

 悲しむのも強がるのも全部後よ!

 その為にも、手段なんて選んでいられないわ!

 利用出来るものは利用していかないと、私もマモンの様に絶対に後悔する!


「私からも、アンタ達に頼みたい事があるのだけど、良いかしら?」


 私が真剣にフルーレティとオークに向かって訊ねると、私の真剣な眼差しを受けて二人は頷く。


「私に出来る事であれば、何でも力を貸そう」


「お、オラもだ」


「助かるわ。二人には、連れて来てもらいたい奴がいるのよ」


「連れて来てもらいたい奴?」


「リリィさん、誰を連れて来てほしいんですか?」


「それは……」


 私は二人に連れて来てもらいたい人物の名を告げて先を急ぐ。

 その人物は会いたくない奴でもあるけれど、ベルフェゴールに引導を渡した後に、いてくれるととても助かる人物だ。

 フルーレティとオークは快く私の頼みを引き受けて、里に向かって走って行った。


 待っててねジャスミン!

 私も直ぐに向かうから、だから、無茶だけはしないでね!

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