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273 百合も時の流れも止まらない

 最初に森の中を歩いていた時も思った事なのだけど、ここまで雪が積もっていると随分と進み辛いわね。


 私はスミレからの報告を受けて、ジャスミンと別々に行動をする事になり、一人で精霊の森を走り回っていた。

 勿論目的は精霊の集落にいるであろうベルフェゴールとオークから、ジャスミンのパンツを取り戻す事だ。

 ビリアとオぺ子ちゃんは、パンツのついでに助けて来るとジャスミンには伝えた。

 だけど、本音を言わせてもらえば、自分からオークを追いかけたのだから放っておけば良いと私は思っていた。


 ジャスミンは優しすぎるのよね。

 ビリアとオぺ子ちゃん、その上サキュバスの心配だけじゃなく、他の猫にされてしまった人達まで心配しているのだもの。

 ……それより。


 私は走りながら、森に積もる雪の事を考える。

 森の中の雪は、既に私の身長を超える程に積もっていて、私は掘る様に前に進んで走っている。

 だからこそ、さっきから思うのだけど、とても進み辛い。

 そして私は思いついた。


 そうだわ。

 雪の上を歩けば良かったのよ。

 何でこんな簡単な事に気がつかなかったのかしら。


 私は直ぐに雪の上にジャンプして、雪の上を走り出す。


 中々快適じゃない。

 これなら直ぐに……って、あら?


 目を凝らして見ると、だいたい半径五十メートル位の雪が積もっていない場所が先の方に見えていて、そこは雪も降っていなかった。

 そして、そこにはフルーレティとオークの二人が立っていて、私が二人に気付いたのと同時に二人も私に気が付いた。


 私はその雪の積もっていないフルーレティとオークの立つ地に足をつけると、フルーレティが深くため息を吐き出した。

 私がそれを顔を顰めて見ると、フルーレティは私と目を合わせて口を開く。


「いや。すまない。ベルゼビュート様の思った通りに、事が運んでしまったんだなと思ってね。気分を悪くさせたのなら謝るよ。申し訳ない」


「ベルゼビュートの思った通り? どう言う事よ?」


 私が質問すると、フルーレティではなく、オークが答える。


「ベルゼビュート様はリリィさんが一人で、精霊の集落に向かうと予想していたんですよ。つまりはリリィさん。貴女はベルゼビュート様の手のひらの上で踊らされていると言うわけです」


「癇に障る言い方をするわね? それよりオーク、アンタどう言うつもりなの? ジャスミンのパンツを返しなさい」


「残念ですが、いいや。残念だがそれは出来ないぜ! オラはベルフェゴールの言葉とベルゼビュート様のおかげで目が覚めたんだ!」


「はあ゛っ?」


 私がオークを睨むと、オークは一瞬だけ怯んで、私を睨み返した。


「お、お前なんか怖くないぞ! オラはお前に勝って、マモン様とエッチな事をするんだ! ぐへへへ」


「アンタが何でベルゼビュートの言う事を聞くようになったかは、今の言葉でわかったわ。ただのクズじゃない」


 オークの戯言に嫌悪感を抱き、私がオークに軽蔑の眼差しを向けると、フルーレティがため息をつく。


「百合嬢すまない。この糞豚を、今の私には止める事が出来ない」


「良いわよ。アンタは人質を取られているんだもの。仕方がないわよ」


 私がフルーレティに答えると、オークが私とフルーレティの顔を交互に見た。


「どういう事だ? お前等まさか!」


 オークがフルーレティを睨みつける。


「おいフルーレティ! わかっているだろうが、裏切りは許されないぞ!」


「わかっている」


 フルーレティがオークから目を逸らして答えると、オークは気持ち悪い笑みを浮かべながら、私に視線を向ける。


「まあ良いだろう。 今のオラは、いいや。今のオラ様は、最強に等しい。魔王と恐れられるリリィ、お前にだって決して負けない」


 魔王?

 前も何所かで言われた事が、あったような気がするわね。


「オラ様の能力で、お前をひん剥いてペロペロと舐めつくしてくれる!」


 そう言った後、オークが息を止めるのを見て、私はオークを思い切り蹴り飛ばす。


「ぐべぇっ……!」


 オークは鈍い声を上げながら吹っ飛んで、後ろに生えていた大木にぶつかって、吹っ飛ぶ勢いのまま大木を薙ぎ倒して地面に転がる。

 フルーレティはオークが大木にぶつかるまで何が起こったのかわからなかったのか、オークが大木にぶつかると、ようやくオークが吹っ飛んだ方に目を向けて地面に転がるオークを見て驚いた。


 私はオークを睨みながら、ゆっくりと近づく。


「キモい事言ってんじゃないわよ。ぶっ飛ばすわよ」


 オークが血反吐を吐きながら立ち上がって、先程とは別人の様な態度で話し出す。


「も、もう、ぶっ飛ばしてます。リリィさん。と言うかですね。能力を使うまでに攻撃するのは、よくないと思うんです。はい」


「はあ? アンタの能力って、息止めてから五秒経つと時間止めれるってやつでしょ? 何で私が五秒も待ってあげないといけないのよ?」


「で、でもですね。ヒーローものとかだと、ちゃんと変身シーンを敵が待ってくれるじゃないですか? アレと一緒で、こう言うのはですね」


「そんなの知らないわよ」


 オークが意味のわからない説明をするので、私が苛立ちながら答えてオークを睨むと、オークが大量に汗を流しながら口を閉じた。


「で? ジャスミンのパンツは何処にあるのよ?」


 私が睨みながらオークに訊ねると、オークは目を見開いて、そして真剣な面持ちになって口を開く。


「オラとした事がリリィさんへの恐怖で我を忘れる所だったぜ。パンツの女神のパンツだけは渡せない」


「あ゛あっ?」


 私は苛立って睨むが、オークはニヤリと笑みを浮かべて腕を組む。


「オラは前世で、とても時間をきっちり守る素晴らしい好青年だった。そんなオラの楽しみは、毎朝通勤途中で見かける幼女達。オラが時間をきっちり守って遅刻せずに仕事に行けたのは、あの幼女達の笑顔のおかげだった」


「そんなのどうでもいいわよ」


 と、私は言いながらオークを再び蹴り飛ばす。


「ぐぶぉ……っ!」


 オークは鈍い声を上げて吹っ飛んで、吹っ飛ぶ勢いのまま木を五本程度薙ぎ倒して地面に転がる。

 フルーレティは顔を青ざめさせて、地面に転がるオークを見た。

 私は地面に転がったオークを睨みながら、その場で声を上げる。


「アンタの前世なんて、どうでもいいのよ。さっさとジャスミンのパンツを返しなさい」


 オークは血反吐を吐きながら立ち上がり、ニヤァっと気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 すると、その瞬間、私は異常に気が付いた。


 フルーレティが能力で降らせている雪が、全て空中で止まっていたのだ。

 私が今いるこの場所は、雪が積もってもいないし、雪が降ってもいない。

 しかし、それはここだけの話で、他は違う。

 轟々と、雪は猛り狂う吹雪となって、今も尚降り続けているのだ。

 だけどそれが今、全て空中で止まっている。

 そして、この場は何の音も響かない無音の世界となっていた。


 時間を止めるって、本当だったのね。

 実際に見せられると、これは結構驚くわね。


 オークは口から垂れる血を腕で拭って、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。


「アンタの能力って、結構凄いのね。流石に驚いたわ」


 私が向かってくるオークに苦笑して話すと、オークは何を驚いたのか、目を見開いて立ち止まった。


「どうしたのよ?」


「嘘だぁあーっ!? 何で動けるんだよおぉおーっ!?」


 オークが叫んだ瞬間に、止まっていた時が動き出す。

 フルーレティが、時間が止まる前と違う場所に立っていたオークを見て、私に視線を向けた。


「あれ? 百合嬢、無事だったのかい?」


「何がよ?」


「いや。だって、ほら。オークが時間を止めていたみたいなんだ」


 フルーレティがオークに指をさす。


「そうね」


「そうね……って、ま、まさか時間が止まっている間も、百合嬢は動けていたのかい?」


 フルーレティが困惑した表情で呟きながら、私とオークを交互に見る。

 フルーレティの言葉は声が小さく呟いていたせいで、私には「そうね」までしか聞き取る事は出来なかったけれど、特に問題は無いので聞き返しはしない。

 オークは何故か顔を青ざめさせていて、肩を震わせて硬直していた。


「変な奴ね。そっちが来ないなら、もう一発ぶん殴るわよ?」


 私がそう言った瞬間だった。

 オークは綺麗な弧を描いて跳躍し、私の目の前まで跳んで来ると、そのまま私に向けて綺麗な土下座を披露した。


「申し訳っごっざいませんでしたあーっ! 本当の本当に、もう悪い事考えませんから、許して下さいーっ!」


 私は土下座をして謝罪するオークを見て、無言でオークの頭にかかと落としをお見舞いしてあげた。


「ぶべぇ……っ」

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