026 幼女も準備は怠らない
スミレちゃんとフラワーサークルでお話をしてから翌々日、私はパパとママから村の恒例行事の話を聞かされた。
「チョコの実狩り? 今年も行くんだ?」
「そうよ。村長さんが、1年に1度の行事だから、大事にしたいみたい」
「急な話にはなるけど、明後日に行く事になったみたいだよ」
明後日、明後日か~。
たしかに、パパの言う通り、ちょっと急な話かもしれない。
でも、この間健康診断をしたし、そこまで急でもないのかな?
「でも、お外は魔族が出るから、危ないんでしょう?」
「ママも最初はそう思ったのだけれど、危険かどうか確認しに行って、大丈夫だって判断したみたいよ」
「そーなんだ。それなら安心だね」
「ええ。それに、パパも一緒だから、魔族に襲われても怖くないわよ」
「ははは。ジャスミンもママも、パパが護るからね」
「うん」
「ふふ。頼もしいわね」
と、そんなわけで、明後日はチョコの実狩りの決行となった。
チョコの実とは、この世界にあるお菓子の木の実シリーズの一つで、驚く事に木にチョコが生るのだ。
そして、そのチョコの実を村の皆で楽しく狩りに行く行事が、チョコの実狩りだ。
チョコの実狩りが出来る場所までは、それなりの距離がある。
だいたい2、3日移動した先に町があって、そこから暫らく歩くと、チョコの実が生る木がいっぱい生えた、チョコ林に到着するのだ。
だから、その間は数人の大人達を村に残して、村中の皆で一緒に旅行に出かける事になる。
そして、この行事の為に、この時期に合わせて健康診断を行うのだ。
先程、私が健康診断をしたから急でもないと思ったのは、これが理由だ。
健康診断をして、体調を万全に整えて出かける。
それだけ、村の皆が楽しみにしている恒例行事。
それが、チョコの実狩りなのだ。
だから、私も例外じゃない。
毎年、手提げのバッグを持って行き、バッグ一杯にチョコの実を入れて持って帰っている。
そんなわけで、今から楽しみで仕方がないのだ。
私は身支度をする為に、自分の部屋へとやって来た。
「お洋服は動きやすいのにしなくちゃだよね」
クローゼットを開けて、洋服を物色する。
可愛いのも良いけど、チョコの実狩りには向いていないし……。
これじゃない。あれじゃない。それじゃない。と、考える事数時間。
部屋のドアがトントンと叩かれた。
「なあに? ママ。ドア開いてるよ」
と返事をすると、ドアを開けてリリィが「おはよう」と言って、部屋に入って来た。
「あ。リリィ。おはよう」
私は一旦洋服選びを止めて、リリィを歓迎して椅子に座らせた。
「もしかして、チョコの実狩りの日に着て行く、洋服選びをしていたの?」
そこら中に散らばる洋服を見て、リリィは察してくれたらしい。
「うん。でも、中々決まらなくって困っていたの」
「そうなのね」
「リリィは、もう決めた?」
「私もまだだけど、それよりジャスミンに頼みたい事があって来たの」
「頼みたい事? 私で力になれる事なら、何でもするよ」
「え? 今何でもって?」
「リリィ、そのくだりはいらないから、話を続けて?」
「そ、そうね」
危ない危ない。
まさか、リリィが何でもからの、あの返しを使うとは思わなくて、内心焦っちゃったよ。
「チョコの実狩りに行くのは楽しみだけど、私は正直安心できないのよね」
「うーん。たしかに、気持ちはわかるよ」
「だから、スミレに本当に安全なのか確認したいのよ」
「スミレちゃんに?」
「そうよ。魔族の事は、魔族に聞くのが一番じゃない」
「たしかに。うん。そうだよね」
実際に安全なのか危険なのか、直接魔族であるスミレちゃんに訊ねるのは、凄く良い提案だと思う。
リリィ頭良いなぁ。
私は、全然思いつきもしなかったよ。
「それでなんだけど、村の外に出る必要があるでしょう? だから、ジャスミンに頼みに来たの」
「そう言う事なら任せてよ」
「ありがとう。ジャスミン」
と言うわけで、私はリリィと一緒に空から村を出て、スミレちゃんの許へと向かった。




