254 幼女に母性を感じてはいけません
私がスミレちゃんにドン引きして後ずさると、スミレちゃんは勝気な顔でソイに視線を向けた。
「キモ豚。残念だけど、お前は何もわかってないなのよ」
「強がるなよババア。もう一度その服を取り上げて、身動きできなくしてやるぜ!」
そう言ってソイがニヤリと気持ち悪く笑うと、スミレちゃんはソイを小馬鹿にするように鼻で笑い、首を横に振った。
そして、スミレちゃんは哀れみの目をソイに向ける。
「本当に可哀想な奴なのよ」
スミレちゃんが哀れみの目を向けて呟くと、ソイが突然怒り出す。
「その目を、その人を見下すような目を俺に向けるなーっ!」
ソイがスミレちゃんに向かって走り出す。
「哀れな豚なのよ。もうお前の攻撃は、私には通用しないなのよ」
「ぬかせ!」
ソイがスミレちゃんに飛びかかって、右手でスミレちゃんに触れようとした。
すると、スミレちゃんは売店の棚に並ぶ商品を手に取って、ソイの右手を商品で防御して受け止める。
「何!?」
凄い!
凄いよスミレちゃん!
スミレちゃんはソイの右手を商品で防御する時に、直ぐに手を商品から離して、商品だけをワープさせたのだ。
「ちくしょおぉぉっ!」
ソイは怒りながら何度もスミレちゃんに触れようとするが、スミレちゃんは全て商品で受け止めて、次々とくる攻撃をかわしていく。
「スミレさん凄いんだぞ!」
「チュミ、がんばれー!」
気が付くと、周囲に広がった炎を全て消火し終わったプリュちゃんとラヴちゃんが、スミレちゃんの応援をしていた。
そして、それはプリュちゃんとラヴちゃんだけじゃなかった。
何故だかはわからないけれど、売店の出入口の女の子達までスミレちゃんを応援していた。
「ちくしょう! 何であいつ等まで、こんなババアを応援してるんだ!? 俺はこの里の長の息子だぞ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」
ソイが血管が浮き出るんじゃないかと思う位に顔を真っ赤にさせて、怒って怒鳴り続ける。
「俺がこの里で一番偉いんだ! 俺こそがこの里の中心なんだ! お前等女は俺に黙って従って、俺の言う事だけ聞いていれば良いんだ! お前等はババアでは無く、俺を応援しろ!」
ソイが怒り狂ったかのように怒鳴ると、女の子達はソイを哀れむような眼差しで見つめだす。
「俺をその目で見るなと言っているだろうが!」
あぁ、そっか……。
私はソイに、ソイさんに向かって、ゆっくりと歩き出す。
さっき感じた怒りは勿論今は無い。
「ご主人?」
「大丈夫。魔法なんて使わなくても、大丈夫ってわかったから」
私はトンちゃんに微笑んで、そしてソイさんに近づいた。
「ソイさん。もう、1人で苦しまなくて良いんだよ」
そう言って、私は後ろからソイさんを抱きしめる。
「幼女先輩?」
私がソイさんを抱きしめると、ソイさんは動きを止めて震えだした。
「ずっと辛かったんだよね? でも、もう大丈夫だから」
そう言って、私が手に力を込めてギュッとすると、ソイさんはその場で泣き崩れた。
ソイさんが泣き崩れると、私はソイさんから離れて目の前に立つ。
そして、泣き続けるソイさんの頭を撫でてあげる。
「幼女先輩、どういう事なのよ?」
スミレちゃんの疑問に、私はソイさんの頭を撫でながら答える。
「なんだか、前世の私に少し似てるなぁって思ったんだよね」
「前世ッスか?」
「うん。前世の私って、それなりに裕福な家庭の長男に生まれて、結構周りの目を気にしてた事もあったんだよ。だけど、私はバカだから自分勝手に生きて、家族だけじゃなく周りからも、いつも悪く見られてたの。自覚はあるのかだとか、下の子より出来が悪いだとか、色々と言われてたよ。気にする事なんてないのに、周りの目に押し潰されそうで、子供の頃の私は凄く荒れてたと思う。だから、ソイさんからしたら、全然違うって言われちゃうかもだけど、その時の私に似てるなって思ったの」
私は苦笑して、ソイさんに視線を向ける。
「ねえ、ソイさん。ソイさんの言う通り私は前世が男だから、気持ち悪い存在に見えるかもしれない。だけど、だからこそ、少しは気持ちもわかるよ。だから、相談位は乗ってあげられるよ? もし私なんかに相談なんてしたくないって言うなら、愚痴だけでも良いから聞かせてよ。そうしたら、ちょっとは気持ちが楽になるんじゃないかな?」
そう言って、私はソイさんに優しく微笑んだ。
すると、ソイさんは更に涙を大量に流して、私に抱き付いた。
「うぉおおおんっっ! ママァッ!」
ま、ママ!?
「……ぶびっ!」
ママと呼ばれて、私が困惑する。
すると、そんな私に抱き付いているソイさんが、スミレちゃんに殴り飛ばされた。
「幼女先輩に抱き付くななのよ!」
「す、スミレちゃん!?」
ソイさんは売店に備えてあった棚に勢いよく激突して、目を回して倒れる。
「スミレちゃん何やってるの!?」
「キモ豚が調子に乗って、幼女先輩にバブみを感じていたので、鉄拳制裁をしてやっただけなのです」
ば、バブみって……いやぁ、まぁうん。
だからって殴る理由には、ならなくないかな?
「おっぱい女にしては良い判断ッスね。それよりご主人。アブラムシは臭いから、抱き付かない方が良いッスよ。臭いが移るッス。と言うか、既に移ってるッス」
う、うーん。
たしかにトンちゃんの言う通りかもしれないけれど、とりあえず今はそれは置いておこうよ?
私、結構真剣にお話してたんだよ?
「ドゥーウィンは今日も辛口なんだぞ」
「がお」
「とにかくだよ。スミレちゃん、今は暴力は禁止だよ」
「わかったなのです。それに、私もキモ豚には言っておきたい事があるから、ここから先は私に任せて下さいなのです」
「え? うん。暴力はダメだからね?」
私がスミレちゃんに注意すると、スミレちゃんは私に親指を立ててウインクした。
「大丈夫なのです。あ、幼女先輩。寒いだろうから、これもつけて下さいなのです」
「え? あ、ありがとぅ……」
スミレちゃんに渡されたのは、お姫様が手に付けるような、白いロンググローブだった。
寒いだろうからって、スミレちゃんの方がよっぽど……あ。
もしかして、トンちゃんが臭いとか言ってたし、私の手って、今そんなに臭いのかな……。
あ、確かに臭いかも。
うん。
素直につけよう。
私はロンググローブをありがたく受け取って、直ぐに手につける。
結構温かい。
スミレちゃんありがとー。
これなら臭いもカット出来るし、結構良いかも。
って、あれ?
これ何処から取り出したの?




