253 幼女の感情は儚く消える
リリィとドリちゃんの戦いがおバカすぎて関わりたくないので、私は再びスミレちゃんとソイの戦いに視線を戻す。
スミレちゃんとソイの戦いは意外とまともで、スミレちゃんはソイから距離をとりながら炎の魔法で攻撃して、ソイはスミレちゃんの魔法を避けながら接近して掴みかかろうとしていた。
そして、私は気がついてしまった。
ぷ、プリュちゃん……。
いつの間にかプリュちゃんがスミレちゃんに加勢していた……わけでは無く、スミレちゃんが炎の魔法を使う度に周囲が燃えるので、プリュちゃんが頑張ってそれを水の魔法で消火していたのだ。
プリュちゃんは炎が燃え広がらないように、必死にあっちやこっちに水をかける。
その姿は、こう言ってはなんだけども、凄く可愛いらしい。
「何やってんスか? プリュ」
「プユ、がんばって!」
「アタシだけだと大変なんだぞ! ドゥーウィンとラーヴも手伝ってほしいんだぞ!」
「がお!?」
プリュちゃんが涙目で2人にお願いすると、ラヴちゃんは目を点にして驚く。
そして、ラヴちゃんが燃えている所に、おて手でペチッと叩いて消火の手伝いを始める。
か、可愛い。
って言うか、ラヴちゃんは火の精霊さんだから、魔法で消せないから直接触って消してるのかぁ。
普通は火に触れるなんて危ないけど、そこは流石は火の精霊さんって感じだね。
一方トンちゃんは私の肩の上に座って、プリュちゃんのお願いに首を横に振った。
「ボクが手伝っても、火の回りが早くなるだけッスよ」
うーん。
たしかにそうなのかも。
でも……。
「もの凄く強い風なら、大丈夫なんじゃないの?」
「そんな事したら、ここがめちゃくちゃな事になっちゃうッスよ。ボクには状況がよくわからないッスけど、こっちを見てる野次馬の子供が巻き込まれるッスよ」
あ、そう言えばだよ。
私はトンちゃんに言われて思い出す。
そして、騒ぎを聞きつけて集まった売店の出入口にいる女の子や、ルピナスちゃんとブーゲンビリアお姉さんとマルメロちゃんに視線を向けた。
そうだよね。
ここには、無関係の子や、ルピナスちゃん達がいるんだ。
強すぎる魔法は、皆を巻き込んじゃうかもしれないもんね。
って、あれ?
私は周囲を見まわした。
マンゴスチンさんがいなくなってる?
何処行ったんだろう?
ルピナスちゃん達なら、知ってるかな?
いつの間にかマンゴスチンさんがいなくなっていた事に気がついた私は、ルピナスちゃん達の所へ向かって行方を聞き出そうとしたその時、スミレちゃんとソイが大声を上げた。
「そこだ!」
「しまったなのよ!」
私はその2人の声に振り向く。
「スミレちゃん!」
私が振り向いて見たものは、ソイの手がスミレちゃんの服を掴んでいた瞬間だった。
その瞬間、ソイがニヤリと気持ち悪く笑い、スミレちゃんが青ざめる。
ソイの能力はワープ系の能力だったはず。
やばい!
スミレちゃんが飛ばされちゃう!
「俺の勝ちだババア! 消えろ!」
「幼女先ぱ……っ!」
スミレちゃんが私を見て叫び、スミレちゃんは私の目の前から消えてしま……わなかった。
だけど、むしろそのまま何処かに飛ばされていた方が、本人的にはマシだったのでは?
と、思えるような状況になってしまった。
は、裸?
そう。
スミレちゃんはソイに服を掴まれて何処かに飛ばされはしなかったけれど、着ていた服を全て剥がされて全裸になってしまったのだ。
「ぴやぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
スミレちゃんの叫びが響き渡る。
スミレちゃんは叫ぶと身を丸くして蹲って、目からボロボロと涙を流して号泣する。
ソイはスミレちゃんのそんな姿を見て、愉快そうに気持ち悪く笑いだす。
「おっほーほっほっほっ! 見たか!? 俺の能力の神髄を!」
私は急いでスミレちゃんに駆け寄って、リリィから受け取った上着をスミレちゃんに被せてあげた。
そして、スミレちゃんを見て笑っているソイを、私は怒って睨みつける。
「俺は触れた奴が女であれば、着ている服のみをワープさせる事が出来るんだ! 女なんて服さえ脱がしちまえば無力だからな! 相手がババアでも俺の手にかかればこんなもんだぜ!」
最低……。
私は今まで感じた事の無いほどの怒りを感じて、ゆっくりとソイに向かって歩きながら静かに口を開く。
「スミレちゃんにこんな酷い事をして……許せない。トンちゃん、ごめん。もう我慢出来ないよ。魔法を使うね」
「ご主人……」
「俺はこの能力で、リリちゃんを全裸にして今夜は初夜を迎えるんだ! おっほーほっほっほっ!」
「貴方とリリィの間に何があったのかは知らないけれど、貴方がリリィに危害を加えると言うのなら、絶対にそんな事させない」
そう言って私が魔力を手に集中しようとしたその時、私の前にスミレちゃんが背を向けて立ち、私の歩みを手で制止させた。
「幼女先輩、待って下さいなのですよ!」
「スミレちゃん?」
スミレちゃんが私に背を向けたまま、顔だけ振り向かせて微笑む。
「私の事は、もう大丈夫なのですよ。むしろ、さっきまで幼女先輩の肌に直に触れていた上着を、私も肌で直に触れた快感に、もう興奮が治まらないなのですよ!」
「……うん?」
「もう、裸なんてどうでも良いなのですよ。幼女先輩の肌の温もりが、私を新たな世界に導いていってるなのです!」
あ、うん。
そっかそっか。
微笑んでたんじゃなくて、ニヤケてたんだね。
新たな世界かぁ……うん。
私の怒りは、まるで幻だったかのように儚く消え去り、私はニッコリと微笑みながら後退る。
「おっぱい女がバカで良かったッスね」
うん。トンちゃん。
私は全然良くないと思うよ?




