248 百合の害虫駆除は困難極まる
私がソイの薄気味の悪い告白の気持ち悪さに身を震わせてドン引きしていると、ソイが私の手を取って、私を強く引き寄せる。
そして、私の唇を奪おうと口を尖らせた。
「ぶっ飛ばすわよ!」
私はそう言いながら、ソイを殴り飛ばす。
「ぶひーっ!」
ソイは豚声を上げながら、上空の彼方へと吹っ飛んで行った。
「もうぶっ飛ばしちゃったんだぞ!?」
「ハニー……能力が解けたんスね。本当に良かったッス」
「がお」
「リリィお姉ちゃん、大丈夫?」
私は心配して近寄った四人に微笑む。
「ええ。心配かけて悪かったわね」
と、私が言った瞬間だった。
突然目の前に、何処かへ吹っ飛ばした筈のソイが現れて、私の手を強く握る。
「リリちゃん。いきなり激しい愛をぶつけてくるだなんて、興奮しちゃうじゃないか」
「ぎゃー! アブラムシがまた来たッス!」
「なあ、ドゥーウィン。さっきも気になったんだけど、アブラムシはこんなに大きくないんだぞ?」
「そんな事はどうでも良いッスよ!」
「が、がお」
「やっぱり可愛いな~リリちゃん。偽物幼女なんかと全然違う! 本物のエンジェルだよ!」
私は寒気を感じてソイの手を振り払って、ソイから離れて距離をとる。
「リリちゃん。もしかして照れてるのかな? 仕方がないな~。リリちゃんはまだ九歳の幼女だから、おじちゃんとラブラブな所を他人に見られるのが恥ずかしいんだね? そんな所も可愛いよ」
「このキモ豚やばいわ。気持ち悪い」
「ハニー。ボクも同じ事考えてたッスよ」
「アタシも流石にきついんだぞ……」
「がお……」
「ソイくん。気持ち悪くて面白ーい」
私とドゥーウィン達精霊がキモ豚の言動にドン引きしている中で、ただ一人ルピナスちゃんだけが笑い転げていた。
私はこの時、ここ最近忘れていた恐怖を、目の前のキモ豚に感じて大声を上げる。
「逃げるわよ!」
私は笑い転げているルピナスちゃんを抱えて、一目散に逃げ出した。
プリュとラヴも私の腕に掴まり、ドゥーウィンは空を飛ぶ。
「ここまでこれば」
かなりの距離を移動して走る速度を弱めると、突然目の前にキモ豚が現れて、私を抱きしめようと両手を広げる。
「リリちゃん見ーつけた」
「出たッスー!」
キモ豚の能力、かなり厄介ね。
そう思った私は、逃げる事が出来ないと考えて、逃げるのをやめた。
そして、目の前で私に抱き付こうと両手を広げているキモ豚に向かって、勢いよく跳躍する。
「くたばりなさい!」
私は勢いよく跳躍したまま、キモ豚の顔面に跳び膝蹴りをお見舞いしてやる。
ゴキッと、首の骨が折れるような音が鳴り、更にキモ豚は勢いよく何処かに吹っ飛んだ。
私は息切れを起こして、その場で大きく息を吸って深呼吸する。
「ついに殺っちまったッスね」
「リリさんが殺人者になっちゃったんだぞ!」
「がお」
「大丈夫じゃないかな~」
ルピナスちゃんが私に抱えられたまま呟く。
「ど、どういう事ッスか?」
ドゥーウィンがルピナスちゃんに訊ねると、ルピナスちゃんは私に抱えられた体制から、自ら地面に降りて答える。
「えっとね。ソイくんは、マンゴスチンお婆ちゃんの作った魔法のお薬で、肉体が強化されてるんだよ」
「でも、首の骨が折れた音がしたんだぞ?」
「たまに首をボキボキ鳴らせる人がいるでしょ? 多分、そんな感じで鳴っただけだよ」
「そんなまさか……」
ドゥーウィンが顔を青白くさせたその時、私の目の前に、再びキモ豚がワープして現れた。
「ありがとうリリちゃん。とっても気持ちが良いよ」
「なっ……」
お礼を言いながら気持ちの悪い笑みを浮かべたキモ豚に、流石に寒気を感じて私は後退る。
「リリちゃん。俺は気付いたよ。これが君の愛情表現なんだね?」
「違うわよ」
「俺は嬉しいよ。こんなにぶたれて気持ちが良いなんて思わなかった」
キモ豚がゆっくりと私に近づきながら、話を続ける。
「今なら、あの変態のメス豚フルーレティの気持ちが俺にもわかる」
「こっちに来ないでもらえる?」
私は後ろに後退りながら話すが、直ぐに前進するキモ豚に距離を縮められる。
「照れた顔も可愛いよ」
「ドゥーウィンやばいわ。こいつ、話が通じないわ」
「ボクは気持ち悪くて吐きそうッス」
「やばいんだぞ! やばすぎるんだぞ!」
「がおぉ……」
私と精霊達が顔を青ざめさせて、キモ豚にドン引きしていると、ルピナスちゃんが私の前に立つ。
「ねえ、ソイくん。リリィお姉ちゃんが嫌がってるから、やめてあげてよ」
「ヤキモチを焼いているのかい? ルピナスちゃんには悪いけど、俺は童貞をリリちゃんに捧げて、今後はリリちゃんだけに俺の純潔をあげなきゃいけないんだ。君はもう俺の事は諦めてくれ」
「そうじゃなくって、リリィお姉ちゃんが嫌がってるの! それに、私は最初からソイくんの事好きじゃないよ」
「苦しい言い訳をするだなんて、やっぱりルピナスちゃんも、所詮はそこら辺にいる心の腐った幼女なんだね」
「むー!」
ルピナスちゃんが話の通じないキモ豚に怒って、頬を膨らます。
「さあ、こっちにおいでリリちゃん。今夜は可愛がってあげるよ」
私は再び全身に鳥肌が立つのを感じて、身を震わせる。
「こんなの、一々相手になんかしてられないわよ」
私はそう言って、ルピナスちゃんを担いで走り出す。
「何処行くんだよー?」
背後からキモ豚の声が聞こえるけど、決して振り向かない。
「どうするッスか? 逃げ切れるとは思えないッスよ!」
「私に良い考えがあるわ。ドゥーウィン、私に掴まりなさい!」
「わ、わかったッス!」
私は全速力で走り続ける。
真っ直ぐは進まずに、右や左、時にはユーターンをして目的地を悟られない様に動き回る。
そして……。
「リリィくん? どうしたんだい? 君にしては珍しく息切れを起こしているじゃないか」
「だ、大丈夫? リリィちゃん」
「なんとか……逃げ切ったわね」
私は息を切らしながら、ゆっくりと腰を下ろす。
そして、私に駆け寄って、心配そうに眉根を下げて私を見つめるサガーチャとビリアに答える。
「大丈夫じゃないわよ。ほんっと最悪」




