244 百合は咲くまで苦労が絶えない
※話は少し遡って、リリィ視点のお話になります。8話ほど続きます。
倒れていたドゥーウィンを運んで、一度宿へ戻る事にした私達は、それぞれ役割を決めて動き出す。
マンゴスチンの家には、ルピナスちゃんとスミレの二人で向かう事になった。
ビリアとプリュとラヴの三人は、サガーチャにこの事を伝えに行った。
そして、私はドゥーウィンが目を覚ますのを、側で待ってあげる事になった。
私は待ちながら、部屋の窓から外を眺めていた。
雪は未だに降り続け、少し肌寒さを感じる。
外ではエルフの子供達が元気に遊んでいて、雪合戦をしていた。
その子供達の近くには大人が数名いて、子供達の遊ぶ姿を見ながら話をしていた。
こうやって見ると、至って平和よね。
私が退屈を感じながら、そんな事を考えていると、背後から声が聞こえてきた。
「ハニー? ここは……何処ッスか?」
振り返ると、ドゥーウィンが目を覚ましたようで、私を見つめていた。
私は微笑みながら答える。
「やっと起きたわね。ここは宿の中よ。痛い所とかはある?」
「痛い所は……あっ! そうッス! ボクはあの後眠らされてって、ハニー達に伝えなきゃいけない事があるッス」
ドゥーウィンが勢いよく飛び起きて、慌てた様子で私の目の前に飛んで来る。
「ご主人がドリアード様に攫われたッス!」
「やっぱりそうなのね」
私が呟くと、ドゥーウィンは驚いて目を瞬かせた。
「知ってたッスか?」
「サガーチャのおかげでね。発信機だとかで、ジャスミンが御神木の中にいる事はわかっていたのよ」
「す、凄いッスね」
「本当にね」
私が微笑して頷くと、ドゥーウィンが真剣な眼差しを私に向ける。
「ラテからの伝言ッス。ラテはご主人と一緒に、御神木の中に自分からついて行ったッス。だから、とりあえずはご主人の事は大丈夫だと言っていたッス」
「そう。あの子がそう言うなら、安心しても良いかもしれないわね」
「それと、ケット=シーの事を調べてほしいと、ラテから頼まれたッス」
「ケット=シーを? どういう事?」
私が聞き返すと、ドゥーウィンは窓辺に座って答える。
「実は、ボク達は御神木を調べる為に、ハニー達が眠った後に宿屋を出たッス。それでその時、ケット=シーのリーダーに出会ったッスよ」
「ケット=シーのリーダーって、アンタ達もマモンにあったの?」
私が驚いて訊ねると、ドゥーウィンが首を傾げた。
「あの猫、マモンって名前だったッスか?」
「そうね」
たしかドゥーウィンはケット=シーの言葉がわからなかったはずよね?
単純に知らなかったか、名乗ってなかったかはわからないけど、会ったのは間違いないみたいね。
「話を戻すッスよ。ラテから頼まれたケット=シーを調べると言うのは、そのリーダーを調べてほしいって事ッス。未だに姿を見せないベルゼビュートを捜すより、効率が良さそうだと言っていたッスよ。それにはボクも同感ッス」
「……わかったわ」
ジャスミンの事が心配で仕方がない気持ちで一杯だったけれど、ラテが一緒にいて大丈夫と言っていたなら心配は無いと思い、私は頷いた。
あの子は冷静に物事を分析して判断が出来る子だ。
だから、私は当初の目的の一人のフェニックスであるタイムを捜す為に、一番近道なベルゼビュートと近しい関係にあるマモンの事を調べようと考えた。
「一先ず、スミレ達が戻って来たら、この事を話しましょう。ドゥーウィンも、もう少し休んでいた方が良いわ」
「ハニー……」
私は腰を上げて立つと、ドゥーウィンに温かい紅茶を淹れてあげた。
ドゥーウィンは私が淹れた紅茶を飲みながら、窓の外の景色を眺めた。
私がドゥーウィンに今朝の事を話しながら、二人で暫らく窓の外を眺めていると、勢いよく部屋の扉が開かれる。
私もドゥーウィンも何事かと開いた扉の方に視線を移すと、顔を青ざめさせたルピナスちゃんが息を切らして部屋の中に入って来た。
「リリィお姉ちゃん。大変だよ!」
「何が大変なの?」
私が聞き返すと、ルピナスちゃんは私に駆け寄って抱き付いた。
そして、顔を上げて私と目を合わす。
「スミレお姉ちゃんが、スミレお姉ちゃんが捕まっちゃった!」
「捕まった? あの馬鹿。何をやらかしたのよ?」
「朝起きた時に、枕元にワンちゃんのうんちがある事件の犯人にされちゃったの! それと、神隠しの犯人にもされちゃった! 犯人じゃないって言ったけど、全然信じてくれなかったの!」
「はあ? 何よそれ?」
「おっぱい女も災難ッスね。ある意味ご主人よりやばいんじゃないッスか?」
「ドゥーウィン、そんな事を言ってる場合ではないでしょう? はあ……」
と、私はため息を大きく吐き出した。
ルピナスちゃんはドゥーウィンに気が付くと、ドゥーウィンに視線を向ける。
「精霊さん起きたんだね。大丈夫?」
「この通り大丈夫ッスよ」
「そんな事より、早くサガーチャの所に向かうわよ。まずはサガーチャ達に合流して、スミレの免罪を晴らしに行くわ」
マモンの事を調べてる場合でも無くなったわね。
本当、何やってんのよあの馬鹿。
「そんな事って酷いッスよ~」
「はいはい。いいから行くわよ」
「はいッス~」
「うん」
私はルピナスちゃんとドゥーウィンを連れて、サガーチャのいる馬車小屋へと向かった。




