242 幼女の友人は口が軽い
午前中の花嫁修業が終わり、お昼休みに入って、私はマルメロちゃんと一緒に噴水広場までやって来た。
私は噴水広場に備えてある机にお弁当を置いて、椅子に座る。
マルメロちゃんもお弁当を持って来ていて、同じように机にお弁当を置いて、私と向かい合って椅子に座った。
ラテちゃんは今はお昼寝中で、もう身を隠す事もしようとせずに、私の頭の上で眠っていた。
私は若干ドキドキしながら、ドリちゃんから貰ったお弁当箱の蓋を開ける。
「わあ。ジャスちゃんのお弁当、凄く可愛いですね」
「う、うん」
本当に凄く可愛いなぁ。
いつもの私だったら、両手を広げて喜んでるかもだよ。
私はそんな事を考えながら、訝しげにお弁当を見る。
お弁当は本当に可愛らしくて、ニッコリ笑顔のおにぎりに、たこさんウインナーや、お花の形をした玉子焼きが入っていた。
ウサギさんの形をしたリンゴのデザートまである。
「いただきます」
私がお弁当と睨めっこをしていると、マルメロちゃんはいただきますをして、お弁当を食べ始める。
マルメロちゃんのお弁当、から揚げが入ってる。
私のイメージだと、エルフって肉は食べないイメージだったけど、実際は違うんだなぁ。
などと考えながら、マルメロちゃんが美味しそうにから揚げを食べる姿を見て、私も覚悟を決める。
「いただきます」
私は手を合わせて頂きますと言って、箸を持って構えた。
と、とりあえず玉子焼きから……。
玉子焼きを箸で掴み、そして口の中に入れる。
すると、ダシと砂糖で味付けされた卵の風味が口の中にいっぱい広がり、私を幸せな気持ちで満たしてくれた。
「美味しーい」
幸せ~。
私が好きな味付けかも。
私が玉子焼きの美味しさに顔を綻ばせていると、マルメロちゃんが興味津々に私に訊ねる。
「そんなに美味しいんですか? その玉子焼き」
「うん。ドリちゃ、じゃなかった。ドリアードさんが作ってくれたの」
「え? ドリアード様が?」
マルメロちゃんは私のお弁当をジッと見つめる。
「何となく、そんな気はしていましたけど、ドリアード様ってジャスちゃんの事がお好きなんですね。お二人は、どういうお関係なんですか? 失礼でなければ、お聞きしたいです」
どういう関係かと聞かれても……。
私が困惑すると、マルメロちゃんは首を傾げた。
それから、私とマルメロちゃんは楽しくお弁当を食べ終えて、早速ビーエル本を書いている人物を捜す事にした。
マルメロちゃんもドリちゃんから話を聞いているらしく、私のお手伝いをしてくれるようだ。
私はマルメロちゃんと、どう調べるか話し合ったのだけど、マルメロちゃんが凄い事を言い出した。
「花嫁修業の授業をサボって、皆が授業を受けている内に、部屋の中をあさりましょう」
「え?」
「何かあったら、ドリアード様が護ってくれるはずです。きっと上手く行きますよ」
マルメロちゃん、結構大胆と言うかなんと言うかだよ。
それ、犯罪だよ?
私が何も言えずに困惑していると、マルメロちゃんは私の手を掴んで歩き出す。
「マルメロちゃん?」
「まずは下準備です。お昼休みの間に準備をして、授業が始まったら、直ぐにとりかかれる様にしましょう」
そうして、私が連れて来られたのは、御神木の中にある唯一の購買部の売店だった。
そして私は売店に来て驚いた。
何故ならそこで売り子をしていたのが、マンゴスチンさんだったからだ。
「ふん。何しに来たんだい?」
「ま、マンゴスチンさん?」
「マンゴスチン様、おはごうございます。買い物をしに来ました」
マンゴスチンさんが私を睨んで、マルメロちゃんに視線を向ける。
「買い物ねえ。怪しいね。何を買おうってんだい?」
「認識阻害薬です」
え?
そんなのがあるの?
「認識阻害薬? 益々怪しいねえ。何に使おうってんだい?」
「勿論、ビーエル本を書いている犯人の部屋に侵入する為です。万が一見つかっても、認識阻害薬さえあれば、一時的に認識が阻害出来るので役に立つはずです」
マンゴスチンさんがピクリと眉を歪ませて、眉根を上げる。
私はマルメロちゃんの肩を掴んで半泣きで問い詰める。
「マルメロちゃーん!? なんで? なんでばらしたの!?」
「え? ジャスちゃん、でもこれはドリ――」
「どういう事だい!?」
マンゴスチンさんが私達を鬼の形相で睨みつける。
すると、マンゴスチンさんのその反応を見て、マルメロちゃんは顔を青ざめさせて慌てだす。
「あれ? でも、これはドリアード様が……」
「ドリアード様だってえ?」
「マルメロちゃん!」
なんでそんなに口が軽いの!?
このままだと全部お話しちゃう勢いだよ!
私は急いでマルメロちゃんの口を手で塞ぐけど、もう遅い。
マンゴスチンさんは私を睨みつけながら、懐から何かの液体が入った小さな瓶を取り出した。
「お前達には消えてもらう必要があるようだね」
マンゴスチンさんがそう言葉を口に出した時、私は何かの引っ掛かりを感じた。
あれ?
でも、おかしくないかな?
「マルメロ。お前は実に優秀で、いずれは私の息子の嫁にしてやっても良いと思っていたのに、本当に残念だよ」
「マンゴスチン様、どうか気をお静め下さい!」
そうなんだよね。
なんでマンゴスチンさんは、こんなにも怒ってるんだろう?
たしかに、他人の部屋に侵入なんて駄目な事なんだけど、消したいと思う程怒る事なのかな?
それに、どちらかと言うとビーエル本を書いてる犯人って言った時に、怒りだした気がする。
……うん。
私わかったかも。
私はマルメロちゃんの前に立ち、マンゴスチンさんと目を合わせて声を上げる。
「マンゴスチンさん! ビーエル本を書いているのは、マンゴスチンさんなんだね!?」
「な、何を馬鹿な事を言い出すんだいこの小娘は!?」
「ジャスちゃん、本当ですか?」
私は振り向かず、そのままマンゴスチンさんと目を合わせながら、マルメロちゃんの言葉に頷く。
「うん。間違いないよ」
こんなにも早く、書いてる人を見つけられるなんて凄くラッキーかも。
「と言うか、わかりやすすぎる位の反応をありがとーって感じだよ。ラテちゃん! 犯人を捕まえるよ!」
私がラテちゃんに話しかけると、少しの間この場がしんと静まる。
あれ?
「寝てますね」
え?
って、そうだった!
ラテちゃんお昼寝中だ!
……どうしよう?
起こしたら、可哀想だよね?
ラテちゃんを起こすかどうか私が迷っていると、マンゴスチンさんが持っている小瓶の蓋を開けて、床に液体をばら撒いた。
すると、液体がみるみると姿を変えていく。
「ジャスミン。お前さんは気にくわなかったんだ。ここで死んでもらうよ! さあ、出番だよスライム! 小娘の衣服を溶かしておしまい!」
……え? スライム?
って言うか、死んでもらうよからの衣服を溶かせって、どうしたらそうなるの?
床にばら撒かれた液体は、ドロドロなスライムへと姿を変えて、首を傾げて呑気に考えていた私に向かって襲いかかってきた。
「ジャスちゃん!」
「きゃーっ! 意味わかんないよ! こっち来ないでー!?」
私は逃げる間もなくスライムに取りつかれて悲鳴を上げる。
そして、私の着ていた着物がスライムに溶かされていく。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ! さあさあ苦しみなさい。いずれはお前さんが穿いている下着も溶ける。そうしたら、お前さんは呪いで死ぬんだろう? じっくり恐怖を味わうんだね」
それが狙いだったの!?
意味がわかんないと思ったけど、私の弱点にクリティカルヒットな凄く納得で嫌な作戦だよそれ!
って、ひぃー!
にゅるにゅるとべとべとで、本当に気持ち悪いよぉ……。




