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237 幼女も時には喧嘩します

 マルメロちゃんと一緒に教室まで来た私は、自己紹介をする事になった。

 授業が始まる前に自己紹介を終わらせておくようにと、マルメロちゃんがドリアードさんに頼まれたらしい。


 マルメロちゃんと一緒に教壇に立ち、私はごくりと唾を飲み込んだ。

 教室に集まる女の子達の視線が私に集まり、ちょっとだけ緊張気味に私は口を開く。


「えと、ジャスミン=イベリスです。よろしくお願いします」


 私が自己紹介をすると、まばらに数人が拍手する。


 あまり歓迎されてないみたい。


 などと私が考えていると、突然皆が騒ぎ出した。


「きゃー! パンツの女神よ!」


「ジャスたーん! こっち向いてー!?」


「噂通りの天使様よ!」


 次々と女の子達が黄色い声を上げていく。

 私がその様子に困惑していると、マルメロちゃんが大きな声を出す。


「皆さん。落ち着いて下さい。ジャスちゃんが困ってしまいます」


 マルメロちゃんが女の子達を注意すると、女の子達は静かになる。

 だけど、3人だけ、そうじゃない子がいた。


「はあ。何よ良い子ぶって。本当に生意気」


「やめなって、聞こえるよ? アイツ泣き虫だから、泣いちゃうじゃん」


「そうそう。こんなとこで泣かれたら、めんどーじゃん」


 う、うわぁ。

 私の苦手なタイプの子がいるよ。

 怖いなぁ。

 って言うか、こら!

 マルメロちゃんを睨むな!

 甘々だなんて言われてる私でも、お友達に酷い事したら怒っちゃうぞ!


 マルメロちゃんを睨んだ3人の女の子は、一つの机を囲って行儀悪く椅子に座っていて、髪がショートボブの女の子とセミロングの女の子とミディアムでゆるふわヘアーの女の子。

 顔は3人とも可愛いくて、服装は鮮やかな着物姿で、着物を着崩して着ていた。


 3人から睨まれたマルメロちゃんは、顔を俯かせて涙をぐっと堪えていた。

 私はそれに気付いて、3人の女の子に抗議しようと、眉根を上げて3人に視線を送る。

 するとその時、ガラガラと教室のドアが開かれた。

 そして以前と言うか、昨日私に不合格と言った浴衣に草履姿の女の子が、教室に入って来た。


 あ、昨日の子だ。

 この子も神隠しにあっちゃたんだ。


「マルメロ、自己紹介は終わったのかい?」


「は、はい。今終わった所です」


「そうかい。それなら、今から料理の授業を始めるよ。皆ついて来なさい」


 えーと、うん?


 私が頭に?を浮かべて困惑していると、マルメロちゃんが私の耳元で静かに話す。


「あのお方が、私達エルフの長マンゴスチン様です。くれぐれも、失礼が無い様にお願いしますね」


「え!?」


 ええぇぇーっ!?

 嘘だよね?

 だって、だってよく見て?

 マンゴスチンさんって、少なくとも子供がいる人なんだよ?

 あの子、どう見ても私と同じくらいなんだよ?

 そ、そんな事が……あ!

 そうか!

 これがかの有名な合法ロリってやつなんだね!?


「ジャスちゃん?」


 頭が混乱している私の顔を、マルメロちゃんが心配そうに眉根を下げて覗き込む。

 私はハッとなって、マルメロちゃんと目を合わす。


「大丈夫ですか?」


「う、うん。あはは……」


 私は苦笑してその場をやり過ごして、マルメロちゃんと一緒に教室を出た。


 移動中、私は背後を歩くエルフの女の子達から、凄く注目されていた。

 たまに聞こえる黄色い声が、何故かとても居心地が悪い。

 そんな私を気遣って、マルメロちゃんが眉根を下げて私を見る。


「顔色悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」


「う、うん。心配してくれてありがとー」


 私が感謝を述べると、マルメロちゃんがニコッと笑う。

 すると、背後から罵倒が聞こえてきた。

 もちろん罵倒をしているのは、例の3人だ。


「何よアイツ。世話係に選ばれたからって、いい気になってんじゃないの?」


「少し私達より優秀だからって、生意気すぎよ」


「女神様に軽々しく話しかけるなんて、調子に乗ってるわよね」


 私は横を歩くマルメロちゃんに視線を向ける。

 マルメロちゃんは少し俯きながら、眉根を下げて暗い表情をしていた。


 このままじゃダメだ!


 私は歩くのをやめて、後ろに振り向く。

 そして、マルメロちゃんの悪口を言っていた3人に視線を向ける。


「マルメロちゃんになんの恨みがあるのか、何が気にくわないのかわからないけど、それ以上マルメロちゃんの事を悪く言うなら絶対許さないんだからね!」


 私が声を上げると、悪口を言っていた3人が驚いて、気まずそうに私から視線を逸らした。


「じゃ、ジャスちゃん!?」


「マルメロちゃんも言われっぱなしはダメだよ。もし反論する勇気が無いなら、私が味方になって、勇気をわけてあげるからね!」


 私は驚くマルメロちゃんの両手を取って、ギュッと力強く握りしめる。

 すると、私達の前を歩いていたマンゴスチンさんが、私の頭をポカッと小突く。


「ジャスミンとか言ったね。やっぱりお前さんは不合格だ。ここでは実力だけが全て。苛められようが苛めようが、弱い奴が悪い。弱い奴の味方をするなんて、愚かな娘だよ」


 弱いのが悪い?

 弱い人を味方をする事が愚か?


「そんなわけないよ!」


「何だと? 出来損ないの癖に、私に逆らうのかい? 生意気な娘だね!」


「生意気で結構だよ! 実力主義だかなんだか知らないけど、弱い方が悪いとか、絶対おかしいよ! って言うか、弱い人を守るのが強い人の役目だもん!」


「ふん! これだから弱者は困る。ここまで負け犬思考だと、将来碌なもんじゃないね」


「大きなお世話だよ!」


 私とマンゴスチンさんが睨み合う。


「ジャスちゃん、落ち着いて? マンゴスチン様ごめんなさい。ジャスちゃんには、わたしが後でちゃんと言っておきますから、この場は許して下さい」


『マルメロの言う通りです。ジャスは少し落ち着いた方が良いです。今は喧嘩をしている場合じゃないです。それに、マンゴスチンと争うにはまだ早いです』


『そ、そうだけど……』


 マルメロちゃんに続いてラテちゃんが加護の通信を使って、私に落ち着くよう話しかけてきたので、私は何も言えなくなってしまう。


「ふん。そうするんだね。今回は、まだここに来て間もないから許してあげるよ。だけど良いかい? ここで私に逆らうとどうなるか、たっぷり教えてあげるんだよ」


「はい!」


 マルメロちゃんが大きく頭を下げて、マンゴスチンさんは先を歩いて行く。

 私がそれを何とも言えない気持ちで見つめていると、マンゴスチンさんの姿が見えなくなった途端に、今まで黙っていた女の子達が騒ぎ出す。


「きゃー! 素敵ー!」


「流石はパンツの女神様! 噂通りの方だわ!」


「どうしましょう? 私、女神様に恋してしまいそう」


「仕方がないわよ。女神様は、どんな殿方よりもかっこいいんですもの」


「それにとても可愛いわよね」


 な、何これ?

 皆がもの凄い目を輝かせて、私の事を見つめてるよ?

 マンゴスチンさんはあんな事言っていたけど、別にここにいる皆も同じ考えって事でもないんだなぁ。

 って、あれ?


 私はその時、マルメロちゃんの事を悪く言っていた3人の変わりように気が付いた。


「ごめんね。私達が間違っていたわ」


「パンツの女神様に慕われていて、羨ましかっただけなの」


「許してね?」


 調子が良いなぁ。

 でも、とりあえず、もう安心なのかな?


「ううん。わたしの方こそ、皆の気持ちに気づいてあげられなくて、ごめんなさい」


「良いのよ」


「そうよ。気にしないで?」


「私達お友達でしょう?」


 うーん……なんだかなぁ。

 まあ、本人達が良いならそれで良いのかなぁ?


 私はなんとも言えないモヤモヤした気持ちになりながらも、微笑み合うマルメロちゃん達を見つめた。

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