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229 幼女は精霊さんと魔族の裏事情を知る

 精霊さん達の代表スーちゃんに連れられて、私とリリィとフルーレティさんとプルソンさんは木の葉っぱで作られた小さな小屋のような所にやって来た。

 ここは里に魔族が来るようになってから、来客用に精霊さん達が用意した所らしい。

 私はフルーレティさんとプルソンさんに雪を降らせている理由を確認した。


「え? じゃあ、フルーレティさんはルピナスちゃんを助ける為に、ベルゼビュートさんの命令で雪を降らせてたの?」


「お姫様と約束したからね。君を悲しませたくなかったんだ。だから、あの子の為にも仕方なく聞いているんだ。と言っても、他にも理由はあるのだけど……」


 他の理由?


「で? ベルゼビュートは何の目的で、アンタに雪を降らさせてんのよ?」


「さあね。それは私にもわからない。ベルゼビュート様からは、ただ一言だけ雪を降らし続けろとしか、命令されていないんだ。理由なんて聞いてないからね」


「そっかぁ。ねえ? フルーレティさん。ルピナスちゃんは、もう掴まってないの。他の理由がなんなのか私にはわからないけれど、雪を降らすのを止める事は出来ないかな?」


「本当?」


「本当だぞ。博士と一緒に来たんだぞ」


「博士? でも、困ったわね……」


 私の言葉を聞いて、オネエさんが眉根を下げてフルーレティさんを見る。

 すると、フルーレティさんも真剣な面持ちで何かを考える素振りを見せた。


「がお?」


 2人の反応を見て、私とラヴちゃんが首を傾げる。

 フルーレティさんとオネエさんは目を合わせて頷き合った。


「お姫様。すまないけれど、やっぱり暫らくの間は雪を降らし続けるよ」


「そうね。私達が助けなきゃいけないのは、ルピナスちゃんだけではないもの」


「他の理由って何よ?」


 リリィが2人に訊ねると、スーちゃんが私達の前に出て口を開く。


「神隠しはご存知ですかな?」


「うん」


「あれは未だ原因はわかりませぬが、恐らく犯人はベルゼビュートでしょう。その神隠しの被害は、あまり知られておりませんが、エルフの子供以外にも及んでいるのです。この方は、その者達の身を案じて雪を降らしているのです」


「フルーレティさんがもし逆らったら、その子達に何かが起きるかもしれないの?」


「困った事にね。そもそも、元々はそっちが原因で手伝わされていたんだよ。私の部下のサキュバス達も人質になってる。本当にベルゼビュート様には困ったものだよ。まあ、カスタネットの町でお姫様に出会った後に、私がベルゼビュート様に協力しないって言ったのが、そもそもの原因なのだけどね」


「そう言うわけだから、私達とここで会った事は内緒にしていてね。バレたら、何をされるかわかったもんじゃないもの。ベルゼビュート様って猫以外には厳しいのよね」


 なんかわかる。

 ベルゼビュートさんって、猫ちゃんには優しい感じするよね。


「スーシュさんもそう言うわけだから、この事は他言無用でお願いするわよ」


「任せて下され。木の精霊のジャスミン派の代表として、この事は墓場まで持っていきますわい」


 墓場って、そんな大袈裟な。

 って、あれ?

 思ったんだけど……。


「フルーレティさんとスーちゃんは、どういう関係なの?」


「私達の関係? そうだね……。私とプルソンは、表向きは今もベルゼビュート様の配下だね。だけど、私はお姫様に誓って以来、人々を苦しめるのは卒業してる。だから、密かにベルゼビュート様に対抗する手段を考えているんだ」


「ワタシ等は捕えられた大精霊ドリアード様をお助けする為に、ベルゼビュートの蛮行に耐えています。ワタシは皆に黙って、こうしてフルーレティ殿と裏で手を組んでおるのです」


「ふーん。つまり、アンタ達は表向きは敵対関係にあるわけね。それで、スーシュ達精霊はドリアードが捕まっているから、魔族に逆らえないと」


「その通りです」


 なるほどなぁ……って、あれ?


「主様、ドリアード様は捕まってたのか?」


「ドリちゃま、おととでてた」


「そうだよね。ドリアードさん、捕まってるって感じじゃ無かったよね?」


「パンツの女神様、それは本当ですか!?」


 鬼気迫る勢いでスーちゃんが私の顔に迫る。

 リリィがスーちゃんを手で押し退けて、私の前に立った。


「本当よ。それどころか、捕まってるだなんて、ここに来て初めて聞いたわ。そもそも、御神木に自由に出入りしている様に見えたわよ」


「なんと……」


 スーちゃんが目を見開いて驚き、力無く項垂れた。

 オネエさんが眉根を下げて、リリィに問いかける。


「それって、本当なの?」


「本当よ」


 リリィが答えると、フルーレティさんが顎に手を当てて呟く。


「おかしいな。私達が聞いていた話では、ドリアードは自由を奪われていて、御神木ではなく何処かに拘束されている筈だ」


「え? そうなの?」


「ワタシ等、木の精霊もアスモデという魔族から、そう聞かされました。助けたいのならば、決めた者以外は集落から一歩も出るなと。もし出たら、ドリアード様の命は保証しないと脅されました。それで、ワタシが代表として選ばれたのです」


「私達も同じようなものよ。決められた行動以外の事をしたら、捕えている人質の命の保証が無いと言われているわ。今だって限られた時間の中で行動出来ているだけで、後少ししたら戻らないと、何をされるかわかったもんじゃないわ」


 スーちゃんとオネエさんの話を聞いたリリィが、何かに納得したように頷いた。


「ドリアードも、ベルゼビュートとグルかもしれないわね」


 うん。

 私もなんとなく、そんな気がする。


「何ですと!?」


「百合嬢、どういう事だい?」


「木の精霊もフルーレティ達も、皆して行動が制限されているんでしょう? それが何よりの証拠じゃない。木の精霊と、元々反抗的なフルーレティが手を組むのを、防ぐ為でもあるかもしれないわね。自由に動き回られたら、ドリアードがベルゼビュートと手を組んでるってバレるからよ」


「確かにその通りだわ。でも、どうしてそんな事を? 木の大精霊がベルゼビュート様と手を組んで、何の得があるのかしら?」


「そんなの私にはわからないわよ。大方、人間に嫌気がさして、魔族とつるんで人間を滅ぼしてやるとでも思ってんじゃないの?」


「まさか……。いや、そんなわけはない! あの方は気難しいお方ではあるが、誰よりも立派なお方なのだ。そんな愚かな事を考えるはずはない!」


 スーちゃんがリリィに勢いよく詰め寄る。


「あーもう。悪かったわよ。悪く言った事は謝るから落ち着きなさいよ。ごめんってば」


 リリィが謝ると、スーちゃんは落ち着きを取り戻して、電池が切れたかのようにシュンとなる。


「しかし、何故ドリアード様は……」


「元気出すんだぞ」


「がお」


 スーちゃんにプリュちゃんとラヴちゃんが近づいて、頭を撫でて慰める。


 うーん……。

 理由はわからないけれど、絶対何かあるよね。

 ……うん。

 決めたよ!

 やっぱり、今夜こっそり御神木を調べて見よう。

 私1人だけなら、こっそり調べれば気付かれないかもしれないもんね。

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