225 幼女を抜き打ちテストしないで下さい
私とリリィはオークの休憩時間が終わるのと同時に、関係者控室を後にする。
精霊の森に雪を降らし続けるフルーレティさんの事を、オークに聞いてみたのだけど、詳しくは知らないと言っていた。
ただ、里で何かが起きると、ひょっこり現れたりするようなので、何処かにはいるようだ。
それと、ベルゼビュートさんの事も知らないようだ。
話によると、この里に来たのはベルゼビュートさんの命令でもあるようで、直接指示を受けると思っていたらしいのだけど、この里に来てからは会っていないらしい。
気になったのは、数日前にアスモデちゃんが姿を消したという情報だった。
アスモデちゃんはアスモデ派のエルフ達に信仰されているので、毎日その姿をエルフ達に披露して、信仰心を高めていたようだ。
だけど、ある日突然消えるようにいなくなって、神隠しにあったのではと噂になったようだ。
そんなわけで、私がオークから聞き出せたのは、これだけだった。
オークが今この里でやっている事と言えば、サイン会だったり漫画を書いたりしているだけで、他に何もしていないらしい。
それと、全く関係ない事なんだけど、気になる事を言っていた。
「そう言えば、アスモデ様が消える前の話なんですけど、疲れを癒す為にって小鳥を仕事場に連れて来て、それ以降仕事場で飼っているんですよ。とても可愛いので一度見に来て下さい」
だそうだ。
正直もの凄く見に行きたい。
諸々の事を済ませたら、是非小鳥さんに会いに行こうと、私は心の中で誓った。
私はリリィと宿屋に戻りながら、アスモデちゃんの事を話し始める。
「アスモデちゃんも神隠しにあったのかな?」
「そうなんじゃない? アスモデも見た目が幼い子だし、それにエッチな格好をしているもの」
あぁ……そう言えば、そんなだっけ?
ぶかぶかのタンクトップ1枚だもんね。
たしかにハイエースされちゃうかも。
「アスモデちゃんに会ったら、たっくんを何処に隠しているのか聞きたかったんだけどなぁ」
「そうね。正直あんな奴はどうでも良いけど、ジャスミンに能力を使ってもらう必要があるのよね」
どうでもは良くないよ?
私がリリィの言葉に苦笑していると、私達と同い年位のエルフの女の子が、私達の目の前に現れて仁王立ちした。
女の子は、浴衣姿に草履を履いていて、髪の毛は後頭部でお団子にしている。
そして、女の子は何処か年不相応な雰囲気を出していた。
女の子が私を舐めるように見て口を開く。
「ほう。お前さんがジャスミンとか言う小娘だな? 確かに、あの豚神と呼ばれるオークが書いた漫画のキャラクターによく似とる。モデルになったのは、間違いなさそうだね」
「何よアンタ? ジャスミンのファンなわけ?」
「いいや。私ゃファンでは無い」
女の子はそう言うと、私を再度舐めるように見て鼻で笑った。
「不合格」
「え?」
「不合格?」
私は頭に?を浮かべて、リリィが顔を顰めて女の子を見る。
「もしかしたらと思ったけど、これなら心配の必要も無いわい。邪魔して悪かったね」
女の子はそう言うと、背中を向けて走り出す。
「あっ! 待ちなさいよ!」
リリィは不機嫌そうに女の子に向かって大声を上げるけれど、女の子は振り返ろうともせずに、何処かへ行ってしまった。
「なんだったんだろう?」
「ふん。どうせ、ジャスミンの出て来る漫画に現を抜かした男にでも惚れてて、里に来たジャスミンを警戒して見に来たんでしょ」
うーん……。
「流石にそれは考えすぎなんじゃないかな?」
「ボクはハニーの意見に賛成ッス」
「がお」
うーん……なんだろう?
何か引っかかるんだよね。
結局その後は特に何事もなく、私は心に引っかかりを感じたまま宿屋に戻る。
だけど、私の心にあった引っ掛かりは、部屋のドアを開けて吹き飛んでしまった。
何故なら……。
「ジャスミンお姉ちゃーん!」
「る、ルピナスちゃん!?」
え? 嘘?
なんでルピナスちゃんがここに!?
私は状況を読み込めずに驚いていると、ルピナスちゃんが私に向かって駆け出して、私に思いっきり飛びついて抱き付く。
驚きすぎた私は放心状態となって、そのまま勢いよく後ろに倒れそうになり、リリィに支えられた。
その時、部屋の中からサガーチャちゃんが現れて苦笑した。
「いやあ、参ったよ。私達の行動は、全部マンゴスチンに筒抜けだったみたいなんだ」
「どういう事よ?」
リリィが顔を顰めて訊ねると、サガーチャちゃんは眉根を下げて答える。
「詳しい事は中で話そう」
「わかったわ。行きましょう? ジャスミン、ルピナスちゃん」
「う、うん」
放心状態から戻って来た私は、頷いて部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、残っていたラテちゃんとプリュちゃん、それにスミレちゃんとブーゲンビリアお姉さんが私達を迎え入れる。
私達が適当な場所にそれぞれ腰を下ろして座ると、サガーチャちゃんは何があったのか話し出した。
「まずは、先程ジャスミンくんに言った行動が筒抜けだった事について話そう」
サガーチャちゃんはそう言うと、スミレちゃんに視線を送った。
すると、スミレちゃんが真剣な面持ちでこくりと頷いて、言葉を続ける。
「幼女先輩、プルソンを覚えているなのですか?」
「え? プルソンさん? うん。体格の良いオネエさんだよね?」
と、そこまで言って私は思い出す。
「あっ。プルソンさんって、たしか人を見つける事が出来る能力を持ってたよね!?」
「はいなのです。フルーレティ様が精霊の森に雪を降らせている時点で、気付くべきだったなのです。エルフの長のマンゴスチンちゃんは、プルソンを使って、サガーチャちゃんを監視していたみたいなのです」
マンゴスチン……ちゃん?
「まさか、そんな魔族と手を組んでいるなんて、私も正直お手上げだよ。私達がこの里に来た後は、ケット=シー達を使って、こっそり屋根の上から私達を監視していたらしいんだ」
見かけないと思ったら、そう言う事だったんだ。
それじゃあ、わかるわけないよね。
「なるほどね。確かに、それならこっちの事が筒抜けなのも頷けるわね」
「ただ、他にも情報源がある様に感じたよ」
「そうなの?」
と、私が言葉を返すと、サガーチャちゃんは苦笑して答える。
「マンゴスチンの雰囲気……と言うよりは、話し方かな? そう感じたんだ。まあ、気のせいかもしれないけれどね」
「そっかぁ」
「そう言えば、博士とハニーは魔力が見えるんスよね? 気付かなかったッスか?」
「魔力は確かに見えているけど、まさか屋根の上にいる猫がケット=シーだなんて思わなかったからね。魔力もそこまで感じなかったし、私は野良猫か何かだと思っていたよ」
「ドゥーウィン、アンタ馬鹿なの? 私がジャスミン以外を気にするわけないでしょう? 魔力が見えると言っても、それよりもジャスミンから溢れ出る可愛さのオーラと比べてしまえば微々たるものなのよ? それに考えなくてもわかると思うのだけど、屋根の上に魔力を感じても、ジャスミンの可愛さを前に……」
あ。 うん。
長くなりそうな気がする。
変なスイッチが入って、なんか語り始めちゃったよ。
と言うわけで、リリィが突然くどくどとトンちゃんに語り出したので、私はサガーチャちゃんに話を振る。
「サガーチャちゃん、筒抜けだった理由はわかったけど、なんでルピナスちゃんを連れ出せたの?」
「連れ出せたと言うか、マンゴスチンと一緒に連れて来たんだ」
一緒に連れて来た!?
どういう事!?
私が驚いていると、サガーチャちゃんが苦笑しながら言葉を続ける。
「マンゴスチンは極度の親バカで、息子のソイを溺愛していてね。どうやら、ルピナスくんの事が気にいらないらしい。それで、私が会いに行ったら、喜んでルピナスくんを渡してくれたよ。息子には内緒だと言っていたけどね」
なんて言うか……うーん。
とりあえず、良かったのかな?
「マンゴスチンお婆ちゃんに、不合格って言われたの。お料理作るの下手だって怒られたんだ~」
ルピナスちゃんが少しだけしょぼんとなったので、私はルピナスちゃんの頭を優しく撫でる。
すると、ルピナスちゃんは気持ちよさそうな顔をして、私に笑顔を向けてくれた。
はぁ……。
やっぱりルピナスちゃんは可愛いなぁ。
私の天使だよぉ。
って、あれ?
不合格?
何処かで聞いたような……まあ、いっか。
ルピナスちゃんは可愛いなぁ。




