223 幼女は家畜と再会する
エルフの長のお家に向かっていると、こんな寒い中だと言うのにもの凄く長い行列を作って並ぶエルフ達の姿が目に入った。
私は何の行列なのか気になって、じーっと行列に注目する。
なんだろう?
私がエルフの行列に視線を送っていると、リリィが真剣な面持ちで呟いた。
「あれって、オークじゃない?」
「え?」
私はリリィの視線を追う。
行列の先には、チョコ林でスミレちゃんに絵の描き方を教わったオークがいた。
よく見ると、オークには机と椅子が用意されていて、椅子に座りながら並んでいる人達に何かを書いてあげ、そして握手をしてあげていた。
「海で会ったオークとは別のオークッスね。でも、ご主人の記憶の中で見た事ある気がするッス。ボク達と出会う前に会った事のあるオークッスか?」
「がお?」
「うん。私が初めて出会った魔族のオークさんだね」
「アイツ何やってんのかしら?」
リリィが顔を顰めて呟くと、サガーチャちゃんが列の近くに立てかけてあった看板に指をさす。
「サイン会って書いてあるね。初めて出会った魔族と言う事は、ジャスミンくんとリリィくんの友達なのかい?」
看板を見ると、私そっくりな女の子のイラストと、オーク先生サイン会と文字が書いてあった。
看板の下の方には、小さな文字でネコネコ編集部とも書いてあった。
「うーん……。お友達、なのかな?」
「おや? この絵、たしかアモーレが好きな、魔女っ娘ジャスたんじゃないか。なるほど……合点がいったよ」
「ねえ、ジャスミン。あそこで列を整理してるのって、チョコ林を襲ったゴブリン達じゃない?」
「え?」
本当だ!
スーツ姿のゴブリンがいる!
に、似合わないなぁ。
私がゴブリンのスーツ姿に苦笑していると、リリィが私に笑顔を向けた。
「ちょっと声をかけて来るわ」
「え!? 待……っ」
待ってと、私がリリィを止める間もなく、リリィは勢いよくオークの所まで走りだす。
あっ。
ゴブリンが止めようとして、相手がリリィってわかった途端に顔を青ざめさせて固まってる。
……うわぁ。
リリィとっても強引だなぁ。
オークがもの凄く驚いてるよ。
並んでる人達が凄く睨んで……あれ?
中には目を輝かせてる人がいるよ?
って、あれ?
睨んでいた人も、少しずつ驚いたり目を輝かせたりしてってる?
その時、リリィが私の方に顔を向ける。
それにつられるように、オークも私に目を向けたので、私は苦笑しながら手を振った。
すると、並んでいた人達が、次々と私に視線を向けて騒ぎ出す。
「ジャスたんだ」
「ジャスたんがいるぞ」
「うおー! ジャスたーん! 結婚してくれー!」
私は突然騒ぎ出したエルフ達にたじろいで、血の気が引いて一歩後ずさる。
すると、オークがリリィと一緒に私の所までやって来た。
「ぐへへへへ。いやあ、驚きましたよ。まさか幼女先輩が、オラのサイン会の様子を見に来て下さるなんて思いませんでした」
「こいつ、エルフ達から豚神様って言われてるみたいよ」
「豚神……様?」
私が呆気にとられて、そう口にすると、オークが照れながら頭をかいた。
「豚神様だなんて恐れ多い。オラは幼女先輩の家畜同然なんです。豚とでも呼んで罵って下さい」
え?
やだ気持ち悪い。
「がお? ブタたん?」
「これまた強烈なのが出て来たッスね」
「オークさんは、えっと……サイン会をしていたの?」
「あ、はい。そうなんですよ。幼女先輩をモデルにした、ツルっとパイけつ魔女っ娘ジャスたんがエルフの里でも人気だと、エルフからサイン会を頼まれて来たんですよ」
「へ、へぇ……」
私が若干引きながら呟くと、サガーチャちゃんがオークに向かって話しかける。
「まさか、アモーレが好きな漫画の作者が魔族だったなんてね。もし良ければ、私にも貴方のサインを貰えないだろうか? 妹がファンなんだよ」
「幼女先輩のご友人の方の頼みなら、喜んで書きましょう」
「ありがとう」
サガーチャちゃんはお礼を言って微笑むと、直ぐに私に視線を向けた。
「ジャスミンくん。マンゴスチンの家には私一人で行くとするよ」
「え? なんで?」
「どうやら、ジャスミンくんはここでは有名みたいだからね」
私はサガーチャちゃんに言われて気が付く。
よく見ると、列に並ぶ人だけじゃなく、通り過ぎる人たちまで私を興味あり気に見ていたのだ。
今思えば、ここまで来る間にも、エルフにすれ違いざまに見られていた。
その時の私は、エルフの里にいる人間が珍しいからだと思って、とくに気にもとめなかった。
だけど、今にして思えば、魔女っ娘ジャスたんという作品が原因だったのだ。
「マンゴスチン? この里の長の家に行くんですか?」
「うん。お友達がそこにいるんだよ」
「マンゴスチンは過激なアスモデ派の筆頭の一人ですから、幼女先輩は行かない方が身の為ですね」
過激なアスモデ派?
何それ?
どういう事?
「それじゃあジャスミンくん、ある程度様子を見たら、宿に戻るよ」
「え? あ、うん。気をつけてね」
「ああ」
サガーチャちゃんと別れると、私はゴブリンの案内で、サイン会の関係者控室に連れられた。
オークは後少しで休憩時間になるようで、そこで待っていてくれと頼まれたのだ。
私は関係者控室で椅子に座りながら、私の膝の上でちょこんと座るラヴちゃんの頭を撫でながらオークを待つ。
リリィはトンちゃんと一緒に、関係者控室に置いてあった魔女っ娘ジャスたんの本を読み始めた。
うーん……。
なんだかルピナスちゃんとオぺ子ちゃんとたっくんを助け出すのは、私達の事が知られちゃってるし、結構大変なのかもだよね。
ドリアードさんがいる御神木で消えたオぺ子ちゃんの匂いに、エルフの里の長マンゴスチンさん筆頭のアスモデちゃん推しのアスモデ派。
それに、ベルゼビュートさんもアスモデちゃんも、まだこのエルフの里の何処にいるかがわからないんだよね。
そこら辺の事って、オークさんが知ってたりするのかな?




