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222 幼女も時には上げて下げる

 ドリアードさんについて話を聞いた後、宿屋の近くにあった喫茶店のようなお店で、私達は昼食をとっていた。

 ニスロクさんはまだエルフの里にいるようなのだけど、元々エルフの里までとの約束なので、ニスロクさんを頼らずに昼食をとる事にしたのだ。

 ちなみに、ニスロクさんはエルフの里の見物をしに散歩に出かけたようだ。


 エルフの里の主食は主に果物のようで、私達はフルーツの盛り合わせを食べながら、今後の事を話していた。

 そしてそんな中、サガーチャちゃんが呆れたように口を開いた。


「リリィくんがいれば、こそこそとする必要は無いんじゃないかい? こう言っては失礼かもしれないけど、リリィくんはそこら辺の化け物じみた強さの魔族なんかより、よっぽど強いだろう? 野蛮な話ではあるけれど、マンゴスチンの家に殴り込みに行けば、直ぐにでも解決すると思うんだ」


 私は持っていた果物にかぶりついたまま、サガーチャちゃんの言葉に固まってしまう。


「確かにそうッスね。ハニーなら、エルフどころか魔族相手でも、どうにか出来そうッス」


「何言ってるのよ。私の実力なんてジャスミンと比べたら、ジャスミンのスカートより貧弱だわ」


「ジャスミンちゃん、どういう意味?」


 私は持っていた果物をお皿に置いて、ため息をしたくなる気持ちを抑えて、ブーゲンビリアお姉さんに視線を向ける。


「ビリアお姉さま、私に聞かないで」


「つまり、幼女先輩のスカートを捲るのは、魔族の脅威を退けるより難しいという事なのよ」


「そう言う事よ」


 おバカなの?


「主様のスカートは鉄壁なんだぞ!」


「がお!」


「でも、この間サルガタナスを回復した時、スカートが凄くひるがえっていたッスよ? それでついたあだ名がパンツの女神ッス。ぷぷぷ」


 私はラヴちゃんのお口についた果汁をハンカチで拭いながら、笑いを堪えるトンちゃんに向けて抗議の目を向ける。


「私もその場にいたかったなのよ」


「そうね。あの時ほど、私は後悔をした事が無いわ」


 ねえ、リリィ?

 そんなくだらない事より、もっと他に後悔する場面あると思うよ?


「ジャスミンくんのスカートが鉄壁なのは十分わかったから、話を戻していいかな?」


「私が殴り込みに行けば良いって話よね? 良いんじゃない? ジャスミンに無理はさせたくないし、私は構わないわよ」


「私も賛成なのよ。むしろ、今まで思いつかなかったのが不思議な位なのよ」


「リリィちゃんって暫らく見ない間に、随分と人間離れしたみたいよね。あの時サルガタナスに致命傷を与えたのが、リリィちゃんだったんでしょう? それだけ強ければ、どうにでもなりそうよね」


 サガーチャちゃんの提案に、リリィとスミレちゃんとブーゲンビリアお姉さんが頷き合って、イスから立ち上がる。


「ま、待って!?」


 私も慌ててイスから立ち上がって、皆を制止する。


「たしかにそうかもだけど、絶対ダメだよ!」


「ご主人、何か問題あるッスか?」


「そうよジャスミン。心配しなくても、逆らう奴は殺っちゃえば良いのよ」


「それ! それがダメなの!」


 また物騒な事言いだしちゃったよ!


 リリィの言葉で、ブーゲンビリアお姉さんが察して冷や汗を流して苦笑する。

 だけど、サガーチャちゃんはそうではないらしい。


「特に問題は無いように思えるけど……。何が駄目なんだい?」


「問題しかないよ! リリィがその気になっちゃったら、死人続出で最悪な事になっちゃうよ!」 


「大丈夫よ。ジャスミンの要望に応えて、運が良ければ死なない程度に力を抑えるわ」


「運が良ければじゃダメだよ! サルガタナスの時の事もあるし、リリィの攻撃は本当にやばいんだからね!」


 私が必死に訴えていると、ラテちゃんが大きなあくびをしてから、呆れた様子で口を開く。


「ジャスの言う通りです。それに、博士もリリィもスミレもよく考えるです。そんなバカな事をして、未だに行方がわからないオぺ子とタイムに何かあったらどうするです? せめて何処にいるのか調べてからにするです」


「なるほど。ラテールくんの言う事は最もだ。確かに私は、人質とも言える二人の事を失念していたよ。ジャスミンくん、すまないね」


「ううん。わかってくれたなら良いんだよ」


 流石ラテちゃんだよ。

 頼りになるなぁ。


 私はホッと胸をなで下ろす。

 それと同時に、リリィとスミレちゃんが頷き合った。


「タイムはどうでも良いけど、オぺ子ちゃんの事は無視出来ないわね」


「そうなのよ。フェニックスはどうでも良いけど、オぺ子ちゃんは助ける必要があるなのよ」


 2人とも、たっくんも大事だよ?

 ま、まあ、2人とも考え直してくれたから、良かったのかな?

 うん。

 そう思っておこう。


「決めた。それなら、私は今からマンゴスチンの家に偵察に行こう」


「え?」


「ジャスミンくん達が匂いを頼りに捜している時に、ビリアくん聞いたのだけど、マンゴスチンの家にはベルゼビュートや魔族がいないんだ」


「そうなの?」


「ああ。今はまだ、私とマンゴスチンは協力体制にあるからね。最初は下手に動かない方が良いとも考えたのだけど、そうも言ってられないだろう? だから、せめてマンゴスチンの家にいるルピナスと言う子の、様子を見に行こうと思う」


「そう言う事なら、私とジャスミンもついて行っていいかしら?」


「え? リリィ?」


 まさか、やっぱり力技に出るんじゃ!?


「さっき歩いていて気がついたのだけど、ベルゼビュートの仲間のケット=シー達の姿が見えなかったのよ。ケット=シーがいないなら、里の中で監視されている事も無さそうだし、ついて行っても大丈夫だと思うのよね」


 良かった。

 力技は関係なさそうだよ。

 と言うか、そう言えばだけど、ケット=シーちゃん達を見かけなかったよね。

 鉱山街からいなくなってたから、こっちに来てるんだと思ったんだけど違ったのかな?


「博士について行って、けもっ娘を連れ出して助けるッスか?」


「出来ればそうしたいけど、オぺ子ちゃんを見つけないと、それは出来ないわね。でも、顔を合わす事で、ルピナスちゃんを安心させてあげられる事が出来るかもしれないでしょう?」


「安心ッスか? まあ、ロリコン男の婚約者になってるッスからね~。そう言うのも結構重要かもしれないッスね」


 そっか。

 うん。

 そうだよね。

 そこまでルピナスちゃんの事を考えてくれてるなんて……。


 私はなんだか嬉しくなって、リリィに抱き付く。


「リリィ大好き!」


「え? 何? どうしたの急に!? 私も大好きよ!」


 私はリリィに抱きしめ返されて、更にギュウッとリリィを抱きしめる。


「あーっ! リリィズルいなのよ! 私も幼女先輩とイチャイチャしたいなのよ!」


「ふふん。残念だったわね、スミレ。今夜はジャスミンの初めてを頂くわ!」


「それは頂かなくていいかな」


 私はリリィから体を離す。


 うん。

 今夜はリリィと別の場所で寝よう。

 うん。

 それが良いよね。


「そんな……」


 リリィがまるで捨てられた子犬のような目で私を見つめるけれど、私は見なかった事にしてサガーチャちゃんに向き合った。


「サガーチャちゃん、私もついて行って良いかな?」


 私が訊ねると、私達を楽しそうに見ていたサガーチャちゃんはニマァッと笑みを浮かべて答える。


「もちろんさ」


 そんなわけで、私はサガーチャちゃんとリリィの3人で、エルフの長マンゴスチンさんのお家に向かう事になった。

 宿屋でお留守番をするのは、スミレちゃんとブーゲンビリアお姉さんとラテちゃんとプリュちゃんだ。

 ブーゲンビリアお姉さんは顔が知られている為で、スミレちゃんは万が一の為の護衛で、ラテちゃんも鉱山街でエルフと戦っているので万が一の事を考えて待機となった。

 プリュちゃんは精霊がラテちゃん1人だと可哀想だからと、話し相手になる為に残る事にしたようだ。


 私達が昼食を終えて、お店を出て別れる時の事だった。

 スミレちゃんが別れる直前に、気になる事を言い出した。


「そう言えば幼女先輩。アスモデちゃんの匂いがしないなのですよ。ドワーフのお城での事もありますし、気をつけて下さいなのです」

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