221 幼女は御神木が気になる
私が驚いて声を上げると、リリィが顔を顰めてドリアードさんを睨み、スミレちゃんは顔を青ざめさせた。
ドリアードさんの事を知っていたらしいトンちゃんとラテちゃん、それにプリュちゃんとラヴちゃんはギュッと私を掴む。
「ふむ。妾の事を知らなんだと申すか。まあ良い。それならば、この里に滞在しておる間は、覚えておく事だな。妾は寛大じゃ。其方等の無礼を許そうではないか」
「う、うん」
私が困惑しながらも返事をすると、ドリアードさんが眉根を上げた。
「うん、じゃと? 些か、礼儀を知らぬ様じゃな。言葉使いに気をつけよ」
ドリアードさんの言葉に、リリィが眉根を上げて前に出る。
「はあ!? 礼儀を知らないのはどっちよ? アンタこそ、何を上から目線で話しているわけ?」
「何?」
ドリアードさんがリリィを睨みつけ、殺気を放つ。
「は、ハニー! やめるッスよ! 今すぐ謝るッス!」
「謝る必要なんてないわよ! 上等じゃない! 木の大精霊だかなんだか知らないけど、上から目線なのが気に入らないわ!」
これって、結構やばいかも?
と言うか、エルフの里に着いて早々に事件なんか起こしたら、ドワーフの鉱山街の二の舞だよ!
私は慌ててリリィを後ろから羽交い絞めする。
「リリィ待って!? 落ち着いて!」
「ジャスミン?」
「ドリアードさんごめんなさい。今すぐここから離れますので、許して下さい!」
「ふん。まあ良い。以後気をつけるのじゃぞ」
私の必死が伝わったのか、ドリアードさんは不機嫌そうな表情ではあったものの、私を一度睨んでから大木の中へと消えていった。
私はドリアードさんが消えると、安堵のため息を零して、リリィから離れた。
「アイツ、ジャスミンのおかげで命拾いしたわね」
リリィ、ちょっとは反省して?
でも、多分だけど、実際に戦ったらリリィが勝っちゃうんだろうなぁ。
そうなったら、最悪な事になりそうだけど。
エルフが襲って来ちゃいそうな気がするし……。
「リリさん。あんまり無茶したら、駄目なんだぞ」
「そうなのよ。相手は大精霊なのよ。手を出したら駄目な相手なのよ」
「がおがお」
「もう。わかったわよ」
プリュちゃんとラヴちゃんとスミレちゃんのに宥められると、リリィはフンッと鼻息を荒く吐き出して、そっぽを向いた。
「とにかく、ここから離れようよ。ドリアードさんにも、私がそう言っちゃんだし」
「仕方がないわね」
私達は一度この場を離れるべく、宿屋へ向かう事にした。
◇
宿屋に到着して、スミレちゃんの鼻を頼りにサガーチャちゃんとブーゲンビリアお姉さんがいる部屋までやって来て、私は木の大精霊ドリアードさんに会った事を話した。
すると、ブーゲンビリアお姉さんが目を見開いて驚いた。
「ど、ドリアード様に会ったの? ドリアード様は滅多な事では、こっちに来ないはず……。御神木は湖に囲まれているのに、どうやって行ったの?」
「私はリリィにお姫様抱っこしてもらってかな」
「私はジャスミンをお姫様抱っこしながら、湖の上を歩いただけよ」
「私はジャンプして湖の上を渡ったなのよ」
私達の返答に、ブーゲンビリアお姉さんは絶句して言葉を失い、サガーチャちゃんは楽しそうに笑いだす。
「君達は本当に凄いね」
「ジャスミンちゃん、ごめんね。まさか湖を渡るとは思っていなくて、ドリアード様の事を話さなかったのよ。少し説明させてね」
「うん」
私が頷くと、ブーゲンビリアお姉さんは柔らかく微笑んで話を続ける。
「木の大精霊ドリアード様は、ここエルフの里にある御神木に昔から住んでいる大精霊様なの。大精霊様については、知っているわよね?」
「私が知っているのは四大精霊ね。木の大精霊なんて初めて聞いたわ」
「そう。それなら、リリィちゃんの為にも説明すると、大精霊様は四大精霊様以外にも、何人かいらっしゃるの。その何人かの一人が、木の大精霊様であるドリアード様よ」
「ふーん」
リリィは興味無さげに頷く。
「エルフの里でのドリアード様は、そうね……。私達が暮らすトランスファで言う所の、ラテールちゃんと同じ立場の方よ」
たしかラテちゃんって、私達の村で自然を守る為にいてくれたんだよね?
じゃあ、ドリアードさんもエルフの里と言うか、精霊の森を守ってるって事だよね。
「ドリアード様は気難しい方で、普段は人前には出て来ない方なのよ。だけど、人前に出て来ないからこそなのかもしれないわね。エルフ達からの信仰が厚いのよ。だから、この里でドリアード様を敵に回す事は、エルフ達全員を敵に回すと考えた方が良いわ」
やっぱり私の思った通りなんだ。
ドリアードさんには手を出さない方が良いんだよ。
「そんなんだから、アイツはあんなに偉そうな態度を取っていたのね」
偉そうって……リリィ。
うん。まあそうだけども……。
「リリィ、偉そうなんじゃなくて、偉いですよ。ドリアード様は大精霊様達の中でも、植物系の魔法に特化した凄い人です。ラテも初めて会ったけど、見ただけで凄さがわかったですよ」
「そう言うわけだから、ドリアード様には手を出さないように気をつけてね」
「うん。わかったよ」
触らぬ神に祟りなしって言うし、出来るだけ関わらないようにしよう。
でも、なんでだろう?
ドリアードさんと言うか、あの大きな御神木は凄く重要なきがするんだよね……。
今夜あたりに、見つからないように、こっそり調べてみようかな?




