022 幼女の巣立ちは飛ばずに浮く
魔族の幹部の一人バティン改めスミレちゃんとの戦いが終わり、ラークを解放してあげてから、私達はラークとリリオペを秘密基地に残し村へと帰る事になった。
村へ帰る途中、私はブーゲンビリアお姉さんから質問を受ける。
「ジャスミンちゃん。簡単に魔族の幹部を倒しちゃったけど、それだけ実力があるなら、どうして最初に逃げようっって提案したの?」
「皆がやばいって感じになってたから、私も逃げなきゃって思ったの」
実際にあの時は、皆の雰囲気を見れば、誰でもそう思うはずだ。
結局、ルピナスちゃんは秘密基地の入り口の見た目を、怖がっていただけみたいだけど。
「私はルピナスちゃんが、スミレちゃ……魔族のお姉さんを怖がって無かった方に、驚いたな」
「あのお姉さん、独り言が楽しそうだったから、怖くなかったよ」
「へ? 独り言?」
「うん。怖い入口の中で、ハンカチを落とした子は、どんな素敵な女の子なのかしらー? きゃー。早く会いたいわーって、言ってた」
ルピナスちゃんの言葉に、私とリリィとブーゲンビリアお姉さんは歩みを止めて立ち止まり固まる。
え?
それってつまり、秘密基地が見えてきたってだけの、それなりに距離のあったあの距離で独り言を聞き取ったって事だよね?
「ルピナスちゃんめちゃくちゃ耳が良いじゃん! 凄すぎだよ!」
「ちょ、ちょっと待って。もしかしてルピナスちゃんは、ジャスミンと私が魔族と話してた内容って、聞こえたの?」
「あっ!」
そうだ!
そうだよね!
あの距離で、仮にも建物内の独り言が聞こえていたって事は、私達の会話が聞こえててもおかしくない!
私は恐る恐るルピナスちゃんを見た。
すると、ルピナスちゃんはニコッと天使の様な笑顔を見せてくれた。
「聞こえてたよ。ジャスミンお姉ちゃんが転せ――」
「――きゃーっ!」
私はルピナスちゃんの口を、急いで手で塞ぐ。
「どうしたの? ジャスミンちゃん。聞かれたらまずい話でもしていたの?」
「何でもないよ! うん。何でもない!」
「そ、そう?」
あっぶなー。
まさか、聞かれてしまっていたとはって感じだよ。
でもそっか。そうだよね。
ルピナスちゃんは獣人だから、聴覚が凄く優れてるんだね。
そこで、リリィが私の耳元でこそこそと話す。
「色々と説明も必要だし、ルピナスちゃんもフラワーサークルに連れて行きましょう?」
「うん。そうする」
そんなわけで、無事に村へ戻って来た私達は一旦別れて、フラワーサークルに行く為に再び集まった。
集まったのは私とリリィとルピナスちゃん。
ブーゲンビリアお姉さんには内緒だ。
でも、そのおかげで、一つ問題が起きてしまった。
「ジャスミンお姉ちゃん、見張りの人いっぱいいるよ」
「うん。どうやって村を出よう?」
そう。
今は絶賛村の外出禁止中なのだ。
村を出ようとしたら、子供だけで村の外に出たら駄目だって、必ず止められちゃうのだ。
「それに関しては、私に良い考えがあるわ」
リリィが胸を張って得意気になった。
「ジャスミンの魔法を使うのよ」
「私の魔法?」
「そうよ。ジャスミンって、土の上位魔法の重力の魔法が使えるでしょう? それで空を飛んで、村の外に出るのよ」
「あ。なるほど」
リリィってば頭良い。
私には、その発想は出て来なかったよ。
たしかに、重力を操れるなら、宙に浮く事も可能だもんね。
「リリィ凄い!」
私がそう言ってリリィの腕にしがみつくと、ルピナスちゃんも私の真似をして逆側の腕にしがみついた。
「もう。何言ってるのよ。凄いのはジャスミンよ」
リリィは、そう言いながら顔をだらしなくデレデレさせた。
「それじゃあ、さっそく使うね」
私はリリィの腕を掴んだまま、提案通りに魔法を使って、空に浮かぶ。
浮遊の対象は、もちろん私とリリィとルピナスちゃん。
本当は腕を掴んでいる必要は無いのだけど、何となくこっちの方が上手く魔法を使える気がしたので、そのまま腕を掴んで浮遊した。
「風が気持ちいい」
「わー! すごーい!」
空に浮かぶと気持ちの良い風が、私達の髪を撫でる様に吹き抜ける。
リリィと、いつの間にか私にしがみついていたルピナスちゃんは、空に浮かんで大興奮だ。
私も、初めて見る村を見下げた景色に目を輝かせる。
村を上から見たその景色は、自然豊かな緑にあふれた綺麗な景色で、いつもと違って見えた。
「それじゃ、フラワーサークルに行こー!」
「おー!」
万が一の事を考えて、なるべく人がいない所を飛んでいく。
ある時は高い木に隠れて、ある時は家の屋根の上に隠れて上手に身を隠す。
こうして、村を出た私達は、そのままフラワーサークルへと向かって行く。
私が前世の記憶を思い出すきっかけとなった、崖の横を通って近道する。
崖の横を通る時に、リリィが私の顔を見て「安心したわ」と、ニッコリ微笑んだ。
トラウマになってないか、心配してくれてたのかな?
やっぱりリリィは優しいなぁ。
そう思った私は、自然と笑顔になる。
それからフラワーサークルに到着すると、先に到着していたスミレちゃんが待っていて、手を振って私達を迎えた。




