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218 幼女に強要してはいけません

 私が急な胸の苦しみと息苦しさを感じてうずくまると、トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが私の異変に気がついた。


「ご主人?」

「ジャス?」

「主様!?」

「ジャチュ?」


 トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが同時に私を呼んで、心配そうに私を見つめる。

 私は胸を押さえながら、アスモデちゃんにドワーフのお城で言われた事を思い出した。


 アスモデちゃんが……もうすぐ死ぬって言って……たのは、これだったのかな?

 苦し……い。


「トンペット、これって前兆です!?」


「わからないッス! ボクだって、ボクだってこんなの……っ」


「主様! 主様!」


「ジャチュー」


 トンちゃん達が騒ぎ出す。

 すると、騒ぎを聞いたリリィがやって来た。


「どうしたの?」


 私は咄嗟に笑顔を作り答える。


「ううん。なんでもないよ」


「そう? それなら良いのだけど」


「それよりリリィ、準備は終わったの?」


「ええ」


「そっかぁ。どんなのか見てみたいな。持って来てもらっていい?」


「良いわよ。少し待っていてね」


「うん」


 リリィがお洋服を取りに戻って行く。

 すると、トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが心配そうに目に涙を溜めながら、私の顔を見た。


 うん。

 大丈夫。

 もう苦しくない。


 さっきまで感じていた苦しみは、リリィと話している内にいつの間にか消えていた。

 私は4人に笑顔を向ける。


「心配してくれてありがとう。この事は、内緒にしてね」


「ジャス……。わかったです」


「……主様、無理したら駄目なんだぞ」


「がお……」


 トンちゃんだけ少し沈黙する。

 そして、真剣な面持ちを私に向けた。


「ご主人、暫らく魔法を使うのを禁止するッスよ」


「え?」


「多分これはラテの言った通り前兆ッス。精霊と契約をして、加護を受けすぎた副作用みたいな物ッスよ。だから、ボクの予想では、これ以上魔法を使うのは命に係わるッス。だから、もう魔法を使っちゃ駄目ッス」


「……うん」


 私は胸を押さえながら、眉根を下げて頷いた。

 プリュちゃんが私の顔を心配そうに覗き込む。


「主様、アタシとの契約を破棄してほしいんだぞ。精霊のアタシじゃ、主様との契約を一方的に破棄出来ないからお願いだぞ」


「プリュちゃん?」


「アタシの事なら気にしなくて良いんだぞ。それより、主様の事の方が大事なんだぞ」


「がお」


「プリュちゃん、ラヴちゃん」


「そうッスね。それが一番ッスよ。ご主人、ボク達皆との契約を破棄するッスよ。今更かもしれないけど、少しはご主人も楽になるはずッス」


「それが良いです。タイムに頼めば不老不死になれるです。不老不死になったら、また契約を結べば良いです」


「……契約を切った後、また皆と契約出来るの?」


 私がそう訊ねると、皆は少しの間沈黙する。


「で、出来るッスよ。そんなの当たり前じゃないッスか」


「そうなんだぞ。また契約し直せばいいんだぞ」


 私には、トンちゃんとプリュちゃんが無理に笑っているのがわかった。

 2人の反応を見て、一度契約を切ってしまうと同じ精霊と契約をする事は二度と出来ないのだろうと、私は悟った。


 ラテちゃんが私から視線を逸らしながら、泣きそうな顔で口を開く。


「出来ないです。一度契約を破棄したら、もう、契約は結べないです。一方的に契約を破棄出来る人間側の都合で、精霊と何度も契約を繰り返す事が無い様になってるです」


「ラテ! 何言ってるッスか!?」


 トンちゃんとラテちゃんが睨み合う。


「嘘を言って、どうするです!? そんな事をしても、いずれはわかるです! ジャスが悲しむだけです!」


「でも、そうでも言わないと、ご主人は! ご主人は! このままじゃ、死んじゃうッスよ!?」


「二人とも、落ち着くんだぞ」


「がお……」


 喧嘩をしだしたトンちゃんとラテちゃんの2人を見て、さっきまで私を苦しめていた精霊と契約した代償の前兆の苦しみとは全く別の、心に響く違う胸の苦しみを感じた。

 だから、私はそれに耐えれずに、直ぐに行動に出る。


「ありがとう」


 私はそう言って、4人を抱き寄せる。


「ジャス?」

「ご主人?」


 私はトンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんに優しく微笑む。


「私の事を大切に思ってくれてるのが伝わったよ。だから、こんな事で喧嘩しないで? 大丈夫だよ。エルフの里に行けば、たっくんもいるはずだし、後少しなんだもん。きっと大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 私はそう言って4人に笑顔を向けた。

 私がトンちゃん達に笑顔を向けた丁度その時、リリィがトンちゃん達用のお洋服を持って戻って来た。


「持って来たわよー」


「見せて見せて」


 私は4人を離して、戻って来たリリィに駆け寄り、可愛らしいお洋服を……。


「リリィ、何これ?」


「乳ベルトよ」


 ……うん?


 私はリリィの持って来たそれを見る。

 それは、前世でファンタジー系の作品を見た時に、たまに目にした事のある胸に巻くベルトそのものだ。


「ドワーフの鉱山街の商店街で見つけて買っておいたのよ。この乳ベルトには、防寒効果があるらしいの。着ければたちまち、体の芯から温まるそうよ」


 いつの間に買いに行ってたの!?

 って、今はそんな事よりだよ。


「えっと……誰が着けるの?」


「もちろんジャスミンよ」


「嫌だよ! って言うか、私は水の加護で寒さは感じないから着けないよ」


「大丈夫よジャスミン! こう言うのは気持ちが大切なのよ! だから今すぐ着けてあげるわ」


「や、やめてー!」


 そんなわけで、私は興奮して鼻血を出したリリィに押し倒されて、無理矢理脱がされて乳ベルトを着けられた。

 更に乳ベルトを着けられてから、皆の前にお披露目とかで連れて行かれて、サガーチャちゃんに笑われる。

 スミレちゃんとブーゲンビリアお姉さんは2人して写真を撮り始め、ニスロクさんは困惑して準備に戻って行く。


 私は半ば諦めモードで皆に囲まれていたけれど、少しだけリリィに感謝しようと思った。

 何故なら、トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが振り回されている私を見て、いつものように楽しそうにしていてくれたからだ。


 リリィ、ありがとう。

 いつもは迷惑だけど、今回は感謝だよ。


「ジャスミン! 次はこれを!」


 リリィがそう言って、今度は絆創膏を取り出した。


 えっと……。

 この世界にも絆創膏なんてあったの?

 って言うかだよ。

 この流れって、まさかのまさかなのかな?

 知る人ぞ知る、かの有名作品のキャラクターのような使い方をするアレなのかな!?


「これはパンツの代わりに大事な所を隠す物のようよ! 代わりと言っても分類はパンツなのだから、きっとジャスミンにかかってる呪いも発動しないわ! これも商店街で見つけたの。本来は違う用途で使われていたようだけど、一部のファンの熱い希望によって、生まれ変わったらしいのよ!」


「絶対嫌だよ!」


「大丈夫よ! これはパンツなのだから、スカートを脱ぐ必要は無いの! でも、ジャスミンがどうしてもって言うなら、スカートも脱ぎましょう!」


「嫌だってば!」


 私とリリィの戦いが今始まる!

 と言うか、私は全速力で逃げ惑う。


 もう本当に最低だよ!

 私の感謝を返して!?

 って言うか、こっちに来ないでー!?

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