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214 幼女と長生き精霊さん

 スミレちゃんの嗅覚も万能ではない。

 スミレちゃんから聞かされた真実に、私は正直そんな事を思った。


 鉱山街を出て2日目の夕方頃。

 私は馬車の客室で椅子に腰かけながら、スミレちゃんとお話をしていた。


 ニクスちゃんから匂いを感じ取れなかったスミレちゃんは、サルガタナスから直接理由を聞いたらしく、その結果としてわかった事があった。

 それは、エルフ族の秘薬である。

 サルガタナスが言うには、ドワーフが魔科学ならば、エルフは魔法薬を扱う種族のようだ。

 そしてその魔法薬の中でも、特殊な薬が秘薬なのだそうだ。

 ベルゼビュートはエルフと繋がりを持っていて、その経由で人体から匂いを消す秘薬を手に入れたのだそうだ。


 そして、私はもう一つ驚きの真実を知る。


「じゃあ、スミレちゃんって精霊さんの、トンちゃん達の匂いはそこまでわからないんだ?」


「そうなのですよ。そのせいもあって、鉱山街では、あまりお役に立てなかったなのです」


「確かに今にして思えば、スミレの嗅覚が役に立ったのって遠距離で射撃をしたアマンダのサポートの時位だったわね」


「面目無いなのよ」


「でも、なんで精霊さん達の匂いはわかりづらいの?」


 私がそう疑問を口にすると、トンちゃんが代わりに答える。


「それはボク等が、そもそも個人の匂いを持ってないからじゃないッスか?」


「え? そうなの?」


「ボク等は精霊ッスからね」


 そうなんだ……。

 まあ、確かに精霊さん達に対して、良い匂いって聞いた事ないもんね。


 と、私が納得していると、スミレちゃんが首を横に振る。


「そこは大した問題ではないなのですよ」


 え?

 大した問題じゃない?

 結構大した問題だと思うのだけど?


「私は、あくまで女の子の匂いを嗅ぎ分けられるだけで、私より年上は基本わからないなのですよ」


 ……ん?


「納得です。ラテとトンペットとプリュイは、スミレより長く生きてるです」


「え? そうだったの!?」


 私は驚きのあまり、思わず立ち上がる。

 すると、私の膝の上に座っていたラヴちゃんが「がお~」と言いながら、転がって床に落ちた。


「ご、ごめんね。ラヴちゃん」


 私は急いでラヴちゃんを両手で持ち上げて、大きく頭を下げた。


「がお」


 ラヴちゃんは気にしないで良いよと声をあげて、私にニコッと微笑んでくれた。

 私はホッとして、座り直すと、ラヴちゃんを膝の上に乗せる。

 すると、プリュちゃんも私の腕から膝の上に飛び乗って、ちょこんと座って私を見上げた。


「主様、知らなかったのか?」


「うん」


「ご主人と契約したボク達の中で、ご主人より年が下なのはラーヴだけッスよ。ボク達はこう見えても、ご主人より年上ッスよ。でも、ボク達も精霊の中では、まだ子供と言われる位には若い方ッスけどね」


「ジャスは知らなかったみたいだけど、精霊は長生きで、普通に千年以上生きるです。長生きの精霊だと、五千歳を超える精霊もいるですよ」


「精霊の中でも大精霊様とかだと、一万年以上も生きてるらしいんだぞ」


「い、1万年!? そうだったんだ……」


「がお」


 でも、そっかぁ。

 じゃあ、トンちゃんもラテちゃんもプリュちゃんも、私より全然年上のお姉さんだったんだね。


 私はトンちゃんとラテちゃん、そしてプリュちゃんとラヴちゃんの順に見ていく。


 うん。

 みんな可愛すぎて、どうでもいっかぁ。


 私が皆の可愛さにニヘラッと笑うと、サガーチャちゃんがそんな私を見て笑いだした。

 サガーチャちゃんが笑っていると、リリィがサガーチャちゃんに質問する。


「今更ながら気になったのだけど、サガーチャは何でついて来たの? ドワーフとエルフは、関係が良くないのでしょう?」


 コラッジオさんとベッラさんから聞いた話では、エルフとドワーフの関係は良好とは言えない状態が続いているようだった。

 ここ二日の間に、ブーゲンビリアお姉さんからエルフの事を聞くと、それがよくわかった。


 ブーゲンビリアお姉さんを奴隷にしていたエルフは、ドワーフの鉱山街にスパイとして来ていたようだ。

 エルフだけで来てしまうと怪しまれてしまうから、エルフでは無いブーゲンビリアお姉さんを連れ回していたらしい。

 そして大胆にもエルフは身元を隠さない事で、ドワーフさん達から疑われないようにしていたらしい。

 普通なら、直ぐに入国拒否なりなんなりされそうなものだけど、今に思えば王様があのコラッジオさんだ。

 裏切者のビフロンスに対しての罰が、お風呂掃除な王様だ。

 正直に私もどうかとも思うけど、確かに包み隠さずエルフですよって堂々と街にいれば、何もされないだろうなと思う。

 ちなみにスパイの内容は、ドワーフの技術力を探る為だったらしい。


 一つ気になるのは、あの騒動の後はケット=シーちゃん達のように、いつの間にが姿をくらました事だ。

 ブーゲンビリアお姉さんが言うには、他にも何か目的があるようなそぶりを見せていたけど、それはわからなかったらしいので、その目的の為に消えたのかもしれないと、私達は結論付けた。


 と、話が脱線してしまったけれど、サガーチャちゃんが私達について来た事に、私も何故だろうと思っていたので耳を傾ける。


「確かに関係は良くない。だからこそ、王女である私がエルフ達に会い、関係を良好にする」


「あら? 意外と考えているのね」


 うんうん。

 流石だよサガーチャちゃん。


「と言うのは、母様達を納得させる為に考えた建前で」


 こらこら。


「ジャスミンくんの役に立ちたいと思ったからさ」


 サガーチャちゃんの言葉に嬉しくなり、私はサガーチャちゃんに笑顔を向ける。


「サガーチャちゃん……。嬉しいよ。ありがとー」


 私が心の底から感謝を述べると、サガーチャちゃんは私に微笑んだ。

 すると、リリィがサガーチャちゃんにジトーッとした視線を送って口を開く。


「で? 本音は?」


「勿論、ジャスミンくんの百面相をもう少し見ていたいからに決まっているだろう?」


「ええぇぇっ!?」


「そんな事だろうと思ったわ」


 嘘でしょう!?

 返して?

 私の感謝の気持ちを返してっ!?


 私があまりにも酷い理由に目で訴えると、サガーチャちゃんはニマァッと笑みを浮かべた。


「ぷぷっ。ご主人、言われた側から百面相してるッスよ」


「ジャスは本当におバカです」


「主様、元気出すんだぞ」


「がおー」


 プリュちゃんとラヴちゃんが私の頭に飛び乗って、いい子いい子と頭を撫でてくれた。


 うぅ。

 私の心を癒してくれるのは、プリュちゃんとラヴちゃんだけだよ。

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