021 幼女に後輩が出来ました
バティンお姉さんから出たまさかの発言に、驚きを隠せずにはいられないよ。
だって、私と同じように、この世界に転生者がいたなんてって感じだもん。
「まさか、魔族として何百何千年と生きて、今更そんな事思い出すなんて思わなかったなのよ」
「ほ、本当なの?」
「本当なのよ。だけど君、こんな話を信じてくれるなの?」
「うん。信じるよ。だって、私も転生者だもん」
「え? そうなの!?」
「うん」
「じゃあ、転生の先輩なのですよ」
「先輩!?」
何かそれ良い響きかも。
それにしてもびっくりだなー。
まさか、こんな所で私と同じ転生者に会えるなんて、夢にも思わなかったよ。
「何だか楽しそうね?」
振り返ると、リリィが駆け寄ってきた。
リリィの顔を見ると、ちょっと怒った表情をしていた。
「私は驚きすぎて、暫らく動けなくなっちゃったわよ。まさか、ジャスミンが2種類の上位魔法を使えるなんて思わなかったわ」
「そう言えば、土系の魔法使ってたら、その延長で使えた魔法なんだよね。上位魔法だったんだね」
「ジャスミン。そもそも本来だと、異なる属性の魔法は使えないのよ」
「え? そうなんだ? だから、火とか風とか使えなかったんだ。それだと、使えちゃったらおかしいもんね。残念」
「水と土の属性が使える時点で、既におかしいんだけどね」
リリィは呆れた様子でため息をついた。
「あ。そう言えば、他の皆は?」
すっかり忘れていたけど、ルピナスちゃんやブーゲンビリアお姉さんや、男子2人はどうしたんだろう?
「ルピナスちゃんもビリアも、今はリリオペと一緒に、ラークの下半身を覆ってる氷を削ってるわよ。ビリアは途中までジャスミンの事を心配していたけど、魔法を使った途端に勝負が見えて、向こうに行ったわ」
「あー。ラークの事忘れてたよ」
私は恐る恐るラークのいる方を見ると、いつの間にかトイレから出て来たルピナスちゃんとブーゲンビリアお姉さんとリリオペが、頑張ってラークの動きを封じている氷を削り取ろうとしていた。
「それより、良いの? 転生の事話しちゃって」
「あれ? お話聞こえてたの?」
「向こうは聞こえてたかわからないけど、私の所までは聞こえていたわよ」
「あはは。気をつけます」
私は苦笑して頭を掻いた。
実を言うと、何となくなんだけど、あまり転生の事は公にしたくないので気をつけなきゃだ。
すると、私とリリィの会話を聞いたバティンお姉さんが察した様で、私に話しかけてきた。
「先輩は、転生の事を言わない様にしているなのですね」
「うん」
「それなら、後でこことは別の場所に行って、ゆっくり一緒にお話しするなのですよ。その時ついでに、先輩が聞きたがってたお話もするなのです」
「えっ! 本当? ありがとう! バティンお姉さん」
「いやあ。感謝される程の事でもないなのですよ。あ。それと、私の事はスミレと呼んで下さいなのです。前世の名前なのですよ」
「へえ。可愛い名前だね。スミレちゃん」
「ちゃんだなんて、照れるなのですよー」
何だかよくわからないけど、いつの間にか私に敬語になっているバティンお姉さん改めスミレちゃんは、にへらっとだらしのない笑みを浮かべた。
どうやら、スミレちゃんは前世の記憶を思い出して、性格が急変したようだ。
さっきまで感じていた魔族特有の雰囲気が、見事に消え失せている。
リリィもそれを感じたようで、スミレちゃんの変わりように呆れた様子で質問する。
「なんか喋り方違くない? それに、所々おかしいわ」
たしかに、それは私も思ったんだよね。
などと思いながら、私もリリィの質問の先に耳を傾ける事にした。
「元々、これが私の口調で個性なのよ」
なるほど。
生まれ変わる前の口調なら、納得がいく。
私も、前世の記憶が甦ってから、所々前世の地が出てるもんね。
「ふ~ん」
色々納得した私とは違って、リリィは自分から聞いたわりには、興味がないのか気の無い返事をした。
だけど、スミレちゃんもリリィの態度に特に気にする事も無く、私に振り返る。
「私は一旦この場を離れるなのですよ。お花畑に行ってるので、後から来てなのですよ」
「うん。わかった。後から行くね」
「では!」
「またね」
別れの挨拶を告げると、スミレちゃんはもの凄い速度で、その場を立ち去って行った。
「ジャスミン。やっぱり、自分と同じ境遇の人がいたら嬉しい?」
「うん。嬉しい」
「やっぱりそうよね。良かったわね。ジャスミン」
「うん! あ。そうだ。リリィも一緒にフラワーサークルに来てくれるんでしょ?」
「え? 私も一緒に行っても良いの? お邪魔じゃない?」
「邪魔なわけないよ。リリィには、私の事を知っていてほしいもん。ダメ?」
私は本心をそのまま口にした。
リリィは私にとって本当に大切な親友で、前世の記憶が甦る前からも、いつも一緒に行動して遊んでいた。
私の親とリリィの親が仲が良いのもあって、それこそ産まれた時から付き合いなのだ。
だから、たった9年とは言え、楽しい事も辛い時もいつも一緒にいてくれた大親友。
私にとってリリィは、隠し事をしたくない大事なお友達なのだ。
でもこれは、あくまで私の我が儘だから、リリィが拒めば強制はしたくないけどね。
「仕方ないわね! 一緒に行ってあげるわ!」
リリィは笑顔で、私をギュッと抱きしめる。
「ありがとう! リリィ」
私は嬉しくなって、リリィを抱きしめ返した。
やっぱり持つべきものは友達だ。
前世では、女の友情はどうのこうのと色々聞いた事はあったけど、全然そんな事は無い。
本当に心から信頼できる友達に、男も女も関係ないって私は思う。
前世ではリアルで友達がいなかった私だけど、今の私は巡り会えた友達を大事にしていこうって、心からそう思う。
などと、私が考えていると、何処からか何か聞こえてくる気がした。
私は何だろうと耳を傾ける。
「おいこらーっ! 終わったんなら、早くこれどうにかしろよ!」
怒鳴り声のする方に目を向けると、未だ氷から抜け出せていないラークが、顔を真っ赤にして怒っている姿が見えた。
「あ。また忘れてた」
それから、私はごめーんと笑いながら軽く謝って、ラークの動きを封じていた氷を解いてあげたのだった。




