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205 幼女の好みはまな板である

 それは、ラテちゃんとフウさんとランさんの3人がニクスちゃんを連れだした時の事だった。

 サーカステントの前でスミレちゃんは何かあった時の為に囮役として待機していたのだけど、サーカステントの天井を突き破った3人の姿を見たスミレちゃんは後を追いかけた。

 そして、サルガタナスと戦闘になって、サルガタナスにジャグリングボールにされてしまったようだ。


 ラテちゃんからスミレちゃんがジャグリングボールにされた理由を聞いて、私はサガーチャちゃんに預けたボールの正体の一つがスミレちゃんだと気がついた。


 でも、それなら後もう一つは誰なんだろう?

 って、今はそれどころじゃないよね。


 私は出来るだけ無駄な争いを避ける為に、サルガタナスの事はリリィに任せて、フウさんとランさんに視線を向ける。

 2人はオライさんとマラクスさんと戦っているのだけど、なんと言うか、もの凄く激しい攻防をしていた。

 サルガタナスと戦った時とは全然違っていて、フウさんとランさんは一方的にやられている事も無く、むしろ優勢に見える。

 フウさんとランさんの操る風の魔法は豪快で、舞うように戦っていた。

 2人の戦い方は、基本はフウさんが接近し、ランさんが後方から支援を繰り返す。

 そしてそんな中でも、何度か見せる2人の左右対称な動きで綺麗な舞いを踊るように戦う姿は、とても美しく輝いて見えた。


 フウさんとランさんの戦う姿って、凄く綺麗。

 ずっと見ていたい気持ちもあるけど、止めないとだよね。


「ジャス、どうしたですか?」


 私の様子に気が付いたのか、ラテちゃんが私に話しかけた。


「あ、うん。実はね」


 と、私はプリュちゃんと一緒に、ラテちゃんにオライさん達の事を簡潔に説明する。

 私とプリュちゃんが説明を終えると、ラテちゃんが私の頭の上で寝転がる。


「ラテが潜入している間に、ジャスにも随分と色々あったですね。そう言う事なら、ラテは疲れたので寝るです」


 え? 寝るの?


 私が困惑していると、ラテちゃんは直ぐに有言実行で眠ってしまった。

 するとそこで、ニクスちゃんが怖い顔をして、私の目の前にブーゲンビリアお姉さんと一緒にやって来た。


「ジャス。ウチの事、何で放っておいてくれんの?」


「ニクスちゃん……」


 私はニクスちゃんに何も言えずにいると、ブーゲンビリアお姉さんが私を庇うように話に入る。


「ちょっとニクスちゃん、今はそんな事を言ってる場合ではないでしょう? それに、ジャスミンちゃんは貴女の事を心配して――」


「そんなん、そんなんわかっとる。でも、気持ちは嬉しいけど、ありがた迷惑や!」


「……ごめん」


 私はニクスちゃんに謝り俯いた。

 私が俯くと、黙って聞いていたプリュちゃんが、珍しく眉根を上げて怒る。


「そんな言い方ないんだぞ! 主様は、ニクスさんの事が本当に心配だったんだぞ!」


 プリュちゃんとニクスちゃんが睨み合い、その間にブーゲンビリアお姉さんが割って入る。


「二人とも落ち着いて?」


「なんやの。自分は胸が大きいからって!」


「え? 胸?」


「そうや! ウチかて、胸を大きくしてもろたら、あんな奴等とは縁を切るんや! せやから、それまでは邪魔されたないんよ!」


 やっぱり、ライオンさんが言っていた通りだったんだ。

 ニクスちゃん、おっぱいにコンプレックスがあったんだね。


 ニクスちゃんが怒鳴りつけると、ブーゲンビリアお姉さんは額に汗を流して困惑しながら、私の耳元で声をひそめて話す。


「私事情をあまりよく知らないのだけど、ニクスちゃんって胸を大きくしてもらう為に、魔族と一緒にいたの?」


「うん。そうみたいだね」


 私が苦笑しながら返事をすると、ブーゲンビリアお姉さんは呆れた様子でため息を吐き出した。

 そして、ニクスちゃんに視線を向けて、苦笑しながら口を開く。


「あのね、ニクスちゃん。ラテちゃんから聞いたのだけど、貴女はジャスミンちゃんの事が好きなのよね?」


「せやな。でも、それがなんなん? お姉さんには関係ないやろ?」


「ジャスミンちゃんは、胸の小さい女の子が好きなのよ」


「主様はぺったんこ幼女が大好きなんだぞ」


 と、プリュちゃんが楽しそうに笑顔で補足する。


 プリュちゃん、お願い。

 その通りなんだけど、そんな無垢な笑顔で、ぺったんこ幼女だなんて汚い言葉を使わないで?


「なんやて!?」


 ニクスちゃんが驚愕して、目を見開いて固まる。


 って言うか、あれ?

 ブーゲンビリアお姉さんに、私が貧乳好きだって行った事あったっけ?

 それもラテちゃんから聞いたのかな?


 私が首を傾げていると、ニクスちゃんはわなわなと震えだして、肩を落として私を見た。


「本当なん?」


「え? うん。そうだけど……」


 私が自分の好みを隠さずに答えると、ニクスちゃんはがっくりと項垂れた。


 と言うか、正確には幼女体型が大好きです。

 まあ、絶対に引かれちゃうから、そんな変態発言は出来ないけどね。

 でも最近は、スミレちゃんのおっぱいに埋もれる事が多いから、おっぱいの偉大さもわかってるつもりだよ!


 などと、私がおバカな事を考えていると、ニクスちゃんは涙を流し肩を震わせた。


 え? 泣いちゃったよ?

 そんなにショックだったの?


「ウチは、ウチは何の為に……っ」


 ブーゲンビリアお姉さんがニクスちゃんに微笑みかける。


「そう言うわけだから、本当にジャスミンちゃんを狙っているなら、胸を大きくするのはお勧め出来ないわね。むしろ、今の体型を維持する必要があるわ」


「せやな。胸を大きくする夢は、残念やけど諦める事にするわ。てっきり、リリィが年齢に似合わずの体型やから、ウチはジャスミンの好みなのかと思ってしもたわ」


 ええぇぇ……。

 ニクスちゃん、本当にそれで良いの?

 って言うか、今までのはなんだったんだろう?

 なんだか疲れたよ……。


 私はなんとも呆気なく解決してしまったニクスちゃんの問題に、ドッと疲れを感じてため息を吐き出した。

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