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203 幼女は男の弱点に詳しい

 ジャグリングボールにされてしまったリリィが、ころころと地面に転がる。

 私は気が動転してしまい何も出来ないでいると、サルガタナスがジャグリングボールを2個取り出す。

 そして、サルガタナスは重力の魔法でジャグリングボールとなったリリィを宙に浮かせて、手元に持っていき手で掴む。

 リリィを掴むと、サルガタナスはリリィを含めた3個のジャグリングボールを使って、気分良さ気にジャグリングを始め出した。


「流石はオイラだ。一番めんどくさい奴を片づけられた」


「大変なんだぞ! リリさんがボールになっちゃったんだぞ!」


「ジャスミンくんすまない。まさか、私の研究室の様子を盗撮されていて、そのせいでリリィくんが……」


「ううん。サガーチャちゃんは悪くないよ」


 私は涙を流しそうになったけど、グッと堪えてサルガタナスを睨みつける。


「リリィを元に戻して!」


「それは無理な相談だね。さて、次はお前の番だよ。魔性のよ――」


 その時、サルガタナスが喋っている途中で、恐ろしい事が起こってしまった。

 サルガタナスがやっているジャグリングのボールの軌道が、1個だけズレてしまったのだ。

 それは、決してサルガタナスがミスをしてしまったわけではなく、一目でわかる程の異常な急発進。

 サルガタナスの手の平に触れたボールは、まるで狙ったかのように、もの凄い速度でサルガタナスの股間に直撃したのだ。


「じょぁあーっ!」


 サルガタナスは悲鳴を上げながら股間を押さえて、その場でうずくまる。


 う、うわぁ……むごいよぅ。


「主様、今がチャンスなんだぞ! サルガタナスを捕まえるんだぞ!」


「そうだね。プリュイくんの言う通りだ。今の内に主犯であるサルガタナスを捕まえてしまえば、全て解決する」


「プリュちゃん。サガーチャちゃん。それはダメだよ」


「え? 捕まえちゃダメなのか?」


「ううん。そうじゃないの。男の人にとって、股間に攻撃があたるのは、とっても恐ろしく死ぬほど危険な事なの。だから、それに付け込んで何かしようだなんて、卑怯な事を考えちゃダメなんだよ」


「死ぬほど危険なのか!?」


「私もよく知らないのだけど、そんなに痛いものなのかい?」


「もちろんだよ。金の玉は言わば急所。絶対やってはいけない、禁じ手なんだよ」


「金の玉? わかったんだぞ」


「仕方がないか」


 私がプリュちゃんとサガーチャちゃんに真剣な面持ちで説得すると、2人は納得してくれた。

 それから、私はサルガタナスの股間を襲ったボールを見つめる。

 するとそのボールは、ぴょんぴょこ弾みながら、私に向かってやって来た。


「ジャスミン。大変よ! この姿だと、常にジャスミンのパンツが丸見えだけど、ジャスミンの可愛らしい顔が見づらいわ!」


 なんとなくそうなんじゃないかと思ったけど、やっぱりリリィなんだね。


 私はしゃがんでリリィを両手で拾って、肩の高さまで上げてじぃっと見つめた。


「ねえ、リリィ。そんな姿でも、大丈夫なの?」


「大丈夫なわけないじゃない。このままだと、ジャスミンと結婚が出来ないもの」


 わぁ。

 すっごく大丈夫そうだなぁ。


「くっそーっ。なんなんだお前は!? 何でオイラの能力をまともに食らって、そんな姿になったのに動けるんだ!」


 サルガタナスが股間を押さえながら、私の手の平に乗るリリィを睨みつける。


 あっ。

 やっぱり、おかしいんだ。

 うんうん。

 知ってた。

 こんな状態で動いたり喋ったりするなんて、絶対に変だもんね。

 やっぱり、リリィがおかしいんだね。


 私がサルガタナスの言葉を聞いて、うんうんと納得していると、リリィが呟く。


「以前、コラッジオに魔法で丸くされて良かったわ」


「え? どうして?」


「アレのおかげで、今はこんな姿になっていても動けるのよ。慣れって大切よね」


「そ、そっか」


 慣れかぁ……いやいやいや。

 あの時はボールじゃなくて、手と足と顔もあって、ちゃんと人間だったんだよ?

 今は、もうどっからどう見ても、ただのボールなんだよ?

 あの時のアレと今じゃ、絶対状況が全く違うと思うの。


「もういい! お前等なんかに今は構ってられないんだ!」


 サルガタナスは痛みが治まったようで、股間を押さえるのをやめて、持っていた残りのジャグリングボールを私に投げつけてきた。

 私は咄嗟にジャグリングボールをキャッチしてしまい、サルガタナスはその隙に宙を浮いて、もの凄い速度で逃げていく。


「逃げられちゃう!」


 私はサルガタナスを追いかけようと走り出そうとして、サガーチャちゃんに肩を掴まれた。


「待ってくれ」


「え? でも逃げられちゃうよ」


「リリィくんがボールにされてしまった事から推測すると、ジャスミンくんが今持っているそのボールは、さっきサーカステントを抜け出したバニー姿の彼女達の内の誰かかもしれない」


「え? 本当なの?」


「そのボールを貸してくれるかい?」


「う、うん」


 私は返事をして、サガーチャちゃんにボールを渡す。

 すると、サガーチャちゃんはドレスのスカートの中から、ノートパソコンのような物を取り出した。

 そして、そのノートパソコンのような物からケーブルを引っ張り出して、ボールの1つに繋げてノートパソコンのような物の画面を見る。


「やっぱりそうだ。ジャスミンくんには申し訳ないけど、私はここに残って、万が一サルガタナスに逃げられた時の為に解除方を調べる事にするよ」


「うん。その方が良いかもだよね。いつも直ぐに逃げられちゃうし」


 私は今まで、サルガタナスが散々逃げ回っていた事を考えて同意する。

 それで、私がリリィも一緒にサガーチャちゃんに渡そうとすると、リリィはそれを拒んで私の腰掛けポーチの中に入る。


「リリィ?」


「私はジャスミンと一緒に行くわ」


「でも……」


「いや。リリィくんは連れて行くべきだと私も思う。こんな姿になっても、自分の意志で喋る事も動く事も出来るんだ。きっとジャスミンくんを助けてくれるだろうからね」


「アンタ、中々わかっているじゃない。ジャスミン、そう言う事よ」


 私はリリィとサガーチャちゃんを交互に見て、こくりと頷く。


「わかったよ。リリィ、行こう!」


「ええ」


 私はリリィの返事を聞くと、サガーチャちゃんからフライボードを借りてサルガタナスを追いかけた。


 サガーチャちゃんにはあんな事を言ったけど、今度は逃がさないよ!

 もうニクスちゃんを助けるだけじゃない!

 絶対にリリィを元に戻す為に、今度はサルガタナスを捕まえるんだ!

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