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202 幼女を隠し撮りしてはいけません

「え!? 罠だらけ!?」


「そうなのよ。おかげで私も罠に引っ掛かったり、逃げ遅れた人を助けなきゃで先に進めなかったわ」


「なるほど。サルガタナスが罠を仕掛けていたなんてね。まったく困ったものだ。ジャスミンくんどうする?」


「うーん……」


 リリィから話を聞いたところ、この先の商い地区には沢山の罠が仕掛けられているらしい。

 厄介なことに、今回の一連の騒動に巻き込まれて逃げ遅れてしまった人もいて、リリィも無視が出来なくて先に進めないようだ。

 と言うか、このままだと被害が大変な事になるから、何か手は無いかとリリィは戻って来たようだ。

 ちなみに、ライオンさんは罠の事は知らなかったようで、サルガタナスからこの場所で敵を迎え撃てと命令されたらしい。


 罠って言っても、どの位の規模の物なんだろう?

 大したこと無さそうなら、リリィが戻って来ないだろうしなぁ。

 もし罠にかかって、サガーチャちゃんに何かあったら大変だし困ったなぁ。


「ねえ、リリィ。罠って、例えばどういうのがあるの?」


「例えば? そうね……」


 リリィはそう言うと、ポケットから何かを取り出した。

 私はそれに注目して唖然とする。


「主様が写ってるんだぞ」


「ええ。そうよ。ジャスミンの可愛い写真よ」


 何これ?

 私いつの間に撮られてたの?

 完全に隠し撮り写真だよ……。


「これが……罠なのかい?」


 サガーチャちゃんの質問に、リリィが真剣な面持ちをして無言で頷いて、アマンダさんとサガーチャちゃんが絶句する。


「全く恐ろしい事をするわ。こんな大切な物をばら撒くだなんて」


 アマンダさんとサガーチャちゃんが私を見て、私は2人の顔を交互に見て目を合わす。

 そして、プリュちゃんが写真を見て呟く。


「写真を道に捨てたら、駄目なんだぞ」


 プリュちゃん、そうだけどそうじゃないよ。

 今、問題にするべきはそこじゃないよ。

 って言うかだよ。


 私は困惑しながらもリリィに訊ねる。


「ねえ? 他には? 他には無かったの? 逃げ遅れた人って言ったよね?」


「え? ああ、そうね。トラバサミの様な物が突然現れたり、ナイフの雨が降ってきたり、爆弾か何かが爆発したりしてたわね。それらが出て来ると写真が巻き込まれるし、同時に逃げ遅れた人が巻き込まれるしで、写真と逃げ遅れた人を同時に助けるのが大変だったのよ」


 写真は諦めていいんじゃないかな? 


 と、私が微笑みながら考えた時だ。

 ライオンさんが私達の隙を見て、商い地区方面へと逃げ出した。


「逃げるが勝ちだぜ!」


「あっ! 主様、ライオンの魔族が逃げたんだぞ!」


「ひゃっはーっ!」


 と、ライオンさんが声を上げたその瞬間だった。

 突然ライオンさんが踏んだ地面が光だし、バスケットボールサイズの大きなボールがライオンさんを囲むように出現した。

 そして、それは破裂して、中から大量の鉄の塊のような物が勢いよく飛び出した。

 ライオンさんは勢いよく飛び出した鉄の塊のような物に襲われて、吹っ飛んで地面に横たわる。

 しかし、恐ろしい事にライオンさんを襲う罠は終わらない。

 ライオンさんが吹っ飛んで横たわった先の地面も光りだし、地面は恐ろしい程の威力で爆発した。

 その威力は周囲の建物を半壊させるほどの威力を持っていて、ライオンさんは勢いよく何処か彼方へ吹き飛んでいった。


 な、何あれっ!?

 もの凄く怖いんですけど!

 って言うか、ライオンさん大丈夫かな!?


「馬鹿な奴ね~アイツ」


「所詮は珍獣。知能が低いんだろうね」


 2人とも辛辣すぎない?

 ライオンさん可哀想だよ。

 って、それよりだよ。

 写真はともかく、やっぱり危険な罠があるんだね。


「ジャスミンくん。どうやら、サルガタナスが仕掛けた罠は、全て魔法と魔科学が使われているみたいだよ。おかげで私には、罠が何処にあるか見えるみたいだ」


「え!? 本当?」


「ああ。そこで提案だ。さっきと同じ様に、ジャスミンくんは私に掴まって、私が進んだ所をリリィくんとアマンダくんの二人について来てもらう。そして、逃げ遅れた人を見つけたら、二人が助けるって事でどうかな?」


「うん。良いと思う」


「わかったわ。写真と逃げ遅れた人は、私に任せて」


 リリィ、写真は回収しなくて良いってば。


「アタシは主様の腕にくっついて行くんだぞ」


 サガーチャちゃんの提案に皆が賛同して、一致団結で先に進む事になる。

 と、思われたのだけど、アマンダさんが「申し訳ないのですが」と言って、言葉を続ける。


「兵達に協力を頼み、逃げ遅れた人を助ける為に、私はこの事を皆に伝えに行きたいのですがよろしいでしょうか?」


 サガーチャちゃんは微笑んで頷く。


「そうだね。私とした事が、先に進む事だけを考えてしまっていたようだ。頼んでも良いかい?」


「はい。お任せを」


 アマンダさんは返事をすると、来た道をもの凄いスピードで戻って行った。


 アマンダさんって、結構目上の立場の人とかに礼儀正しいよね。

 美人さんで姿勢も綺麗で礼儀もあって、大人の女性って感じで、ちょっと憧れちゃうなぁ。

 私、そう言うの結構苦手で出来ないんだもん。


 私がボーっとそんな事を考えながら、アマンダさんを見送っていると、リリィが私に話しかける。


「ジャスミン、ドゥーウィンとラヴにも、加護で教えて上げた方が良いんじゃない? アマンダだけだと大変だもの」


「あ、うん。そうだよね」


 私はリリィに言われてトンちゃんとラヴちゃんに、加護を使って罠の事と逃げ遅れた人がいる事を教える。

 トンちゃんとラヴちゃんに伝え終わると、私はサガーチャちゃんに掴まった。


「サガーチャちゃんお願い」


「任された」


 サガーチャちゃんは返事をすると、フライボードを起動させる。

 そして、さっきよりも凄いスピードでジグザグに進んで商店街を駆け抜ける。

 私はその予測不能な動きに罠の多さを想像して、必死で振り落とされないようにサガーチャちゃんに掴まる。

 リリィもそんな動きに余裕でついて来ていた。


 そうして暫らくの間、見かけた逃げ遅れた人を助けながら進む。

 ここが商い地区であり、お店が多いのが幸いした。

 どうやら、罠さえ起動しなければ、建物の中は安全なようなので、私達は逃げ遅れた人達を店内に逃がしてあげたのだ。

 お店は誰かのお家ではない分、簡単に中に入る事が出来るので、思いの外スムーズに助けてあげる事が出来た。


 先にリリィが逃げ遅れた人を助けてくれていたおかげもあって、私達は意外と早くサルガタナスの後姿を見つけ出す。


「追いついたようだね」


「うん」


 ラテちゃん達はいないみたい。

 じゃあ、サルガタナスもラテちゃん達には、まだ追いついていないんだ。

 あれ?

 でも、サルガタナスの服が少し破れてたり、汚れてたりしてる。

 もしかして、ラテちゃん達と一度戦ったのかな?


 そう私が思った瞬間だった。

 サルガタナスは接近している私達に気が付いて、こちらに振り向いて立ち止まる。

 サガーチャちゃんもフライボードを止めて、私達はサルガタナスと向き合った。


「サガーチャ殿下と魔性の幼女が何故一緒に? くそっ。内通者がいたって事かい! どいつもこいつもオイラの邪魔ばかりしやがって!」


「ジャスミン、ここは私に任せて」 


 リリィが私達の前に出る。


「エロピエロ! いい加減、アンタの顔も見飽きたのよね。ここで決着をつけさせてもらうわよ」


「それはこっちのセリフだよ。オイラの邪魔ばかりしやがって、いい加減うんざりなんだよ」


「それこそこっちのセリフじゃない。覚悟しなさい」


「リリさん頑張るんだぞ!」


 リリィとエロピエロが睨み合う。

 私も思わず緊張で唾を飲み込んだ。

 そして、この2人の睨み合いは、一瞬で最悪な結果を残してしまう事になった。


 どちらが先に動いたのかはわからない。

 だけど、言える事はただ一つ。

 サルガタナスが懐から、サガーチャちゃんの研究室で私がもやしをもしゃもしゃ食べている写真を取り出して、リリィはその写真に目を奪われてしまったのだ。

 そして、その隙にサルガタナスがリリィに触れた途端に、リリィが緑色のジャグリングボールへと姿を変えてしまった。


「油断したね! オイラは転生者として、前世の記憶が目覚めていたんだよ! 二つ目の能力がないか警戒するべきだったね!」


 サルガタナスは転生者として目覚めていて、二つ目の能力を手に入れてしまっていた。

 そしてその能力で、リリィはジャグリングボールにされてしまったのだ。

 その事実に私は目を見開いて、ただ驚く事しか出来ずに立ち尽した。

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