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200 幼女は追跡を開始する

 私達のニクスちゃん救出作戦は、ネコネコサーカス公演中に決行される予定だった。

 ネコネコサーカスの演目は、事前購入出来るパンフレットと、練習風景を何度か見た事のあるコラッジオさんから確認していた。


 最初の演目は、火の輪くぐりならぬジャグリングくぐり。

 バニーガール姿のニクスちゃんが、空を飛びながらナイフを使ってジャグリングをする事で開始される。

 ケット=シーちゃん達がトランポリンを使って、次々とそのジャグリングの中をくぐり抜けるらしい。

 私達の作戦では、ここではまだ様子見で、とくに行動は起こさない。

 ただ、テントの外ではアマンダさんを中心に、鉱山街を出る為の退路の準備が進められる。


 続いて行われるのは、空中ボールキャッチだ。

 最初の演目で使っていたナイフにロープをくっつけて、最後の仕上げでニクスちゃんがテント内の柱に投げて刺していく事で開始する。

 幾つかの柱と柱の間がロープで繋がれて、猫ちゃん達がその上を一輪車で走り、色んな所から投げられるボールを一輪車に乗りながらジャンプしてキャッチするらしい。

 予定では、このタイミングで私はトンちゃん達に加護の通信で連絡を入れて、作戦状況の確認をする予定だった。


 次はライオンさんとケット=シーちゃん達のフラフープ。

 私達をビップ席に案内してくれたライオンさんと、ケット=シーちゃん達がフラフープで様々なパフォーマンスを見せてくれる。

 ステージの上を所狭しと色鮮やかなフラフープが舞い、とても綺麗なショーらしい。

 私はこの演目が終わる頃に、次の演目で再登場するニクスちゃんを助ける為に、この場を離れる準備をする事になっていた。


 そして私にとって見るのが最後の演目となるニクスちゃんの、うさ耳バードの空中演舞。

 バニーガール姿のニクスちゃんが空を飛びながら舞い踊り、オライさんの魔法でステージに風が吹き荒れる豪快な演目だ。

 吹き荒れる風の中を、サルガタナスの魔法で宝石が舞う光景は、フラフープの演目に負けず劣らずの美しさらしい。

 私は関係者控室の側まで行き、演目を終えて戻って来るニクスちゃんを捕まえる為に待機する予定だった。


 5つ目はサルガタナス本人が主役の演目のようで、ニクスちゃんを助けるのはこのタイミングがベストだった。

 更には、そのタイミングで観客席に城を脱走したスミレちゃん達がいると、サーカスの警備を任されている兵隊さんが嘘の報告を流す。

 そうする事で、万が一の為に注意をそちらに向ける予定だった。

 そうして私達はサルガタナスがステージでショーを披露している時に、退路を作ってくれた皆と合流しながら、鉱山街を出る予定だった。

 運が良ければそのまま次の目的地に、エルフの里を目指す予定だ。

 万が一サルガタナスが追って来ても、サーカスで演技を披露している間は追っては来れないだろうし、鉱山街にいる無関係な人達を巻き込まなくて済むと予想していた。


 そう。それが私達の作戦だったのだ。

 だけど、私達が考えたその作戦は、悲しくも開始を待たずに潰えてしまった。

 私は目の前で起こった事件を目のあたりにして、口をポカーンと開けながら、破られたテントの天井を見つめる。

 観客達は大騒ぎしていて、怒声や悲鳴、それに子供達の鳴き声が聞こえてくる。

 サルガタナスも激怒しながら宙に浮き、もの凄い速度で破れた天井から外に出て行った。

 ケット=シーちゃん達は混乱しながらも、必死に観客達をなだめ安全な場所へと誘導していた。

 まさに大混乱。

 敵も味方も無関係な人も巻き込んだ大事件だ。

 私は途方に暮れて立ち尽す。


 えーと……どうしよう?

 どうすればいいの?

 さっきの床が破裂したので、ケガ人が出て無ければいいけど……。

 って、アモーレちゃん偉い。

 おめ目うるうるさせてるけど、泣かないように我慢してる。

 そうだよね。

 楽しみにしてたもんね。


 私はアモーレちゃんの頭をなでなでしてあげる。

 するとその時、加護を使った通信が頭の中に響く。


『ジャス。ジャス聞こえるですか?』


『ら、ラテちゃん!?』


 私は雑音を防ぐために耳を塞ぎながら、ラテちゃんに返事をする。


『今まで何して……ううん。そんな事より、今の何!? 今何処にいるの!?』


『今の? もしかして、ジャスはサーカスの観客席にいたです?』


『うん。いきなりラテちゃん達が出て来て、ビックリしちゃったよ』


『それは困ったです。ビリアを助けたらジャスと合流して、こんな街は今すぐ出て行こうと思ってたですけど……』


『ビリア? え? ブーゲンビリアお姉さんがいる事を知ってたの? それに助けてってどういう事?』


『ビリアは商い地区で――』


 私が驚いて訊ねると、ラテちゃんからの通信が話の途中で急に途絶えた。


『ラテちゃん? ラテちゃんどうしたの!?』


 何度か呼びかけても反応が無く、私はコラッジオさん達に追いかけるとだけ告げて、急いでラテちゃん達の後を追いかけようと駆け出した。

 すると、私の後ろをサガーチャちゃんが追いかけてきて、横に並ぶ。

 私とサガーチャちゃんは階段を降り、そして出口に向かって走りながら話す。


「ジャスミンくん、急に血相を変えて何かあったのかい?」


「うん。ラテちゃんから通信が入ってきたんだけど、話している途中で通信が急に途絶えちゃったの」


「そうか。それは心配だね。そう言う事なら、私も協力しよう。しかし、行き先はわかるのかい?」


「うん。ありがとー! 多分、商い地区だと思う。そこにお友達のお姉さんがいて、助けるって言ってた」


「なるほどね。しかしそうなると、作戦とは全く別の方向になってしまうね」


「うん。でも、助けに行かなきゃ」


「ジャスミンくん。私に掴まりたまえ」


 私は言われるがままに、サガーチャちゃんに抱き付く。

 すると、サガーチャちゃんが着ているドレスのスカートの中から、後ろに噴射口の付いた板を取り出した。

 その板は、パッと見がスノーボードのような形状をしていて、噴射口が付いていなければスノーボードと思ってしまえる程に似た物だった。


「フライボード。教授が前世で好きだったスポーツの道具を、私なりに改造してみたんだ」


「え!? 前世――っきゃあーっ!」


 私がサガーチャちゃんの突然のカミングアウトに驚くのも束の間、サガーチャちゃんがフライボードを起動させて、もの凄いスピードを出して進みだす。

 私は振り落とされないように、サガーチャちゃんに力強く抱き付いた。


 教授のお爺ちゃんって、転生者だったんだ!?

 って、今はそれより!


 私は急いで加護の力を使って、トンちゃん達に連絡を入れる。


『皆聞いて!? 作戦は失敗。ラテちゃんがフウさんとランさんと一緒に、ニクスちゃんを連れて商い地区に向かったの!』


『うわぁ……テントの方が騒がしいから、もしかしてと思ったら、そんな事になってたッスね』


『私は今からサガーチャちゃんと一緒に商い地区に向かうから、皆は出来るだけ早くこの事を、リリィ達に知らせてほしいの』


『わかったんだぞ!』


『それと、出来れば商い地区から鉱山街の出入口までの間から、関係ない人達を巻き込まないように誘導してもらってもいいかな?』


『がお!』


『それは良いッスけど、ご主人』


『うん?』


『ハニーが既に商い地区に向かって行ったッス』


『え!? う、うん。わかったよ。教えてくれてありがとー。トンちゃん』


 流石リリィ。

 行動が早いなぁ。


 私がトンちゃん達との通信を切ってリリィに感心していると、サガーチャちゃんがフライボードを停止させて、私に話しかける。


「ジャスミンくん。どうやら、こっから先は簡単には行けなさそうだ」


「え?」


 私は首を傾げて目の前に視線を向ける。

 視線の先には、サーカステントで案内役をしてくれたライオンさんが私達を威嚇しながら、商い地区の手前で立っていた。


「サガーチャ姫とその婚約者と言えど、ここから先は通せません」


 婚約者?


 私は最初言われた言葉に疑問を抱いたのだけれど、それは直ぐに羞恥と共に意味を理解した。


 あ、あれ?

 嘘でしょう!?

 私、髭付鼻眼鏡をつけたままだったよ!

 私のバカー!


 こうして、私は顔が赤くなるのを感じながら、勢いよく髭付鼻眼鏡を取り外したのだった。

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