002 幼女が幼女だった頃
お日様のポカポカ陽気で気持ちの良い朝に、ちゅんちゅんと鳴く小鳥の囀りが聞こえて、私は目は覚ました。
うーんと大きく背伸びをしてベッドから降りると、キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきたので、トテトテと歩いて行く。
「ジャスミンおはよう。今日はリリィちゃんと出かけるんでしょ?」
キッチンに顔を出した私に、ママが素敵な笑顔で迎えてくれた。
私は、それがとっても嬉しくて笑顔になる。
「ママおはよう。うん。リリィと一緒に、フラワーサークルまでお出かけするの」
「うふふ。じゃあ、お弁当持って行かないとよね?」
「作ったの?」
「もちろん。ジャスミンの大好きな物いっぱい詰め込んだわよ」
「ママ大好き!」
私は上機嫌になって満面の笑顔でママに抱き付き、ママもそんな私を喜んで、良い子良い子と頭を撫でてくれた。
それから、ママの作ってくれた美味しい美味しい朝ご飯を食べてから、パパと一緒に家を出た。
パパはこれから猟に行く。
ここ、私の住む村トランスファでは、一つ一つの家庭が自給自足で生活をしているのだ。
だから、どこの家庭でも、大人の男が朝一で猟に出て、その日の夕飯を仕留めて来るのだ。
リリィの家まで近づくと、見覚えのある少女が目に映る。
見覚えのある少女、それは私のお友達リリィ=アイビー。
私と同じ9歳で、可愛くて綺麗な顔立ちの女の子。
腰まで届く長髪ストレートで綺麗な白い髪は薄っすら黄緑がかっていて、太陽に照らされたその髪は風に揺られて綺麗に輝いていた。
前世の記憶が甦った私の目から見ると、リリィは身長が同い年の女の子の中では少し高く、肉付きも女の子らしい体型をしていてとても可愛い子だ。
目も細長でとても綺麗な瞳は黄緑色。
リリィはよく私の事を、小さくて可愛いとか細くて羨ましいとか目がくりくりしてて可愛いとか言うけど、私はとても女の子らしいリリィに憧れていた。
こちらに気付いたリリィは、綺麗で細長の目をさらに細めて、ニコニコ笑顔で手を振って私の名を呼んだ。
「ジャスミーン」
「リリィ」
私とリリィは何だか嬉しくなって、お互い駆け足で近づいて手を取り合うと、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。
「おはようジャスミン」
「うん。リリィおはよう。私ね、今日が楽しみで、あまり眠れなかったの」
「そうだったの? ジャスミン可愛い」
「えへへ」
リリィはすぐ私の事を可愛いって褒めてくれるけど、照れちゃうから少し困っちゃう。
「早く行きましょう」
「うん」
仲良く2人で手を繋ぎ、目的のフラワーサークルへと歩き出す。
ちなみにフラワーサークルと言うのは、綺麗な花が咲き誇る花園で、とても綺麗で素敵な所だ。
今日みたいに天気の良い日は、ピクニックに行くには丁度良い。
のんびりと目的のフラワーサークルへ向かっていると、途中でリリィが私に質問を投げた。
「ねえ。ジャスミン。ジャスミンは、将来どんな人と結婚したいの?」
「え? 結婚? うーん……。結婚かぁ。小さい頃は近所に住んでたお兄さんと結婚したいって思ってたけど、今はそうでもないしー……」
どうでも良い事だけど、前世の記憶が戻った今だからこそ思うのだけど、9歳の少女が言う小さい頃っていつなのって話だ。
「近所に住んでたお兄さん? それって――」
「あっ! 私リリィみたいに、可愛くて優しい人と結婚したい!」
「――や、やだもう! ジャスミン、私はジャスミンと同じ女の子なんだから!」
「残念。……あ。フラワーサークルだ!」
フラワーサークルに辿り着き、私とリリィは駆け足で走り出す。
あたり一面色とりどりの花がたくさん咲き誇り、花の蜜を求めて鳥さんや虫さん達もたくさんいた。
私とリリィも、なんだか楽しくなってキャーキャーと騒いで走り回った。
◇
リリィとフラワーサークルで花を見て楽しんだりお弁当を食べたり遊んだりしていると、いつの間にか日が沈む時間になっていた。
私とリリィは名残惜しみながら、フラワーサークルを後にする。
そして、楽しく2人でお話しながら、家に帰る途中の事だった。
後もう少しで村に辿り着く所まで来たのだけど、リリィが顔を真っ青にして、急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「ねえ、ジャスミン。私、フラワーサークルに忘れ物して来ちゃった」
「え? じゃあ早く、取りに戻ろう? 私も一緒に行くよ」
「ううん。ジャスミンは、このまま帰って。私1人で大丈夫だから!」
リリィはそう言うと、すぐに来た道を駆け足で戻って行く。
「あっ。リリィ!」
私の呼ぶ声が聞こえたのか、リリィは走りながら振り返り、私にいつものニコニコ笑顔を見せて行ってしまった。
リリィ、大丈夫かな……?
暫らく帰り道を1人で歩いていた私は、もう日が暮れていたのと暗いのもあり、リリィの事が心配になった。
後ろを振り返り、来た道を見る。
暗い夜道を1人で歩くのも、もちろん怖かったのだけど、そんな事よりリリィの事が心配だった私は、意を決してフラワーサークルへと走り出した。
そうしてフラワーサークルまで辿り着いたのだけれど、そこにはリリィの姿は無く、私は愕然とした。
「リリィ! リリィ!」
リリィの名前を呼び、探し回るが見つからない。
暫らく名前を呼び続けた私は、何処かですれ違っちゃったのかな?と、思い至って帰る事にした。




