199 幼女と始まるネコネコサーカス大公演
「それにしても、まさか博士に婚約者がいたなんて驚きだね～」
「まあね。私だってカザドの王女なんだ。今は自由にさせてもらっているけれど、いつまでも好きな事ばかりでは、民衆に示しがつかないだろう？ 私もそろそろ、国の為に変わらなければいけないって事だよ」
うぅ……このお話いつまで続くんだろう？
さっきからドキドキしすぎて落ち着かないよぅ。
コラッジオさんとサルガタナスのお話は、今はサガーチャちゃんとドワーフの国の跡継ぎの話で盛り上がっていた。
このまま男の子が生まれなければサガーチャちゃんが跡継ぎになるわけだけれど、ドワーフは元々昔から男の王が治めているらしくて、サガーチャちゃんでは国をまとめる事が出来ないらしい。
それで、男装中の私が次期国王と言う設定で、婚約者だと紹介されたのだ。
そんな中私はと言うと、本当に生きた心地がしない位に心臓がバクバクしてて、この場を今すぐにでも飛び出していきたい気分になっていた。
それだと言うのに、サルガタナスは私の顔をじーっと見つめてくる。
「ふーん。その婚約者は、随分とさっきから顔色が悪いみたいだよ？ 自分の話題になってから、それがさらに悪化してるみたいだし、オイラが口を出すのも失礼だけど本当にその男で大丈夫かい？ 小心者すぎると思うけどね～」
大きなお世話だよ！
と言うか、早くこの話題終わってほしいよぉ。
落ち着かないぃ。
「へ～。随分と言うじゃないかサルガタナス。私の男にケチを付ける気かい？」
サガーチャちゃんがサルガタナスを睨んでそう言うと、サルガタナスは両手を肩まで上げて苦笑する。
「お～怖い怖い。そんなつもりじゃありませんよ。カザドの民の未来を案じて、気になってしまっただけですよ」
「まあいいさ。気に入らないが、私達の事を気にかけてくれたという事で、許してあげようじゃないか」
「サルガタナス。我々の事を気にかけてくれるのはありがたいが、家族の事に口を出すなよ？」
「はいはい。コラッジオ様、もちろんわかっておりますとも」
サルガタナスはそう言うと、ニコニコしながら立ち上がる。
「さて、それでは皆さんもそろそろ開演の時間になるので、ビップ席にご案内します」
良かったぁ。
とりあえずのりきったよ。
私、偉い！
「そうか。では向かうとしよう」
コラッジオさんもそう答えて立ち上がると、サルガタナスが手を叩いた。
すると、何処からともなくライオンが現れる。
ら、ライオン！？
私が突然現れたライオンに驚いていると、ライオンがサルガタナスに向かって話し出す。
「サルガタナス様。お呼びでしょうか？」
「コラッジオ様達を、ビップ席にご案内して差し上げろ」
「はっ。かしこまりました」
ら、ライオンが喋った！？
って、あれ？
よく見ると……。
私は喋るライオンをよく見て、胸がときめく。
なんと、ライオンの尻尾がウサギのようなまん丸な尻尾をしていて、とても可愛かったからだ。
それによく見ると、足もなんだか鳥っぽい。
か、可愛いぃ！
喋るライオンが私達にお尻を向けて、首をこちらに振り向かせる。
「こちらへ」
やーん可愛い！
どうしよう？
お尻の尻尾が可愛すぎるよ！
モフモフしたい！
私は喋るライオンの可愛らしい尻尾を見つめながら、後ろをついて行く。
すると、私の横を歩くサガーチャちゃんが、周りに聞こえないように、こそこそと耳元で話す。
「ジャスミンくん、今の内に逃走経路を見ておいた方が良いんじゃないかい？」
あっ。そうだった。
危ない危ない。
「ありがとー」
私はサガーチャちゃんにお礼を言って、顔を動かさずに周囲を確認する。
うーん……こうやってよく見ると、結構しっかり作られてるんだね。
壁とかも強度が高そうだし、ここが大きなテントの中だって忘れちゃいそう。
あっ、ステージが見える。
この先が観客席みたい。
凄いなぁ。
いっぱいお客さんがいるよ。
って、え？
こっちじゃないの？
あれ？ 階段？
観客席に連れて行かれると思った矢先、近くにあった階段を上る。
そうして階段を上ると、私達はガラス張りでステージがよく見える小部屋に到着した。
あっ、そっか。
ビップ席って言ってたもんね。
「開演は五分後になります。それではごゆっくり」
私達が小部屋に入ると、ライオンがそう言って出て行った。
「ジャスたん。すわお」
私はアモーレちゃんに引っ張られて席につく。
アモーレちゃんはサーカスを楽しみにしていたようで、もの凄く目をキラキラと輝かせて、お行儀よくちょこんと座る。
サガーチャちゃんも私の隣に座って、ため息を一つ零してつまらなそうな態度をしていた。
私はそんな２人を、対照的だなぁと暫らく見ていると、周囲が少しずつ暗くなってきた。
「そろそろか」
コラッジオさんが呟くのと同時に、ステージの真ん中にスポットライトの光があたる。
そして、その光の当たる場所にサルガタナスが現れた。
私は手に汗を握って、サルガタナスでは無くスポットライトの光を出している場所に注目した。
そして、私は暗闇の中、最初の演目を披露する人物であるニクスちゃんを見つけた。
ニクスちゃん。
まだ、理由はわからないままだけど、きっと何かあるんだよね？
絶対私が助けてあげるからね。
「レディースアーンドジェントルメーン！」
サルガタナスの開演の挨拶が始まる。
ついに始まるんだ。
私はごくりと唾を飲み込んで、深く息を吸いこんだ。
そして、サルガタナスの言葉を聞き流しながら、観客席やステージの様子をよく確認する。
しかしその時だ。
サルガタナスの立っているステージの床が、突然勢いよく盛り上がる。
予想外の出来事だったのだろう。
サルガタナスは驚愕しながら、バランスを崩して転がった。
あれ？
サルガタナス程ではないけれど、私も驚いてステージに注目する。
こんな演目あったっけ？
そうだ。
パンフレット貰ったんだよね。
私はサーカスのパンフレットで演目を確認しようと、パンフレットを取り出す。
だけど、演目を確認する余裕は、直ぐに無くなった。
盛り上がったステージの床は天井を突き刺す勢いで伸びていき、それは膨らんで風船のように破裂する。
私達のいるガラス張りの小部屋のガラスに、破裂したステージの床の破片が幾つもあたり、ガラスに幾つかヒビが入る。
観客達は騒めきだし、サルガタナスは何が起こったのかわからないと言いたげな顔で周囲を見まわす。
そして、破裂した床から、バニーガールの姿をしたラテちゃんとフウさんとランさんがポーズを決めて現れた。
「ラテちゃん！？ フウさんとランさんも！？」
私は驚きのあまりに席を立つ。
そしてフウさんとランさん、それにラテちゃんが空を飛んで、天井付近で驚いていたニクスちゃんを捕まえた。
３人はニクスちゃんを捕まえると、サルガタナスを見下ろして決めポーズをする。
「「イエーイ！ この子は頂いたぜエロピエロ。サーカス台無しで、ざまあみやがれー」」
「まんまとラテ達に騙されて滑稽です。まさにピエロです」
そう言って、３人はサーカステントの天井を突き破って出て行ってしまった。
「あいつ等を捕まえろーっ！」
サルガタナスの怒声が響き渡る。
こうして、ラテちゃん達による潜入作戦は、敵も味方も観客達も関係なく巻き込んで、大成功したのだった。
う、嘘でしょう？
どうなってるのー！？
