196 幼女も時には拒まれる
スミレちゃんとアマンダさんと3人で、コラッジオさんとサルガタナスのの様子を見に来た私は、まさかの人物を見て驚いた。
その人物とは、私達が今から助けようとしている人物のニクスちゃんだ。
ニクスちゃんの姿を確認すると、私の横にいるスミレちゃんが鼻をスンスン匂いを確認しだす。
「サルガタナス様、やってくれるなのよ。この距離でも、ニクスちゃんの匂いがわからないなのよ」
どうやら完全復活したスミレちゃんの嗅覚を無効化しているようで、スミレちゃんが顔を顰めていた。
「サルガタナスはスミレを警戒している様ね」
「うん。でも、ニクスちゃんを一緒に連れて来たって事は、もしかして私達が今お城にいる事には気が付いてないのかな?」
「可能性は高いかもしれないわね」
私の疑問にアマンダさんが答えた時、ニクスちゃんがコラッジオさんに何か話しかけて、お辞儀を一つしてその場を離れた。
これは、もしかしてもしかしなくても、すっごいチャンスだよね!?
私はスミレちゃんとアマンダさんと頷き合って、その場を離れたニクスちゃんの後を急いで慎重に追いかける。
そして、ニクスちゃんの後を追いかけて辿り着いたのは……。
「トイレ?」
「幼女先輩。ここは私に任せて下さいなのです。見事にニクスちゃんのトイレに成りすましてくるなのですよ」
成りすまさなくていいよ?
「スミレ、今は冗談を言っている場合ではないわ」
「私は冗談な――」
「ジャスミン。スミレと二人で、ここを見張っているから、今の内にニクスと話をしてくるのよ」
「うん。ありがとー」
私はお礼を言ってトイレへと入る。
ちなみにニクスちゃんが入って行ったトイレは、来客兼兵隊さん用のトイレだ。
学校や電車の駅のトイレみたいに、男女別になっている。
私は女性用の方の洗面台の前で、緊張を紛らわす為に髪の毛をいじりながら、ドキドキしながらニクスちゃんを待った。
「じゃ、ジャス!?」
「あ。ニクスちゃん」
私は驚いているニクスちゃんに目を合わせて、一度だけ深呼吸をしてニッコリ微笑む。
「な、何でこないなとこにジャスがおるん?」
「実はね」
私はニクスちゃんを助けに来た事や、これまでの経緯を簡単に説明する。
すると、私の話を黙って聞いていたニクスちゃんが、無言で手を洗って、私に顔を向けずに口を開く。
「ジャスには悪いけど、ウチの事は放っておいてくれてええよ」
「え?」
私がまさかの返答に驚いて目をパチクリとさせていると、ニクスちゃんが私に一瞬だけ目を合わせて、少し俯いて言葉を続ける。
「最初は確かに誘拐されて、連れ回されとった。でも、今はそんなんやない。今は、ウチは好きでサルガタナスと一緒に行動してるんよ。せやから、ジャスに心配される必要なんてないんよ」
「で、でも」
ニクスちゃんが手で自分の胸を押さえて、少し苦しそうな表情を見せる。
そして。
「ごめんな」
ニクスちゃんは小さく呟いて走り出す。
「ニクスちゃん!」
私はニクスちゃんの手を取ろうと腕を伸ばす。
だけど、それは突然私の背後から聞こえた声に阻まれてしまう。
「あはっ。フラれちゃったわね」
私は声に驚いて振り向く。
するとそこには、ベルゼビュートと一緒に行動をしていたアスモデちゃんが立っていた。
相変わらずの大きめのタンクトップとパンツだけの姿をしたアスモデちゃんは、妖美に微笑み私と目を合わす。
「アスモデちゃん!?」
なんで?
なんでここにアスモデちゃんがいるの?
ううん。
今はそんな事よりニクスちゃんを!
私はニクスちゃんを追いかけようとしたけど、アスモデちゃんに呼び止められる。
「待ちなさい」
「ごめん。アスモデちゃん、今はニクスちゃんを――」
追いかけなきゃ。と、言葉を続けようとしたけど、その言葉をアスモデちゃんに遮られる。
「嫌われちゃうわよ」
「嫌われる? どうして?」
私は嫌われると言われた事が引っかかり、足を止めてアスモデちゃんに振り向いてしまった。
すると、アスモデちゃんが妖美に微笑みながら私に近づく。
「教えてあげる。あの子はね、サルガタナスの部下と契約をしているの」
「契約?」
「そう。契約よ。だから放っておいてあげた方が、あの子の為なのよ」
「契約って何?」
「そうね~。教えてあげても良いけど、本人の為にも黙っていてあげるわ」
本人の為?
どういう事だろう?
私に話すと、ニクスちゃんにとって都合が悪いって事だよね?
嫌われるって言ってるし、何か関係があるのかな?
「その代わりと言っては何だけど、良い事を教えてあげる」
良い事?
アスモデちゃんは妖美に微笑んで言葉を続ける。
「ベルゼビュートくんが後少しで不老不死になれるわ」
不老不死に後少しでなれる!?
じゃあ、たっくんは元の姿に戻ったんだ?
でも、それじゃあ……。
「たっくんはどうなるの?」
「用済みになれば、運が悪ければ死んじゃうかもしれないわね」
「そんなっ!?」
「まあ、そう言う事だから、もうこれ以上アナタ達は関わらない方が良いわよ。これ以上関わると――」
アスモデちゃんの雰囲気が突然変わり、私を殺気のこもった瞳で鋭く睨む。
「本気で殺すわ」
アスモデちゃんはそう言うと、殺気を消して妖美に微笑む。
「と言っても、アナタは手を下すまでもなく、もうすぐで死んじゃいそうだけど」
「え? どういう事?」
アスモデちゃんは私の質問に答える事なく、黒猫の姿へと変身する。
「私は今凄く機嫌が良いの。だから、アナタ達がドワーフと手を組んだ事は、サルガタナスには内緒にしてあげる。さて、もう会う事は無いわね。さようなら」
アスモデちゃんはそう言って、黒猫の姿のまま走り去って行ってしまった。
私は何も出来ず、ただ呆然と立ちながら、そのアスモデちゃんの後姿を見送った。




