192 幼女もたまには調子に乗る
うーん……。
私はドワーフ、そしてカザドの民と言う呼称について考える。
「コラッジオさん」
「む? 何ですかな?」
「失礼だと思うけど、この際だから言わせてもらうね」
そう言って、私がコラッジオさんの顔をじぃっと見つめると、コラッジオさんは顔を困惑させた。
「は、はあ……」
「確かに、コラッジオさんはカザドの民として立派かもしれないけど、パパとしては全然ダメだよ」
「そうね。ジャスミンのお父様の足元にも及ばないわ」
リリィ、なんでそこで私のパパ?
って、いやいや。
そんな事より……。
「コラッジオさんは、サガーチャちゃんの意見をもう少し聞いてあげるべきだよ。見てると、いつも上から押し付ける感じがして、凄く良くないなって思うもん。そんなんじゃ、サガーチャちゃんだって嫌になっちゃうよ」
「むう。そう申されましてもなぁ。これはカザドの民として誇りをもって、立派になる為の教育なのです」
コラッジオさんの答えを聞いて、私はコラッジオさんにビシッと指をさす。
「それだよ! カザドの民の誇りとか大事かもしれないけど、もっと大事な事があるはずだよ! だからカザドの民と言う呼称に縛られて、ドワーフと言われるのを忌み嫌い、大事なものを見失っちゃってるんだよ」
「しかし、ジャスたん様には申し訳ないが、我々にはカザドの民として――」
「あら? 私は別に、ドワーフと呼ばれても気にならないわよ」
と、ベッラさんがコラッジオさんの言葉を途中で遮る。
「わたしもー!」
更に、アモーレちゃんがベッラさんに同意して、笑顔で大きく手を上げた。
「コラッジオさん。私はコラッジオさんの呼称に対してこだわる思いは、凄くわかるよ。だって、私もコラッジオさんにジャスたんって言われるの、本当は少し抵抗があるんだもん」
コラッジオさんが虚をつかれたかように、目を見開いて驚く。
「でも、コラッジオさんは親しみを込めて、私をジャスたんって呼んでくれてるんでしょう?」
「そう……ですな。仰る通りです」
「うん。だから、それと一緒だよ。ドワーフって呼ぶのは、それは馬鹿にしてるとか貶してるとかじゃないの。少なくとも私は、ドワーフって呼称は好きだよ」
「好きですか?」
「うん。私はドワーフって聞いただけで、可愛いなって思うもん。だから、私はドワーフっていう呼び方が好きなんだよ。だから、コラッジオさんも、もっと気楽に考えようよ。別に呼ばれ方なんて、なんだって良いんだよ。大事なのは、自分がどう生きるかなんだよ」
私が最後に笑顔を向けて言うと、コラッジオさんは目をつぶって、ゆっくりと息を吐き出した。
そして、コラッジオさんは目を開けて、私に目を合わせて微笑んだ。
「仰る通りですな……。どうやら、私は大事なものを見失っていた様です」
そう言って、コラッジオさんはゆっくりと腰を下ろした。
そんなコラッジオさんを見て、私も椅子に腰かけようとしたその時、私の肩の上に座るトンちゃんがボソリと呟く。
「ご主人も言う様になったッスね」
私はその言葉で冷静になって、椅子に腰かける途中で固まる。
やっちゃった!
やっちゃったよ!
私なんだか凄く偉そうだよね!?
うぅ……調子に乗っちゃったよ。
自分の自論を押し付けるような事を言っちゃったし、好きだからだとかバカなの私!?
って言うか、どう生きるかとか、9歳の子供が偉そうにも程があるよ!
もう、本当やだ。
私、絶対もの凄く恥ずかしい奴じゃんか……。
私は途端に恥ずかしくなり、両手で顔を隠しながら椅子に座る。
すると、プリュちゃんとラヴちゃんが私の膝の上に座って、笑顔を向けてくれた。
「よくわからないけど、アタシもドワーフって可愛いと思うんだぞ」
「がお」
可愛すぎて癒される~。
2人のおかげで、ちょっと気持ちが楽になったよ。
「そうッスか? むしろ、ぶっさいくな感じッスよ」
「そうね。私はドワーフって聞くと、泥まみれのイメージだわ」
「私はおっさんのイメージが強いなのよ」
こらこら。
それは偏見だよ。
流石にそんな事言ったら、コラッジオさんがまた怒っちゃうよ?
私はチラリと横目で、コラッジオさんに視線を向ける。
すると、私はコラッジオさんの意外な反応を見て驚いた。
「わっはっはっはっ! ぶさいくで泥まみれのおっさんか!? 間違いない!」
あれ?
怒らないの!?
なんだぁ。
私の取り越し苦労かぁ。
良かったぁ。
「あはははは。ジャスミンくん、やっぱり私は君の事、好きだなぁ」
「えっ?」
私がサガーチャちゃんの発言に驚いて振り向くと、サガーチャちゃんはニマァッと笑みを浮かべた。
それから食事を終えて、皆で楽しくお喋りをしていると、フェルちゃんが私に頭を下げてきた。
「遅くなりましたけれど、お助け出来なくて申し訳ありませんでしたわ」
私は急にそんな事を言われたので、口を開けて頭に?を浮かべる。
「実は、昨日あなた方と別れた後、コラッジオから罰を与えられたビフロンスを見つけましたの。ビフロンスはお風呂掃除をやらされていて、一人では大変だと思いまして、手伝って差し上げていたのですわ」
「そうなんだ? 気にしなくていいよ」
私はそう言って、フェルちゃんの頭を撫でる。
すると、フェルちゃんはニコッと私に笑顔を向けた。
「そう言って頂けると、助かりますわ。ジャスミン、ありがとうですわ」
「うん」
私達が2人でニコニコと笑っていると、それを聞いていたリリィがフェルちゃんに訊ねる。
「お風呂掃除が一人だと大変って、そんなに広いお風呂なの?」
「そうですわね。とても広いんですのよ。おかげで、二人だけで掃除をしたので、終わらせるのに丸一日かかってしまいましたわ」
え?
それ広すぎじゃない?
「ふーん。ねえ、ジャスミン」
「うん?」
「せっかくだし、その広いお風呂ってのに、入ってみましょうよ」
「うーん……。私も入ってみたいけど、人様の家のお風呂だし……」
私がリリィにそう話すと、アモーレちゃんが私に抱き付いた。
「わたしもジャスたんと、おふおにいっしょにはいう!」
「いいね。折角なのだから、皆でお風呂に入ろうじゃないか」
アモーレちゃんの言葉にサガーチャちゃんが賛同して、椅子から立ち上がる。
「決まりね。行きましょう? ジャスミン」
そう言って、リリィも椅子から立ち上がって、私の手を握る。
「あはは。うん」
私は苦笑してリリィの手を握り返して、椅子から立ちが上がる。
「やったー」
アモーレちゃんも喜びながら、リリィとは反対側の私の手を握ったので、私もアモーレちゃんの手を握る。
「さあ、こっちですわ」
そんなわけで、私達はフェルちゃんの後に続いて、お風呂場へと向かった。




