191 幼女と王様は和解しました
「わっはっはっはっ! ジャスたん様は誠に心広き素晴らしいお方だ!」
私の背中が叩かれて、食堂にバンバンと大きな音が鳴り響く。
あのぅ……。
そのジャスたん様って言うの、やめてもらえないかな?
なんか私にだけ、接し方というか話し方というか、凄く変わっちゃったし……。
それに、凄く背中が痛いんだけど?
ドワーフの男の人って、皆こうなの?
私は気分良さげに私の背中をバンバンと叩いて話すコラッジオさんに、非難の目を向けながらオレンジジュースを一口飲んだ。
離婚騒動が終わってから、私はお城に改めて招待されていた。
それで今は、豪華な料理を頂きながら、皆で談笑中だ。
私はオレンジジュースを飲みながら、一緒にお呼ばれしているアマンダさんを見て考える。
アマンダさんって、本当に凄いよね。
あの作戦を言い出した時は、本当に心配になったけど、流石だったんだもん。
私がリリィを助ける為にお城に乗り込んだ時に、アマンダさんとスミレちゃんの2人は、鉱山街の出入口に向かって行ってもらっていたのだ。
何故なら、お城の高い塀の上から、お城を見渡せる場所だったからだ。
そして、スミレちゃんが私とリリィの匂いで私達の位置を常に把握して、アマンダさんが遠距離射撃をするのに適したのがそこだった。
だから食堂から出た場所が鉱山街の出入口の反対側で、アマンダさんが狙えない場所だったから、ちょっとだけ焦ってしまったりもした。
結果的には、コラッジオさんがビフロンスを吹っ飛ばして、追う事で射程内に入ったのだけども。
「私としては、あのまま離婚でも構わなかったんだけど、ジャスミンくんに免じて今回は目をつぶろう」
「あはは……」
サガーチャちゃんがパンケーキを食べながら辛辣と話すので、私は苦笑した。
リリィから聞いた話とコラッジオさんの行動を聞いてわかったのだけど、コラッジオさんはお后様を上手に回避していたようだ。
昨日、私がスミレちゃんを助ける時の騒動で、コラッジオさんはずっと動き回っていたようで、寝室に行かなかったらしい。
それでお后様と顔を合わせないまま夜が明けて、お昼頃にお城を出てサルガタナスの所に向かったらしい。
おかげで私がいる目の前で、離婚騒動が起きて、私に救ってもらえたと感謝された。
「コラッジオ、飲み過ぎですわよ。そういう所は、本当に昔と変わってないですわ」
フェルちゃんがコラッジオさんにビシッと指をさす。
すると、リリィが私の横でコラッジオさんを睨みながら、オレンジジュースを飲み干して口を開く。
「ラテが言っていた居酒屋によく来る絡み酒がウザいドワーフって、この勘違い王だったのね」
「あら? ラテールってば、そんな事を言っていましたの? その通りですわ」
「わっはっはっはっ! 酷い言われ様だな!」
コラッジオさんが笑いながら私の背中を叩いて、お酒を一気飲みする。
痛い!
痛いってば!
リリィがコラッジオさんを今にも殴りだしそうな勢いで睨む。
少し驚きなのだけど、人に暴力を振らないと言うリリィとの約束は、今も継続中らしい。
思い返せば、コラッジオさんが私に襲い掛かって来た時も、確かにリリィは自分から暴力をしてはいなかった。
それっぽい事が何度も起きたけど、全部本人の意志とは関係なかったのだ。
「ジャスたん様、一つお聞きしてもよろしいか?」
「え? うん」
コラッジオさんが急に真顔になって私に話しかけてきたので、私は苦笑交じりに返事をした。
すると、コラッジオさんが周りに聞こえないように、こそこそと私の耳元で話しだす。
「私がサルガタナスの力を借りて、妻ベッラの胸を大きくしようとしていた事が、何故わかったのですか?」
え?
「驚きました。ジャスたん様の噂は、私も常々耳にしていましたが、まさかそんな事までお見通しとは。恐れ入ります」
待って?
私が適当にその場しのぎで言ったあの言葉って、本当の事だったの!?
えーと、つまり……?
サルガタナス本人は透明になるあの能力の筈だから、仲間がおっぱいを大きく出来る能力って事だよね?
うわぁ……。
私はまだ見ぬおバカな能力に、ドッと疲れを感じて顔を青ざめさせる。
コラッジオさんは質問に答えず顔を青くさせた私を見て、首を傾げた。
すると、リリィが私の顔を見て、心配そうに話しかけてきた。
「どうしたの? 顔色悪いわよ?」
「ううん。なんでもないよ」
私が苦笑して答えると、リリィは首を傾げた。
するとその時、スミレちゃんが椅子から立ち上がり、私に視線を向けてきた。
「幼女先輩、良い事を考えてしまったなのですよ!」
良い事?
「王様と和解した事をサルガタナス様に気が付かれないようにして、明日のサーカス公演の時にそれを利用して、ニクスちゃんを助けるなのですよ!」
「うん。それが良いんじゃないかな? ドワーフ兵をジャスミンくん達で自由に使ってくれれば良いさ」
スミレちゃんの提案に、サガーチャちゃんが賛同すると、コラッジオさんがサガーチャちゃんを見て顔を顰める。
「サガーチャ。我々はカザドだ。ドワーフなどでは無い」
コラッジオさんの言葉を聞くと、サガーチャちゃんがため息を吐き出して、コラッジオさんに視線を向けた。
「またそれかい? 本当にいつになっても、くだらない事を言う人だね」
「なんだと!?」
コラッジオさんが立ち上がり、サガーチャちゃんも負けじと立ち上がって、2人は睨み合う。
そして、私もつい勢いにのまれて、一緒に立ち上がってしまった。
すると、2人が私に視線を向ける。
な、何か言わなきゃ。
私は雰囲気にのまれて、何故か若干パニックになり口を開く。
「お、落ち着いてよ2人とも。せっかく仲直り出来たんだし」
「そうだぞ。主様の言う通りなんだぞ」
「がお」
「そうは言うけどジャスミンくん。この男は、たかが呼称に縛られて、大事な物が見えていない。だから、魔族に騙されて今回の君達を苦しめる様な、醜い事をしてしまったんだ」
「そうかもしれない。だけど、それって別にいけない事じゃないと思う」
「ジャスたん様……」
「たしかに結果は良くなかったかもしれないけれど、それは凄くコラッジオさんが熱い心を持っていて、同族を愛する心を持った素晴らしい人だったからだよ」
「被害者のジャスミンくんにそんな事を言われてしまっては、私は何も言えないよ」
サガーチャちゃんはそう言うと、私に微笑んで椅子に座った。
すると、コラッジオさんが私の背中を叩いて笑い出す。
「流石はジャスたん様だ! わかっていらっしゃる。そうだぞサガーチャ! これからは、お前もカザドの民として、立派になれ!」
痛い、痛いってばぁ。
それにしても、カザドの民……かぁ。
私は背中の痛みを我慢しながら、カザドの民と言う言葉について深く考えた。




