190 幼女は王様に同情する
サガーチャちゃんとアモーレちゃんとお后様の登場で、死んだ魚のような目をして膝をついたドワーフの王様は、涙を流しながら立ち上がる。
そして、ドワーフの王様は涙を拭って、アモーレちゃんとお后様を交互に見た。
「とにかく、お前達が無事で良かった。私はお前達が死んだとばっかり……」
うんうん。
誤解が解けて良かったよ。
これで、一件落着かな?
と、思った時期が私にもありました。
相変わらずドワーフの王様を睨みつけるお后様は、スッと何かを取り出した。
すると、サガーチャちゃんがアモーレちゃんの目を手で覆う。
「ちっとも良くないわ。アナタ、これは何?」
お后様が取り出したそれを見て、ドワーフの王様の顔がみるみると青く染まっていく。
え? 何?
「あら? あれは……」
いつの間にか私の横に立っていたリリィが呟く。
私はなんだろう? と気になって、お后様が持っていたそれを見て首を傾げた。
爆乳娘とドキドキランデブー?
え?
もしかして、エロ本?
「私が見つけて、机の上に置いたエッチな本ね」
えぇーっ?
リリィ、それ、やったらダメなやつ!
思春期男子の精神をズタズタに引き裂く恐ろしい行為だよ!
私は恐る恐るドワーフの王様に視線を向ける。
ドワーフの王様は大量の汗を流しながら、わなわなと震えていた。
「べ、ベッラ、何故それを?」
「寝室の机の上に置いてあったのよ」
「馬鹿な!? しっかりベッドの下に隠してお……っは!」
ドワーフの王様が慌てて自分の口をふさぐ。
ベッドの下って、一番隠しちゃダメな所だよ。
「ふーん……。やっぱりアナタの本だったのね」
「ち、違うんだ! それは、その、そう! 教養だ! 教養の為にだな!」
教養って、うーん……。
あながち間違ってないのかも?
って、いやいやいや。
その言い訳はダメだよ。
最低だよ。
「教養?」
お后様とサガーチャちゃんが、ゴミを見るような目でドワーフの王様を見る。
ほらぁ。
私がドワーフの王様に呆れていると、気を失っていたフェルちゃんが目を覚ましたようで声を上げる。
「こ、今度は何がどうなってますの?」
良かった。
フェルちゃん、目を覚ましたんだね。
「勘違い王が隠してたエッチな本が見つかって、ざまぁな展開ッス」
こらこら、トンちゃん。
「あー。昨日ビフロンスが買いに行かされてた本ですわね」
え?
昨日?
私はアモーレちゃんの護衛をフェルちゃんに任せて、1人別行動をしていたビフロンスと会った昨日の出来事を思い出す。
そうだよ。
あれって本当はアモーレちゃんのお忍び中に、アモーレちゃんに内緒で、ビフロンスが王様に頼まれているエロ本を買う為だったんだ。
「昨日ビフロンスに買いに行かせたですって?」
お后様が怒りをあらわに震えだす。
「フェール! 貴様、裏切ったな!?」
「裏切ったのはどっちよ!」
「ひぃ! すまんベッラ! 許してくれー!」
あっ。
王様が土下座しちゃったよ。
「アナタの考えは、よーくわかったわ。そうよね。私はこの通り胸も無いし、アナタの大好きなこのエッチな本に出て来るような女の子と比べて、とても貧相ですものね」
お后様がドワーフの王様にゆっくりと近づく。
「コラッジオ。アナタがこの事を、言い訳もせずに素直に謝ってくれるのなら、許すつもりではあったけど……」
お后様がエロ本をドワーフの王様の顔に投げ飛ばす。
「離婚よ!」
「な……っ!?」
あわわわわわ。
本気でやばいよ!
王国の危機だよ!
でも、流石にサガーチャちゃんも止めるよね?
「それが良い。こんな男、私もいつまでも父親として見ていたくはないからね」
サガーチャちゃんもすっごい怒ってらっしゃる!
アモーレちゃん!
最後の砦はアモーレちゃんだよ!
「おねさま。いこんってなあに?」
「アモーレ。離婚と言うのは、お母様と糞親父がもう一緒に暮らさないって事なんだよ」
糞親父ってサガーチャちゃん、言い方考えよ?
「やだ! なんでいこんすうの?」
アモーレちゃんが目を潤ませる。
「糞親父はお母様の見た目が気に入らないから、お母様をいじめて傷つけたんだ。だから、離婚するんだよ」
サガーチャちゃんがアモーレちゃんにそう説明すると、アモーレちゃんがドワーフの王様を睨む。
「おとさまだいきらい! おかさまがかわいそう!」
「アモーレッ!?」
ドワーフの王様がアモーレちゃんの名前を呼んで号泣しだす。
う、うわぁ。
もう目も当てられないよ。
今まで一部始終を見ていた兵隊さん達が嘆き出す。
可哀想だとか、卑劣な王だとか、兵隊さん達は皆お后様の味方のようだった。
「頼む! 考え直してくれ!」
お后様のドレスを掴んで、すがるように頼むドワーフの王様の姿は、最早さっきまで感じていた威圧感は無い。
あるのは、ただただ惨めで可哀想な、エロ本が見つかっただけで離婚話をきりだされてしまった男の姿だ。
「主様。なんだか可哀想なんだぞ」
「がぉ……」
「自業自得ッスよ」
「あ、あはは。うん。まあ、そうかもだけど……」
元々は前世で男だった私にはわかるけど、たかがエロ本なんだもん。
エロ本如きで、あんな怒る事でもないじゃんって、正直思うんだよね。
流石に王様が可哀想だよ。
私は一つため息を吐き出して、ゆっくりとドワーフの王様とお后様に近づく。
「ジャスミン?」
私はリリィに呼ばれて少しだけ振り返り、微笑んでからまた前を向いた。
そして、ドワーフの王様の横に立ち、お后様に視線を向ける。
「この人が酷い事をして、ごめんなさいね」
「ううん。それはもう、別に良いよ。それよりお后様、失礼だと思うけど、聞いてほしい事があるの」
「聞いてほしい事? 今じゃないと駄目な事かしら? 今は、この通り忙しいの」
「今じゃないと駄目な事だよ」
私がお后様の目を真っ直ぐと見つめて話すと、お后様が少し困った顔をして微笑した。
「何かしら?」
私はお后様が聞く耳を持ってくれた事に安心をして、ドワーフの王様に触れてお后様を真っ直ぐ見て話す。
「王様を、許してあげて欲しいの!」
私がそう言うと、ドワーフの王様が驚いて、お后様は眉根を少し上げる。
「まだ子供な私だけど、それでも私はお后様と同じ女だから、気持ちは凄くわかるよ。だけど、お后様、まずは冷静になってみてほしいの」
「冷静? 私は十分冷静よ」
「ううん。そんな事ないよ。王様は、このエッチな本を、教養の為だと言っていたでしょう?」
私はエロ本を拾って、お后様の目の前にかざす。
お后様は、私が目の前に出したエロ本を、汚物を見る目で見る。
「それは、この人の苦しい言い訳じゃない」
「ううん。違うよ。これは、文字通り教養をする為に、王様が見てたんだよ!」
私は力強く声を上げて、お后様に真剣な眼差しを向ける。
そして、ゆっくりと静かに言葉を続ける。
「お后様、気が付いてる? 王様が3人目は男の子が良いなって思ってる事」
「え!?」
私の適当に出したその場しのぎの言葉に、お后様とドワーフの王様が驚いた顔で私に視線を向ける。
私はドワーフの王様に視線を向けて、目が合うと小さく頷く。
王様、私の意図を読み取って!?
と、願いながら、私はお后様に視線を戻して言葉を続ける。
「でも、長年の夫婦にも、色々とマンネリが起こるのは仕方がない事でしょう? だから王様はたまにお城を抜け出して、サルガタナスに相談して、お后様のおっぱいを魔族の能力を使って大きくしてもらおうと考えたの!」
私は自分で何言ってんだこいつと思いながら、手を広げてオーバーリアクションをする。
「そして、来たるべき戦いの日に備えて、この本を教養として見ていたんだよ!」
「左様。この娘の言う通りだ」
私の言葉にドワーフの王様は頷いた。
「そ、そうだったのね!?」
お后様が驚愕し、一歩後ずさる。
私は何とか誤魔化せたと安心して、微笑んだ。
「たしかに、王様は最低だけど、お后様への愛は最高だよ。お后様の事を、誰よりも愛しているんだもん」
私がそこまで話すと、お后様の顔から優しい笑みが零れ、ドワーフの王様に視線が向けられた。
「コラッジオ、ごめんなさい。うふふ。駄目ね私ったら、つい頭に血が上って、アナタの事を分かってあげられていなかったわ」
お后様が優しくドワーフの王様に話しかけて手を伸ばすと、ドワーフの王様はお后様の手を両手で掴む。
「良いのだ。私の方こそすまなかった。お前にちゃんと相談するべきだったんだ。ベッラ、許しておくれ?」
「ええ。もちろんよ」
お后様が心の広い人で良かったぁ。
自分から言いだしておいてなんだけど、正直なんの言い訳にもなってなかったもんね。
こうして、ドワーフの国の危機は消え去り、私達とドワーフの戦いも幕を閉じるのであった。
「なんスか? この茶番」
こらこら。トンちゃん。
そうかもだけど、そう言う事を言っちゃダメだよ。




